第十九話:ケモ娘は見てるだけは嫌なようです。
宿に戻るとちょうど女将さんが部屋の掃除を終えて、部屋から出てきたところだった。
「あら、今日ははやいのね」
「ええ、夕方までゆっくりしようかと思って。」
「夕方からどこかにいくのかしら?」
「ええ、アコの洋服を買いに知り合いのお店へ。」
「そうなの。じゃあ、夜ご飯は少し遅めに作るね。」
「そうしてもらえると助かります。遅れるかもしれないのでそのときは冷めても食べれるものだと助かります。」
「わかったわ。」
そういって部屋に入ってから気づく、夕方になる前の宿を出る時にご飯食べればよかったのでは。
まあ、向こうの事情もあるしいいか。
「アコ、早速扉を開いてくれないか?」
「はいなの」
アコの出した扉をくぐり、泉のそばのベッドがわりにしている床に座りレッドポーション製造書を交換してみる。
《ダンジョン魔力ポイント30消費。現在47ポイント。》
出てきたのは紙が一枚。
製造〈書〉とはなんだったのかな。書ではなく紙だ。製造法とかではダメだったのだろうか。
「マスター、それなに?」
「レッドポーションの製造方法の書かれた紙だよ。」
「ポーションをつくるの?」
「ああ、作れたらかなりの利益ができるとおもうし、俺たちならここで作れるから周りを気にしなくていい。」
そういいながら、製造書を読む。
ーレッドポーションー
沸騰させた魔力水に癒し草と止血草を1:1の割合で混ぜ、固形物を取り除いた液体。魔力のある場所や魔力を込めながらやると効果が上がる。完成度の高い魔力があるものほど光る。
魔力水:魔力溜まりやダンジョンなど魔力の濃い場所に一定時間置かれ、魔力が溜まった水。魔力操作で自らの魔力を注ぐことでもつくることができる。
癒し草:どこにでも生えている傷を治す効果のある草。新米冒険者の必需品。
止血草:どこにでも生えている血を固める効果のある草。血のような赤黒い色をしている。
まあ、まとめるとこんな感じだ。
まず魔力水と2種類の草の比率が書かれてないなと思っていたら最後の方に、癒し草と止血草が多ければ多いほど完成が早くなると書かれていた。
なんとアバウトな。
というかこれ、魔力を高めたらハイポーションになるのでは…?
さすがにそんな簡単ではないか?
いや、でも、ハイポーションからはエルフからしか作れないのは魔力を込めるのが人間では厳しいからなどの理由があるからならありえるか?
つくってみたらわかるか。
まず魔力水は水に自分で魔力を込めればいいのか?
オレンジジュースなどの空き瓶で水を汲んでこようと思った時に気づく。
ここダンジョンじゃん。この泉って魔力水なんじゃね?
ここでチートな主人公なら鑑定など持ってきて簡単にわかるんだろうけど…。
まあ、試してみればいいか。ダメなら魔力を込める方法を探そう。
癒し草と止血草はどこにでも生えているらしい。新米冒険者の必需品なら安くで買えるのだろうか。
「アコ、癒し草と止血草って知ってるか?」
「癒し草は傷を治してくれる草なの。止血草はわからないの。」
「そこらへんで生えてるかな?」
「わからないの。大森林にはいっぱい生えていたの。」
「そうか。」
女将さんにでも聞いてみるか。
「アコ、もう一回お出かけしようかとおもうけどだいじょぶ?」
「だいじょぶなの!」
帰ってきてすぐに出かけるというなんとも計画性のない。
アコに外套を着せてフードを被せ宿の一階で女将に声をかける。
「女将さん、癒し草と止血草ってどこで手に入りますかね?」
「それなら向かいのお店に売ってるよ。あそこは冒険者向けのお店だからね。」
すぐ近くにそんなお店が。
「行ってみますね」
「いってらっしゃい」
ほんとにすぐ向かいのお店だった。
ここのお店って看板は出すけど中に入らないとどんなお店かわからないんだよね。
日本のように中が見えるようにもなっていないし、外に商品も置いていないしで。
お店の中はそんなに広くなく、ロープは携帯食料や水筒。テントのようなものもある。
「あの、癒し草と止血草って置いてますか?」
30代くらいの店番のお姉さんに声をかける。
「それならそこの棚にあるよ。」
示しされた方に行くと棚がありたくさんの草が置かれていた。
その中に癒し草と書かれたものを見つける。1束銅貨50枚。1束20本くらいかな?
