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第三十五話:ケモ娘を助けるようです。

「おい!今攫われたのはここにいた赤毛の女と外套を被った子供だったか!?」


誘拐だ、と叫んだ男に走り寄り方を捕まえ問いただす。


「た、たぶんそうだ、暗くてあまり見えなかったが女の声だったぞ。」


「くそっ!」


馬車が走っていった方へと自分も走る。

走る。

走る。

走る。

脇目も振らず、腕を振り、足を伸ばし、一歩でも先に、1センチでも前に進む。

うまく呼吸ができなく、喉がカラカラに渇き焼きつくような痛みがするが気にせず走る。

転んでもすぐ立ち上がり怪我のことなど気にせずにはしる。

何回目かわからないくらい転んだ時に、それでも馬車が見えなく完全に見失ったのだと自覚する。


「くそっ!くそっ!」


地面を叩く。

手から血が出るが気にしない。気にする余裕がない。


「だめだ、だめだ。おちつけ、おちつけ。」


声に出しておちつけと念じても焦る一方だ。

自分の吐く荒い息と、心臓の音がうるさい。


「アコオォォ!」


叫びながらまた走り始めるが全く馬車が見当たらない。


「おい!ここに黒い馬車が通らなかったか!?幌付きのやつだ!」


通りすがりの男に問いかけるが首を振りすぐに駆けてどこかいってしまった。


「くそっ」


悪態をついて近くにある樽を蹴る。

物を壊すと少しスッキリしたのか頭が回り始める。

大きく息を吸い、吐く。

ダンジョン魔力で頭の上に水を出し、全身に冷水を浴びる。


大丈夫、大丈夫だ。

今は夜、王都の城壁の門はしまっている。

この街から出ることはできない。

この街のどこかにいるはずだ。

そう思うと少し気が楽になり、走り出そうとした時に思い出した。


腕輪だ。


アコに初めてのプレゼントとして送った二対一体になった腕輪。

念じるとお互いの大体の場所がわかる物だ。

頭の中にアコのことを思いながら腕輪に意識を送る。


「向こうかっ!」


また走り出す。

アコの方もまだ動いている途中らしい。

こんな時に疲れで言うことを聞いてくれなくなりそうな身体が嫌になる。

もっと鍛えておくべきだった。

それに、腕輪だってそうだ。意思疎通できる機能が付いたものも出し惜しみせずにかっておけばもっと良くなったかもしれないのに。

考えが甘かった。

もっと対策を講じておけばよかった。


何度も何度も振り払っても纏わり付いてくる後悔を振り切るようにただひたすらにアコのいる方へと走る。


しばらくするとアコの反応が動きが遅くなり始め、止まる。

場所は北門のそばあたりだろうか。

確かあそこは門の外にも街が続いていて治安があまり良くないらしい。

でも、門はしまっているから門の中のどこかの建物にいるはずだっ。


アコの反応へとまっすぐ向かいたいのに建物が複雑に入り混じり、横へ回り道したり行き止まりに当たったりと裏道を通るのは逆に時間がかかると思い、北の街道へ続く道へ出てまっすぐに走る。

ここにはまだちらほらと人がいて、脇目も振らずに走っている俺をチラチラと見てくるが気にしない。


「こ、ここか。」


酸素を求める焼けそうな喉に無理やり水を押し込み、深呼吸をして息を整える。

場所は北門を少し右側へ行った場所で背が壁になっている。

かなり大きめな倉庫のような建物だ。

民家2〜3個分だろうか。

黒い幌馬車が止まっている。

周りに人はいない。

きっと中には警備などもいるだろう。

まともに戦って勝てる見込みはないのは分かりきっているし、どうしたものか。

いや、悩んでいる暇はないっ。


現在俺はアコの囚われた場所から建物2つ離れた他の建物の塀の間の道にいる。

アコの反応は地下にある。4〜5メートルくらいしたかな?

