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第三十六話;ケモ娘のダンジョンに初めてのお客様です。

そのあとは来た道を通り穴を塞ぎながら戻った。

看守を殺した時に少し音を出してしまったから、誰かが見に来るかと思って心配していたがそんなことはなかった。


「ふぅ…。とりあえず外に出れたな。」


薄く赤色に輝く2つの月に照らされたアコが攫われていた倉庫をみる。


《ダンジョン魔力39ポイント消費。現在2396ポイント。》



倉庫が音を立てて崩れ落ちる。

近隣の住人が騒ぎ出す。

すぐにアコの手を引き路地に入って暗闇へと溶け込む。


しばらく歩いてから狭い人の通らなそうな目立たない路地の壁を選び、


「アコ、ここに扉出せるか?いつもみたいな大きいのじゃなくて、小さいのでいい、しゃがむと入れるくらいのやつ。」


このまま宿に戻っても危ないだろう。

この路地なら人もあまり通らないだろうし、入り口を小さくしておけば気にする人はなかなかいないだろう。


「念のために扉の場所はいつもの場所ではなく離れた大樹の裏側にしてくれ。」


「わかったの。」


周りに人がいないか警戒し、アコが小さな扉を開く。

アコから先にダンジョンに入り、もう一度周りに人がいないか見渡して後に続く。


「アニー、無事だったか。」


「カケルっ!」


大樹の家の中で椅子に座っていたアニーが走り寄ってくる。

俺のそばにいるアコを見るやいなや、


「アコちゃん!!」


アコに思いっきり抱きつく。


「アニー先生…い、いたいの。」


それでも離さないアニー。


「本当に心配したんだからっ!いきなりアコちゃんが扉出して中に入れっていうから入ったと思ったら扉が消えてっ!アコちゃんが心配で心配でたまらなかったのよ!」


なるほど、説明は省いたらしい。

そんな時間がある場面じゃなかったしベストな行動ではなかったのだろうか。俺が来なかったら確実にアニーは癒えないトラウマができていただろう。


「ごめんなさいなの…。」


アコがそう謝ると、


「謝らないでよ。謝らないといけないのはこっちなのよ。それにね…。」


抱きつくのをやめて、アコの目を見ながら言ったアニーがゆっくりと言った。


「ありがとう。私のためにしてくれたんでしょう? アコちゃんは本当に強い子なのね。」


アニーの目からは小さな雫が溢れている。

アコの顔はここからは見えないが、たぶん同じようなものだろう。


ダンジョン魔力で席をさらに2つ出して4人で座る。

4人である。

俺とアコとアニーと、右手に包帯をした左右の瞳の色が異なる銀髪の少女。

こんな少女、日本ならただの厨二病なんだが…。 この異世界だと本当に隠れた力を秘めたものなのかも…。

丸い机に俺とアコが隣同士寄り添って座り、三角を描くようにアニーと銀髪の少女が離れて座っている。

アコたちが牢屋に入れられた時はもう捕まっていたらしい。


それぞれ服を出して渡す。

さすがに布と見分けがつかない服のままだと色々とまずい。

4人分の飲み物をダンジョン魔力で出し、飲み始めたところで黒髪の少女が口にする。


「我を助けたこと、まずは誉めてつかわす。我が右目において礼を言おう。我が名はミル・シュバルツ・ロード。千の闇の魔術を導くものなり。」


右手で左目を隠し、ニヤリと嗤う。

この名前どうなんだ?

スペイン語なのかドイツ語なのか英語なのかはっきりしてほしい。翻訳機能が無駄に働いてると言うことなのか?


