第六話:ケモ娘と初めての体験をしました。
寝不足で頭がぼんやりする…。
あまり眠れなかった。
となりでスヤスヤと寝ているアコが羨ましい。
アコの寝顔を見ていたら全く眠れなかった。かわいすぎる。
そうだ逆に考えるのだ眠れなかったのではなく眠らなかったのだと。猫耳娘の寝顔を見るためだったのだと。
なんだかちょっと得した気分。
今何時くらいなんだろう。
ダンジョンのなかはずっと薄暗いから時間がわからない。時計欲しいな。
ダンジョンスキルで時計を出せないか思い浮かべてみたら出せなかった。
この出せるものと出せないものの違いはなんなんだ…。
眠たい頭でまったくできない推理をしていたらアコが起きる。
「アコ、おはよう」
「おはよぉございます、マスタぁ」
目をこすりながら挨拶を返すアコ。
眠たそうにしてまだ完全に覚醒してないな。
朝は弱いらしい。
オレンジジュースを2つ出してアコに渡す。
「あ、ありがとうござますっ!」
耳をピクピクさせて満開の笑顔を向けてくれる。
朝から幸せです。
「ご飯は外に出て食べようか、近場に水場があると顔とか洗えるんだけど…」
あ、出せばいいじゃん。
水場水場…25ポイントか。
現在が43ポイントだっけ?
迷いどころだが水場を出せばこれから飲み物のポイントを節約できるし、だすか。必要経費だ!
《ダンジョン魔力25ポイント消費。現在18ポイント。》
「きゃっ!」
いきなり近くに小さな泉出来て驚くアコ。
ふむ、水は綺麗だ。そこから湧き出ているのかな?多分飲める…と思う?さすがに自分で出した水を飲んでお腹壊したとか笑いばなしにもならない。でも、召喚?するときに飲める泉を想像したから大丈夫だろう。
忘れずに昨日使い切った水を入れていた革の水筒にも水を補給しておく。いまさらだけど革の水筒付きで1ポイントはお買い得だったのでは?
「ほら、アコも顔を洗うか?」
「は、はいっ」
「タオルがないけど我慢してくれ、節約できるところでは節約しなければ」
「は、はい…?」
そういえばダンジョンポイントのことを話してなかったけ。
「俺は魔力を使って色々なものを出せるんだ。だけど、もう魔力量が残り少なくてな。」
「マスターってすごいのっ」
「アコも似たようなものだろう?」
「こんな美味しいものを出せるマスターの方がすごいの。ずっとどこから出してるんだろうって不思議だった。」
「さて、今日は馬車が向かっていた方へ行き、町や村があればそこで情報収集するつもりだけどそれでいいか?」
「町…は、はい。」
やっぱりまだ人間が多いところへは行きたくないんだろうな。
「大丈夫だ、アコのことはちゃんと俺が守るから。」
アコの頭を撫でながら勇気付ける。
アコのためにとここで村や町に行かなかったら結局どうしようもなくポイントが尽きて野垂れ死ぬだけだしな。
「何か聞きたいことはあるか?」
少し顔を赤くしてうつむきがちなアコに聞く。
「ま、マスターの…名前。名前まだ聞いてないの。」
「名前?」
そういえば名乗ってなかった。
アコが目覚めて自然とマスターと呼んでいて浮かれていたのか気づかなかったな。
しかし、ここで名前を名乗るべきか。別に恥ずかしいってわけじゃないが、マスターと呼ばれなくなるのが寂しいような。
素直に名乗ってマスターと呼ぶように促せばいいか?
「カケルだ、橘カケルだ。普通の名前だろ?今まで通りマスターって呼んでくれ。」
「たちばな…かける。」
「ああ。」
「あ、ありがとうなの。マスター。」
「このくらいどうってこともないさ、他に何かあるか?」
「大丈夫なの。」
「じゃあ、とりあえず外に出ようか。」
「はいっ!」
機嫌よく嬉しそうに答えるアコ。
うーんっ、今日も一日素晴らしい日になりそうだ!
アコを後ろに連れて元気よく扉を開く。
バタンっ!
元気よく閉めた。
「どうかしました?マスター?」
「い、いや、その…」
もう一度扉を少し開ける。
見えるのは昨日出した簡易キャンプのなか。
そして、その中に寝そべる緑色の小人。
ゴブリンだ。
アニメとか漫画とかのまんま、ザ・ゴブリン!って感じ。
ゴブリンと目が合う。ゴブリンがなにやら叫ぶ。
扉を閉める。
しばらくして扉がゴンゴンと音を立てる。ゴブリンが開けようとしているのだろう。
「アコ!ベットのところまで下がっとけ!」
「は、はい!」
すぐになにか危ないと思ったのか走って戻る。うん、ちゃんと指示に従いすぐに実行するいい子だ。
さて、この状況どうするか。
見た感じ5体いた。もしかしたらまだいるかも。
どいつも腰布一枚で弱そうだったけど、こっちは丸腰。あっちはなにやら棍棒とか持ってるんだろうなぁ、それっぽいの転がってたし。
沼をだすか?うまく扉の広さをカバーできそうだがやっぱり少し範囲が狭い気がする。
ほかになにか適した罠はないか、考えろ!