少し考えてから、ダンジョン魔力で地面に人が1人ほど通れる縦穴を開ける。

アコの反応と並ぶくらいの深さにして中に飛び降りる。

あとは少しずつアコの方へと穴を進めるだけだ。

アコの反応から10メートルほど離れた場所で壁にぶつかる。

ダンジョン魔力でのぞき穴をあける。

中にはみたかぎり人はいない。

少しずつ穴を広げ、視野範囲を広げ誰もいないことを確認しながら中へと侵入する。

見た所物置のようだ。あまり広くはない。

武器や防具、首輪や拷問器具などが置いてある。

すぐ目の前にある木製の扉に耳を立てる。

右側から野太い男の笑い声が聞こえるな。

アコの反応は左側だ。

慎重に扉を開ける。

通路のようだ。


通路に出て右側にはすぐにもう1つ扉があり中から光が漏れ、笑い声が聞こえてくる。

酒を飲みながらカードをしているらしい。地下牢の見張りなのだろう。

通路は一本道でおそらく右側の扉の管理室の奥に地上への階段があるのだろう。

俺には関係ないが。


こちらに気づいた気配がないので、左側へと慎重に足音を消して進む。


アコの反応が徐々に近づいている。

行き止まりにぶつかる。

正面と左右にひとつづつ扉がある。

右側の扉からアコの反応がする。

壁に耳を当てるが音がしない。

そっと扉をあけて中を覗き込むが動くものの気配がしない。


中は無人だった。


机の上にアコたちのアクセサリーや洋服が置いてあった。


「っ!」


衝動に声を出しそうになり抑える。

捕まえたものの服や物を取るのは、誘拐犯としては当たり前なはずだっ。まだ無事なはず…。


近くにある残り2つの扉も開けるが左側は空っぽ、もう片方は階段だった。


階段か…。

つまりアコたちはあの看守たちの奥か…。


看守たちがカードに耽っている部屋の前まで戻る。

こいつらをどうするかだな。


扉の前で考えていると彼等の声が漏れ聞こえてくる。


「それにしてもいきなり外套を羽織った獣人を連れた二人組を拐えなんて依頼がくるとはな。こいつら何したんだ?」


「なんでもポーションを作ってライアード商会から客をとったらしい。」


「なるほど、貴族の客などもかなり移ったらしいからな。そりゃ頭はお怒りなわけか。」


「俺らはこいつらを渡すだけでしばらくは酒を浴びれるぜ。」


「それにしてももったいねぇよな、獣の方はともかくとして赤髪のほうは十分遊べそうなのになぁ。」


「手を出すなって言われてるだろ、こいつらを引き渡せば女なんてしばらくだき放題だぜっ」


「でも、安いとこじゃこんな上玉なかなかいないだろ?あの黒髪も商品価値が下がるからってナニもしてねぇ。」


黒髪?


「それはそうだが…。」


「つまり手を出さなきゃいいんだよ、穴はなくても十分だろう?」


「たしかに、最近ご無沙汰だったしな…。」


流石にそろそろ聞くに耐えなくなってくる…。

扉を開ける。


「ん?誰だお前。」


看守の細めの1人がこちらを見て訝しむ。

部屋は狭く、机と椅子を2つ置くだけで部屋の半分は埋まっている。

奥に扉が1つある。


看守2人が席から立ち上がりそばに立てかけていた槍を手に取る。


「侵入者か?お前どこのm…」


《ダンジョン魔力ポイント25消費。現在2435ポイント。》


ズシンっ。

グチョ。


肉の潰れる音がする。

あたりに血の匂いが漂う。

怒りなら感じているが、やっぱり人間を殺してもどうも思わなくなっているな、と場違いのように自分を観察している。


奥の部屋に入ると、すぐに牢屋になっておりアコがいた。


「ま、マスターっ!!!」


アコが大きな声で叫ぶ。

アコは服を脱がされ布のようなものを被っているだけだ。

出会った時を彷彿とさせ、胸が締め付けられる。


「アコっ!無事だったか!?」


「私は大丈夫なの!」


そこでアコしかいないことに気づく。


「ア、アニーは?」


近くを見回してもアニーの姿がない。

さっきの看守の話を聞いていたからてっきり一緒にいるのかと思ったが。


「アコたちを攫った人たちの話し声がいまさっきまで聞こえてたの。」


俺も聞いていたあの会話か。


「それでアニー先生が危ないからダンジョンの中に避難させたの。一緒にいた女の子も入れてあげたの。」


「今はダンジョンのなかに?」


「そうなの。勝手なことしてごめんなさいなの…。」


アニーがいなくなったら真っ先に疑われて危ない目にあうのがわからないわけじゃないだろうに…。

それなのに俺に謝りすらしてくる。


ダンジョン魔力で檻を壊し終わり、出てきたアコを抱きしめる。


「もう帰ろう。」


アコにそう告げると、


「マスター…。」


耳元でアコが囁く。


「どうかしたか?」


「ありがとなのっ、きっと助けに来てくれるって信じてたから、アコ、怖くなかったの。」


「当たり前だろ。俺はアコのマスターなんだから。」


アコが微笑んだのがわかった。


「マスター、汗だくで泥だらけなの。」


アコが苦笑したのがわかった。

汗だくで泥だらけなのに一向に離れようとしないで、むしろ自分を擦り付けるかのように抱きついてくる。


「死ぬ気で探したんだからな。」


アコをさらにギュッと抱きしめ、アコも同じように強く、強く抱き返してくる。


この子のためならなんでもできるなと、両手の中の温もりを感じながら、そう思った。


1話の導入をもう少しよくできないかと思案中ですがなかなか難しいですね。

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