少し下の方に止血草も見つける。
こちらは10本の束で銅貨50枚だ。
とりあえず癒し草を1束、止血草を2束買ってみようか。
店員に銀貨1枚と銅貨50枚をわたし、部屋に戻る。
やっぱ50枚も渡すのは大変だぞ…
ダンジョンの中に戻り早速ポーション作りに取り掛かる。
「アコはゆっくりしてていいぞ」
鍋を取り出しながらアコにそういうと、
「アコ、マスターのお手伝いしたいの!」
「ありがとな、じゃあ、この鍋に水を汲んできてくれ。」
アコの頭を軽く撫でて、小さめの鍋を渡す。
先ずは一本で試して成功したら大きい鍋でやろう。
竃のようなものをダンジョン魔力で出すか。
うーん、小さめの5ポイントでいいかな。
これならギリギリ大きい鍋も使えるし。
《ダンジョン魔力ポイント5消費。現在42ポイント。》
出した竃に火をつけて、アコが入れてきてくれた鍋を火にかける。
火をつけるための木ならそこら中に落ちている。
そばでジッと鍋を見つめるアコがかわいい。
沸騰してきたので、癒し草と止血草を用意すると。
同じくらいの大きさのものを選び、沸騰した鍋に入れる。
ちょっとづつ混ぜて行く。
10分ほど混ぜていても特に変化がない。
「アコもやってみたいの」
と、言ってきたのでアコにチェンジした。
何が楽しいのかフリフリと揺れる尻尾がかわいい。
ていうか、ワンピースなので尻尾が外に出ているとパンツが丸見えだ。
これはいうべきなのか…
ていうか、ショートパンツを履いてるのかと思ってた…。
「マスター、光ってきたの」
とても重要な哲学的なことを考えていたらアコが鍋の様子を教えてきた。
「んー。ほんとだ。光れば光るほどいいらしいからもうちょっと混ぜてみようか」
「わかったの!」
さらにやる気を出してアコがポーション製作に取り組む。
俺のやることがないなぁ。
あ、そういえばアコがミカンが食べたいと言っていたっけ。
1個1ポイントだ。
とりあえず1個出してみる。
甘いの出るように念を入れて出す。
うん、見た目は普通のミカンだな。
皮を剥いてみて一房食べてみる。
甘いけど、そこそこかな?あとちょっと渋い。
食べやすくしてアコに食べさせてあげる。
「アコ、口開けてみて」
ん?と首を傾げて、
「ん〜」
っと、口を開ける。
小さなアコの口にミカンを入れてあげる。
口に入ったミカンを最初は恐る恐るだったが、途中から美味しそうに食べていた。
「甘くておいしいのっ!もっと欲しいの!」
気に入ったらしい。
そのまま鍋をかき混ぜながら、餌を待つ雛鳥のように口を開けておねだりしてくるのでつい5個もあげてしまった。
アコにオレンジをあげ終えてから、ふと、目の前にそびえる巨大な木を見ていてふとおもった。
「アコたちの集落は普通に家を建てていたのか?木の上とかに家は建てなかった?」
「普通に地面に立ててたの。」
そっか、てっきり木の上の街とかココロオドル場所なのかとおもってしまった。
かっこいいなそれ。
あれ?ここにもう木があるんだし木の中に穴を空けるほうが家を建てるより安くなるのでは?
試しにできないかやってみる。
あけるのに必要なダンジョン魔力10ポイントから。
意外と少ない。部屋を広くしようとすればするほどポイントが高くなる。
しかし、広くしないで上につなげるぶんにはそんなにポイントが変わらない。
広くしたら支えの分がなくなってそれを魔力で補うためとかそのためだろうか?
穴を開けた瞬間に崩れたりしないよな?
まず15ポイントで開けてみるか。
《ダンジョン魔力ポイント15消費。現在22ポイント。》
巨大な木に高さ2メートル横幅3メートルほどの入り口ができる。
中は真っ暗だった。それもそうか。
部屋からランプを取ってきて、中を照らす。
広さは天井3メートル、丸い広場のようになっていて半径5メートルはあるかな?