落とし穴?いや、おそらくこれも沼と同じ大きさだろう。二つ三つとできるだけたくさんポイントを使いたくない。
ほかにはどんなものがあるっ、罠、罠、罠。
いや、むしろ広い落とし穴を想像して出せばいいのでは?ポイントかさばるかな?いや、わざわざ穴を何個も出すよりはマシだ!ポイントはもう諦めよう!
《ダンジョン魔力15ポイント消費。現在3ポイント。》
ダッシュで後ろに下がり落とし穴を出す。
半径2〜3メートルくらいある丸い落とし穴だ。
抑える者がいなくなった扉が勢いよく開く。
6体のゴブリンがなだれ込んでくる。
そのまま入ってきたものから綺麗に穴に落ちて行く。
穴で正解だったな。
沼だったら沈むのに時間がかかってもしかしたら一匹目を踏み台にして飛び越えられたりとかしていたかもしれない。
6体目のゴブリンだけ穴に落ちずに踏ん張ったようだ。
ゴブリンがこちらを見てさらに穴を除く。
諦めたのか走ってドアをくぐり逃げていった。
終わったか?
穴に近づく。音がしない。みんな即死だったのかな?
落とし穴は思ったよりも深かった。そこが暗くて見えない。
松明とかあれば見えそうだけど持ってないしな。
まあ、無残な死体をわざわざ見たいわけでもないしいいか。
さて、この穴…どうしよう?
さすがに消すのはもったいない。
「マスター、おわった…の?」
「ああ、アコ、無事か?」
「わ、私はすぐに逃げたから…ま、マスターこそ大丈夫なの?」
「見ての通りさ、それよりこの穴をどう埋めよう。これをどかさないと外に出られないや。」
「ま、マスターが出していた床とかを置けないんですか?」
「いや、そうしたいんだけど魔力がなくてだせ…」
そういえばポイントは人間を倒したら増えた。ゲームのように、増えた。
ゴブリンを倒したらどうだ?
増えてるのかな?
オレンジジュースを出して見るか。
《ダンジョン魔力1ポイント消費。現在21ポイント。》
「増えてる…。」
「マスター?」
「いや、ゴブリンを倒したから魔力が増えたみたいだ。床を出せるぞ。」
「よかったの。さすがマスターなのっ」
アコが俺のことを褒めてくれるが、目が完全にオレンジジュースに行っている。
「飲むか?」
「い、いいの?」
遠慮がちにいうが、目がオレンジジュースに釘付けだ。
苦笑しながらアコにオレンジジュースをあげる。
「アコはほんとにオレンジジュースが好きだな。」
「おれんじじゅーすと言うんですね。とってもおいしいのっ!」
「アコはオレンジジュースを知らないのか?」
「集落にはこんなおいしいのみものはなかったの。」
「そうなのか。」
やっぱり森の中だけに原始的な暮らしだったのだろうか?
とりあえず穴を埋める床を出して蓋をする。大丈夫だよなこれ、落ちないよな?
踏んだり蹴ったりして確かめる、ビクともしないし大丈夫だろう。
「よし、戻ってご飯を食べるか、さすがにゴブリンがいたところで食べなくないしな。」
「はいっ!」
嬉しそうに耳をピクピク、尻尾をフリフリと可愛くついてくるアコとベットがわりの床へともどる。
考えるのも面倒なのでこの前と同じ肉サンドイッチを2つ出してから気づいた。
肉サンドイッチ2つで6ポイント。
特大チキン丸焼き5ポイント。
おふ…やってしまったな…。
つ、次から考えよう。
損した気分になったけど、美味しそうに食べるアコを見ているうちにどうでもよくなった。ほっぺにクリームつけてかわいいなぁ。
「ほっぺにクリームついてるぞ」
「あ、ありがと…なの」
顔を真っ赤にしながらお礼を言うアコ。
うん、サンドイッチで正解だったよ。
俺は間違ってなかった。
「よし、今度こそ出発しようか!」
「はいっ!マスター!」
お腹いっぱいで幸せいっぱいなアコが元気よく答える。
初めての魔物殺しだったけど森ではよくあったことなのかな?
ダンジョンから出て、歩き始めてそんなことを思う。
「アコ、アコがいた場所では魔物を殺すこととかはよくあることだったのか?」
「森は魔物いっぱいなの。食べるためにも倒すし、食べられないためにも倒さないといけないの。」
「厳しい場所だったんだな。」
「でも、ここは魔物いないけど、人間がいっぱいで…怖いの…。」
「やっぱり町に行くのは怖いか?」
最悪町に行かなくても魔物を倒せば生きていけることに気づいたし、嫌ならそうしてもいい。
「だ、だいじょうぶなの!マスターがいるから、アコ、がんばるのっ」
「そっか、でも、我慢しすぎず辛かったらちゃんと言うんだぞ?」
アコの頭を撫でながらそう言う。
「わかったの。」
少し顔を赤くしながらそう答える。
「さぁ、いこう。心配しなくても俺はずっと一緒さ。」
アコの手を取り、アコの髪と同じ澄み渡った青い空の下を共に歩く。
いや、ごめんちょっと嘘ついた。わりかし曇ってる。
気持ちの問題だからこういうのは!
初めての魔物殺しです。期待していた方々申し訳ない。そのうちそういう機会もめぐってくるやも、しれません?