第二十九話: ケモ娘は今後の方針を考えるようです。
あれから10体ものキングボアを倒した。
2回目からは慣れたもので1周が15分ほどだ。
内心かなり怖かったけどな。
ギリギリまで引きつけてレバーを引くだけなのにこんなに精神を減らすものだとは思わなかった。
獲得したポイントは全部で1116ポイントだ。
圧倒的インフラ率。この前までの1桁まで数えながら使っていた時が嘘のようだ。
「キングボアの肉、もってきたぞ。」
陽も傾き、屋台を閉めようとしていたのか、色々と片付けていたアルに声をかける。
「おお!本当に狩って来たのか!」
「結構楽勝だったぜ、俺たちとは相性がいいみたいだ。」
「結構な量があるな。」
ほんとは持ってきた倍くらいの量があった。ダンジョンに置いてるけど腐るんだろうなぁ。帰ったら女将にも分けてあげよう。
皮を売るのは諦めた。大きすぎる。
「この量があれば、銀貨30枚くらいだな。」
ひと抱えある肉で銀貨30枚。かなり美味しいな。
最近はポーションのおかげで金貨も持ってるくらいだからそこまでありがたくはないけど。
「早速食べるかい?」
「ああ、でも、夕食前だから1本づつな。」
「やったのっ」
アコが声に出して喜ぶ。
ダンジョンの中でも食べたけど、ここの串焼きはまた別の旨さなんだよな。
使ってるソース、教えてもらいたいぜ。
「アルの串焼きはおいしいからな」
喜ぶアコの頭に手を置く。
「ハハッ、褒めても何もでねぇぞ」
アルが渡した肉を切りながら応える。
「そういえば聞いたか?最近奴隷商の組合所が謎の集団に襲われてるらしいぞ。」
「へぇ、物騒なもんだな。」
「でも、襲われてるのは亜人を捕まえて儲けてる奴ららしいぜ」
そう言ってニヤリと笑う。
「そんなことする奴らがいるのか。」
「王都からは離れてるから俺たちにはあまり関係ないがな。酒の一杯でも奢ってやりたくなるぜ。」
そういいながら串焼きを渡してくる。
「ケモっ娘たちにはこうやって笑顔でいて欲しいもんだぜ」
そう言ってアコをみる。
渡されたキングボアの串焼きを美味しそうに食べている。
良い笑顔だ。
「いつかなるさ、こんな世は間違ってるもんな。」
そんな声を聞いてから、自分も串焼きを食べ始める。
陽が暮れる前に宿に帰り、女将にキングボアのお肉をおすそ分けする。
今日のご飯はもうできてるので、明日から使わせてもらうとのことだ。
「アコ、あと1週間くらいボス狩りをしたらこの国を出ようと思っている。」
アコと夜ご飯を食べながらこれからの予定として考えていたことをアコに伝える。
「ほんろなのっ!?」
口にパンを入れたまま喋るアコ。
「十分お金も溜まってきたし、ダンジョン魔力もかなりある。これだけあれば当面は何の心配もないからね。」
ここ数日の休みでポーションもかなり作った。
新しい鍋を3つほど足して、1000個ほどアルに買い取ってもらった。
運ぶのはアルに台車を借り、アコと2人で運んだ。この作業がいちばん辛かった気がする。
これだけあれば今年いっぱいかなりの儲けが見込めるらしい。
ポーションの売り上げもあるが、探求者はポーションを買いに来るついでに色々と日常品や消耗品買っていく傾向にあるので客寄せにするのが一番の目的らしい。
元々一箇所で様々なものが買えることを売りにしていたが、この頃はライアード商会というポーションをライルの村から運び売っている商会に客を取られ気味だったらしい。
アルがここで固定客を得れればさらに売り上げが安定すると勇み立っていた。
そんなことよりも今はこれからのことだ。
まずはメルリア大森林に行くつもりだが、実際に行くだけで獣人に会えるのだろうか?
「まずはメルリア大森林にいこうとおもっているんだけど、アコはどう思う?」
「アコは行きたいのっ。お父さんとお母さんに会いたいの。」
アコが真っ直ぐな瞳でそう告げる。
「ああ、俺もそのつもりだよ。でも、森に行けばすぐに会えるものなのか?かなり広いんだろう?」
「アコ、森の外側にはあまり行ったことないの…集落のそばにいけばわかるとおもうの…。」
大陸の1/3を占める大森林だ。
アコのダンジョンと同じような景色なら相当広いんだろう。
それに魔物も出るらしい。
王都のダンジョンの魔物のように落とし穴に落として終わりなんて生易しい奴らではないだろう。
「集落の場所を知っている獣人に会って案内してもらわないとか?」
「それがいいと思うの。」
まずは集落の場所を知っている獣人探しか。この国では難しそうだな。
そういえばアコに会った時に言っていた穢れ者とは何のことなんだろう。人間と接触したものは集落に戻れないというのなら交易などもできないはずだ。アコの話ではメルリア大森林で取れた魔石を他の国と交易していたはずだが。
「初めて会った時にアコが言っていた穢れ者って、どういう意味なんだ?」
聞こうか迷ったが、聞くことにした。
「昔、まだアコが生まれてない時の別の集落に、アコみたいに攫われた獣人の子が居たの。集落の人たちは躍起になって探したみたいなんだけど見つからなかったの。でも、数ヶ月くらいしてからふらっと森の中に戻ってきたのを発見したの。見つけた人は喜んで、無言な獣人の子を集落まで連れて帰ったの。」
喋っているアコがだんだんと暗い顔になる。
気休めだろうけどブドウジュースを出して一息つかせてから続きを促す。
「連れて帰って、どうなったんだ?」
「実はその獣人の子は集落への道案内で森の外には国の軍隊がいたらしいの。そこからは集落を襲われ、半分以上のたくさんの人が死んでしまったらしいの。それから攫われたりした人を集落へと入れるのは禁止になったの。」
極端なようだが、きっとかなりの人が死んだんだろう。
「だから、アコも集落にはきっと戻れないと?」
「そうなの。生まれた時から、アコは、1人で集落の外へ出るなって言われてたのに…。破ったからっ…うっ…。」
アコの嗚咽が狭い部屋に響き渡る。
アコの隣へと行き、頭と背中を撫でてあげる。
「アコは、集落の人たちが魔石で交易していた人間たちの国を知ってたりする?」
落ち着いて来たアコにそう質問する。
「わからないの。」
そうなるともしこの国からメルリア大森林には入れなかった場合に行く場所の目処がつかないな。
個人的にはフランベール魔導団に行ってみたい。
魔石を売るということだから、案外フランベール魔導団が正解な気もする。
「まずはメルリア大森林を目指してみよう。集落には入れないようならフランベール魔導団に行ってそこから獣人族の村へ行く手がかりなどを探そう。」
「わかったの。」
考えた案にアコも賛成してくれる。
よし、今後の方針も建てたし、
「じゃあ、アコ。お風呂に入ろうかっ」
アコを連れてダンジョンの浴場へと向かう。