壁や床はツルツルで悪くない。普通はこうはならないだろうけど魔法って便利だ。
ちょっとづつ広くして行くといいな。
上の方まで繋げて行ってさらに木のてっぺんのあたりを橋で繋げるなどロマンが溢れるな。
これ以上はポイントを温存するために今日はこのくらいにしよう。
アコのところに戻るとびっくりした。
「あ、アコ、それ、すごい光ってないか?」
「そうなの、ずっと混ぜてたら光ってきて楽しいの!」
「楽しいのはいいことだな。」
なんかちょっとしたロウソクくらい光ってる。
夜に瓶に詰めたこれを置いておいたらロウソクいらないのではないだろうか。
「逆にここまで光ってると飲むのが怖いな…。」
「とりあえず完成ということで、瓶に入れておこうか。」
瓶の上にタオルを敷いて、タオルに少しずつポーション(仮)を垂らしていく。
ちょうど瓶2つ分になった。
銅貨10枚以下でこれが売れるなら銀貨2〜3枚か。
美味しいな。
「よく頑張ったな、アコ」
鍋などを片付けてからアコを褒めて頭を撫でる。
「アコ、がんばった?」
上目遣いでカラダを寄せてくるアコ。
「ああ、アコのおかげでこんなにいいものができた。きっと高く売れるぞ。」
「えへへ、アコ、マスターの役に立ってる?」
「ああ、俺じゃめんどくさくてここまで混ぜれなかったはずだ。」
さらに褒めて、頭を撫でて、耳をモフモフしたら、アコがスリスリと頭をすり寄せてくる。かわいいなぁ。
そのまましばらくダンジョンのベッドもどきでイチャイチャした後、宿を後にしてアルのところへ向かう。
手を繋ぐアコがものすごくご機嫌にカラダをすり寄せてくるので歩きづらい。
でも、こんな風に歩くのも悪くはないかもしれない。
「アル、これ見てくれよ。」
何やら肉を切っているアルに作ったレッドポーションを見せる。
「なっ…本当に持ってきたのか…」
「ああ、たまたまつくり方を知っていてな。」
「たまたまで知っているようなものでもないぞ…、魔力操作も必要な技術らしいしな。」
アルが手を拭き、ポーションの瓶の蓋がわりにしていた布を取る。
「ほぅ…すごい光っているな…まるでエルフが作った一級品のようだ。」
目が一瞬で商人の目になった。裏で肉を焼いてるようなやつだけど、やっぱりいっぱしの商会の主人なだけあるのか。
「そうなのか?」
「ああ、とりあえずここではダメだ。中に行くぞ。」
アルは処理中だった肉などもそのままに裏口から店の中に入る。
「ほら、はやくこい。」
「あ、ああ。」
二階の執務室のような場所に連れられてきた。執務室というか社長室?
立派な机と椅子にアルが座り、話の続きをする。
「ポーションっていうのは質がいいものほど光るんだ。ライルの街のポーションもここまでは光らないぞ。昔見たエルフの作ったポーションのようだ…。」
アルが色々な角度から見たり匂いを嗅いだりしている。
「そんなにすごいのか?」
「ポーションは質がいいほど効力が早くなる。ハイポーションには治癒能力は劣るが、並みのハイポーションより小さな傷は早く治るだろうな。」
「それで、いくらくらいになりそうだ?」
「これなら銀貨5…いや、8枚でも売れる。」
「なら、銀貨3枚くらいで買い取ってくれないか?」
「なっ、いいのか?」
アルが驚いて少しポーションをこぼす。
「ああ、まず俺1人じゃそんな商品売りさばけないよ。それならお前に卸したほうがいい。」
「そうか…1日にどのくらい作れそうだ?」
「どのくらいならいいんだ?」
アルが少し考える仕草を見せる。しかし、すぐに返事をする。
「う…む。週に500本。週に500本はいけないだろうか。おそらくライアードに勝てる。」
ライアード…?
ポーションを独占しているという商会だろうか?
「500本か、ダンジョン探索もあるし今のままじゃきついかな…?」
「ポーションを作れるならもうダンジョンに潜る必要もないだろう?」
いや、そういうわけもない。ポイントが欲しいんだ。
なんでまあ言えないわけで。
「ダンジョンを攻略するのはやめない。」
理由は告げず、でも、はっきりと断っておく。
「そうか、そうなると人手か…」
「アコに1人で作らしておくわけにはいかないしな」
「とりあえず作れるだけ作って見てくれ。500本というのはあくまで理想値だ。」
「わかった、とりあえずその一本はやる。」
「いいのか?」
「ああ、効果とかちゃんと出るかわからないし、そこらへんも含めて色々調べて欲しい。」
「わかった。」
「じゃあ、いろいろよろしくたのむわ」
「それはこっちのセリフだ。」
アルが椅子から立ち上がり、右手を差し出してくる。
この世界にもあるんだな、握手。
「これは俺が串焼きを奢らなくちゃいけないな。」
アルがそうやって笑う。