第二十八話: ケモ娘は初めてのボス戦のようです。
第5層。
転移魔法陣のそばにある銀色に光る両開きの大扉。
他の階層の扉の倍くらいの大きさだろうか。
見るからにボス戦って感じ。
「アコ、いける?」
「大丈夫なのっ!」
アコが元気に応えて弓を背中から外し手に装備する。
「いくぞっ」
大扉を勢いよく開けると、開けた隙間から入ってくる光が眩しく目を閉じてしまう。
しかし、目を閉じながらも走るのをやめない。
光に慣れてきた目が10メートルほど先にいる大きなイノシシを捉える。
キングボアだ。
*
ダンジョンで一晩過ごしたあと、第5層に到達し、またさらに次の日の朝にはアニーがとても心配していた。
アコはとっても温泉が気に入ったようで、時間があれば入っている。
あの事件からアコがすこし積極的に喋るようのなった。
大事をとってもう1日休みにして、事件から4日後。
初のボス戦闘だ。
アコは練習した弓を使うらしい。
30メートルほどの距離で、命中率は1/2ほど。
ダンジョンも対ボス戦用に改造した。
まずは罠だ。
穴を広げさらに深くして、さらにレバー式の床を出した。
レバーを引くと蓋の床が消えて穴が出て来る仕様だ。ほんと一瞬で消える。魔法すごい。
あとはツリーハウスかな。
硬い床で寝てたから、ツリーハウスの上の階を追加して寝室にした。
あるのはベットとランプくらいだが。
ベットとシーツはもかなりいいものをダンジョン魔力で出した。
で、そんなこんなでボス戦だ。
朝にアニーのところで情報をさらに集めて、転移魔法陣で第5層へと向かう。
10メートルほど先にいるキングボアが鼻息荒くこちらを睨む。
もの凄い迫力だ。
単純な高さだけでも俺の倍くらいはある。
「でかいなっ」
やっと光になれた眼で見たキングボアについ声が出る。
二本の牙が鈍く光る。
牙を地面に擦りこちらを威嚇する。
そんなキングボア相手にアコは全く物怖じせずに弓を構えながら扉を出す。なんか様になってるな…。神話の英霊のような神々しさまである。
扉を開けてる間にアコが矢を放つ。
風を切る音を残し、矢はキングボアの首元に当たる。
怒ったキングボアが走り出す。予備動作なしかよっ。
アコが開けた扉に入り、その後に続く。
穴の蓋を走り切ったらレバーを引く。
それとほぼ同時にアコが弓を引く。
矢が顔に当たるが簡単に弾かれる。
確かに、これはまともに戦ったら勝てる気がしない。
ぶるぁあ!
野太い野獣の雄叫びがダンジョン内に響き渡る。
「なっ!?」
「マスターっ!」
ダンジョンの扉をくぐった瞬間にキングボアが跳んだのだ。
アコが咄嗟に後ろに下がり引っ張ってくれる。
危ない、アコがいなかったら動けなかった。
ドシンっ!と前足がこちら側の淵に乗るが自らの重さで暗い穴の中へとキングボアが落ちて行く。
「と、飛ばない豚はただの豚だぜ。」
とりあえずカッコつけてみるが、
「マスター、危なかったの。」
アコがジト目で見て来る。
いやいや、扉からこちらまでの穴の距離は10メートルほどだぞ?
普通届くなんて思わないよ。
「いやーほんと、アコがいなかったら危なかったかもな。」
「マスターはアコがいないとダメなのっ!」
すこし頬を膨らませながら怒った風にアコがそう言う。
かわいい、頭を撫でてあげたくなる。あ、もう撫でてたわ。
「また危ない時があったら助けてくれよな。アコが危ない時は俺が助けるからさっ。」
自分で言っていてなんだか恥ずかしくなった。
「アコにまかせるのっ!」
アコが胸を張ってそう言う。かわいい。
それにしても、キングボアの届いた前足の跡がかなりすごいな。
もしこんなのがあたっていたらひとたまりもなかったな。
「もう少し穴広げた方がいいかな?」
でも、それだと俺たちの走る距離も伸びるんだよな…。
あれこれ考えていると、
「マスター、レバー引くの早かったの。もっと引きつけてから、床に乗ってから床を消すの。」
アコが簡単に解決策を提案する。
「あ、そうか。アコはよく見てるなぁ。」
レバー引くのに必死でそんなこと考えてなかったや。
アコ、順応しすぎなのでは。
さて、追加されたポイントはっと。
現在のダンジョン魔力は138ポイント。
討伐前は34ポイントだったから、獲得ポイントは104ポイントか?
うまいわー。
それに魔石にお肉に毛皮。
お肉はアコに腰の背骨あたりのお肉だけ残すように言ってある。それでもかなりの量だ。
第6層の転移魔法陣に到着する。
そういえば層の始めの転移魔法陣以外見たことないな。たまに現れるという方はかなり低い確率なのかな?
てか、同じ転移魔法陣ならここから第5層に飛べないのかな?
ふと、そんなことを思った。
試してみよう。
「あ、飛べた。」
これ、最下層まで一気にとかいけちゃわない?
試してみるがさすがに無理らしい。まあ、あたりまえか。
「マスター、何してるの?」
「いや、ちょっと確かめたいことがあってな。もう大丈夫だ。」
んー?とアコが首を傾げている。
「あと2〜3回倒したらキングボアのお肉で休憩にしようか。」
「わかったのっ!アコ頑張るのっ!」
ぴょんっと前に飛び出したアコが振り返りながらそういった。
アコと並んで扉の前に立つ。
あの恐ろしい見た目のキングボアが、早くもただのお肉扱いだった。
おいしいおにくがたべたいです。