「お前は魔導師なのか?」


「魔を導く吸血鬼。魔導鬼とでも呼んでもらおうか。訳あり今は右手を封印されており魔法は使えないが前世より三千世界を超えて来たもの。」


ごめん、痛い。

それでも、転生者もいるわけだから前世の記憶持ちもいても不思議ではない。


「きゅ、きゅうけつきなの?」


アコが少し怯えたように腕に抱きついてくる。


「案ずるでない。我は下等種族をいたぶり弄ぶ趣味はない。」


下等種族って。

そんな言葉も気にせず、アコは少しホッとしてる。


「そなたらの名を申せ。」


大仰に彼女はそう言う。

さも、彼女がこの世の王なのだと言わんばかりだ。


「俺の名前はカケル。こっちはアコだ。」


「よ、よろしくなの」


「私はアニーよ。」


自己紹介を終えるとミルが、


「カケル…? いえ、でもたまたまって可能性も…。」


何やら呟いているが、声が小さくあまり聞こえない。


「お前は何で牢屋に閉じ込められていたんだ?」


考え事をしている時に声をかけられてびっくりしたのか少しビクッとなりこちらを見る。

本当に魔導師なのか…? あ、魔導鬼だっけ。


「わ、訳あり国を出たところに、我に反する者らに捕まり連行されて来たのだ。」


「国を出て来たの? 吸血鬼はあまり外に出るのが珍しい種族なのに…。」


アニーが驚いたかのように彼女を見つめる。


「それよりも、此処は何処だ? 魔力が満ち溢れている。」


ミルが問いかける。

少しミルの顔が嬉しそうだ。

しかし、どう説明したものか…。


「カケル、此処のことはあまり人にはいえないことなんでしょう?」


「あ、ああ…。」


「それを知った私たちは、ただでは済まないわよね…。」


「そ、それは…。」


さすがに存在を消したりと危ない組織のようなことをするつもりもないが…。


「お願いがあるのっ! 」


「お願い?」


「私も旅に連れて行ってくれないかしら!? 此処のことは何であろうと何も言わない。 一生あなたについて行くわっ!」


突然の爆弾発言。


「旅とな?」


ミルがそう聞き返す。


「ええ、今、私たちはラーカイル王国の王都にいるのだけど彼らはちょうどフランベール魔導団に行く予定だったのよ。」


「そうか…。」


アニーの言葉に考え込むミル。

しばらくすると、


「この場所にはそこのアコとやらがいればいつでも来れるのか?」


応えるかどうか迷ったがどちらにせよもう遅いと思い素直に応えることにした。


「ああ。」


「その旅、我も同行させてくれないか? もちろん此処のことは誰にも言わない。 礼が欲しいというのなら…」


頬を染めながら、一瞬躊躇い、


「わ、我のカラダを… 好きにしてもいいわ!」


「ぶはっ」


飲んでいたミルクティーを吹き出した。


「ちょっと、こっちに跳ねたじゃない。」


アニーが不満を漏らす。


「マスター、だいじょうぶなの?」


アコがハンカチで口を拭いてくれる。

アコは癒しだなぁ…。


「お礼はともかく、何で俺たちと一緒に旅がしたいんだ?」


「此処は魔力溢れる地。我が右手の封印を解放するために探し求めた地。」


「魔力を溢れる場所を探していたのか? 国を出たのもそのためなのか?」


「その通りだ。全ては真祖の契りを得るため。」


「真祖の契り?」


そう問い返すと応えたのはアニーだった。


「吸血鬼は魔を操れるようになり、認められると真祖の血を飲めるらしいの。 真祖の血を飲むと魔力に愛されるようになり吸血鬼として一人前になるとか。」


「我は魔の頂を目指す者。故に此処で修行を積みたいのだ。」


「なるほどな。 あれ? お前さっき右手が封印されているから魔法が使えないとか言ってなかったか? 」


それなのに修行が必要?

こいつ…、


「そ、それはその…あれで…。」


ミルがキョロキョロと目線を泳がせ始める。


「お前はもともと魔法など使えない落ちこぼれで魔法の修行をするために魔力の濃い場所を探そうと国を出たら捕まったどうしようもない吸血鬼だと。」


「ち、ちがう…。」


オロオロして、次第には涙まで浮かべ始めたミルに、


「そのうち魔法を使えると夢見て自分の名前や設定まで考えて…」


追撃を与え、


「そ、それは…その…」


バッサリとトドメを刺す。


「ただの厨二病か。」


「ちゃうねん!」


ちゃうねんってなんだよ…。

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