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夢から醒めない、えいえんに。  作者: 古池 鏡
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 どうやらここは銭湯らしい。馬鹿に広くて、先の壁がもやもやと曖昧になっている。からんころんと甲高い響きが定期的に聞こえる。

ぼくの目の前には背名かにヒグマを背負った老人がいる。彼が動くにつれて、そのヒグマは形を変える。またからんころんと聞こえた。

老人がこちらを向いた。その鋭い目つきでぼくをじろりと見ている。蛇に睨まれた蛙のように、ぼくは動けない。彼はいつまでもぼくのことを見ているようであった。

ふいにひゅるひゅるひゅるという音が聞こえた。なんだか引っ張られるようで、風呂のヘリに捕まって、前を見ると、老人がくるくると自転している。

どうしたのですか、と聞こうとすると、彼はすぽんと云う音を起こして消えた。それから幾人が、ひゅるひゅるひゅる、すぽんと消えた。

どうやら水が排水溝に飲み込まれていくようで、ぼくもその流れに飲まれた。ひゅるひゅるひゅると耳元で聞こえた。すぽんと頭の上で聞こえた。

狭い水たまりの中にいた。ずっと上に明かりが見えるが、その明かりはここまで届かずに、真っ暗闇であった。手を伸ばすと石組に触れた。足元では水がぴちゃぴちゃと云っている。

どうやら枯れ井戸らしいと思った。しかしそこにいても仕方がないので、登った。少しの凹凸に指をかけて登ると、すいすい登れた。目が眩しくてちかちかする。それに慣れて登りきると、そこは大きなお庭だった。池があって茶室があって、蔵があった。ぼくは迷わず蔵に行った。中からけけけという笑い声が聞こえた。頑丈に閉められた鍵を開けると、ケモノが飛び出してきた。そうして奴は池に向かって、鯉を捕まえて食べた。なんだか急に腹が立って、落ちている石を奴に向かって投げるとケモノは飛び上がって、けけけと笑った。殺してやろうと思った。それから石を投げ続けた。そのどれかが当たったのか、彼はぐったりと倒れた。ぼくはそれを井戸に投げ捨てた。しかし井戸の底からは、元気そうにけけけと鳴く声が聞こえて、恐ろしくなった。


「これはあなたが書いたのでしょう?」

「ええ、しかし……」

「創作だから関係がないとでもいうのですか? しかしあなたが逃がしたのは事実ですよ」

「もし私がやったとしても、どうやって捕まえるのですか?」

「あなたが再び夢の世界に這入ればいいでしょう」

「どうやって?」

「さあ、あるいはもうその世界にいるのかもしれませんよ……」

 俵藤さんは意地悪そうに笑っている。


 外では相変わらずどうどうとうるさい。

 私と俵藤さんは傘を差して歩いていた。彼は夢のお庭が本当にあなたのお庭であったとは信じられないという私の言葉を聞くと、では行きましょうと云った。

 店を出る時、振り向くと、店主は怯えたようで、何故だか悲しそうな顔をしていた。

 俵藤さんと用水路に沿うように歩く。どうどうと地響きがする。辺り一面だれもいない。私たちは無言で歩き続けた。

 もうすでにこれが夢なんじゃないかと何度も思った。それくらいにうるさくて静かで、曖昧な世界であった。

 


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