第十六話:ケモ娘は初めてのプレゼントに大喜びのようです。
次の扉をくぐると、今度はオークがいた。
ほんとに物語に出てくるオークが。
でっぷりとした腹をだしたオーク。
ミノタウルスどうよう、出してるのは腹だけではないが。
扉を出した若干嫌な顔をしているアコが石ころを投げ始める。
石が当たるとプギャアと鳴きながらこちらを睨む。
アコがもう一度石を投げ、オークがこちらに走り出したのをみてから扉をくぐる。
俺もそれに続く。
先に着いたアコがまた石ころを投げる。
おふ…あれは痛い…。
アコの投げた石がオークの股間に炸裂する。
急所にあたった。効果は抜群だ。
敵は死ぬ。
いや、死因は落下死だが。
ポイントは118。
21ポイントか。
魔石はレッドボアと同じくらいか?
これでこの階層の序列が決まったな。
ミノタウルス>オーク=レッドボア>ボアウルフだな。
どれも倒す労力は同じだからミノタウルスのみ引ければいいのだけれど。
まあ、ポイントがもらえるだけ美味しいか。
次の扉までアコと手を繋ぎながら歩く。
今更だが、アコ、まだ弓を背負ったままなんだよな。
使わないならダンジョンに置いといたほうがいい気がする。
「アコ、弓は使わないならダンジョンに置いといたらどうだ?」
「そういえばそうだったの。ちょっと置いてくるの。」
扉を出して、弓を置きに行くアコ。
まあ、ベット代わりの床のそばに扉を出してるので目の前だが。
すぐに戻ってきて扉を消すアコ。
今更だが、この通路は人が通るかもしれないから扉を出させるのはまずかったな。
まあ、周りに人の気配もしないし大丈夫だろう。
次の扉を見つけたが開かなかった。
ほかのパーティが戦闘中か休憩中だな。
来た道を戻る。
しばらく進むと階段が見えて来た。
「やっと第一階層は終わりか。」
「長かったの。」
「この階段を降りたら魔法陣があって入り口に戻れるらしい。今日はそれに乗って帰ろうか。」
「わかったの。」
2人で手を繋いで並んで階段を降りる。
階段を降りたら四角い小部屋で右のほうに一段高くなった場所に光っている魔法陣がある。
大きさは5メートルくらいだろうか。
「これか」
「光ってるの…」
アコと2人で魔法陣の上に乗る。
これ、乗ってどうするんだ?
しばらく乗っていると魔法陣がさらに光始める。
「うおっ」
驚くと同時に景色が変わる。
どこかの部屋の中だ…。
アコと一緒の部屋から出ると、ダンジョン入り口の左側の部屋の一つだった。
「ほんとに転移したな。」
「すごいの…。」
講堂の右側の受付へと行く。
「魔石の買取はここですか?」
受付に座っている女性に声をかける。
「はい、こちらで承っております。」
「では、これお願いします。」
ゴブリンの魔石5個と、オークとレッドボアとボアウルフの魔石1個づつに、ミノタウルスの魔石2つだ。
「少々お待ちください。」
受付の女性が後ろで何やら調べる。
「この小さい魔石5つが銀貨2枚と銅貨50枚、次に大きいものが1つで銀貨2枚、その次のこちら2つで銀貨6枚。そして最後のこちら2つが銀貨8枚。合わせて銀貨18枚と銅貨50枚ですね。」
ゴブリンが銅貨50枚。
ボアウルフが銀貨2枚。
オークとレッドボアが銀貨3枚。
ミノタウルスが銀貨4枚なのかな?
なかなか美味しい報酬になった。
ポイントも100ポイントほど儲かったしな。
「それでお願いします。」
銀貨を受け取り、アコの手を握りダンジョンを後にする。
現在のダンジョン魔力は119ポイント。
所持金銀貨19枚と銅貨45枚。
お金はこのまま貯めとくとして、ダンジョン魔力の最初の使い道はもう考えている。
「アコ、明日は何が食べたい?」
日が暮れ始め、街が眠りに就こうと喧騒が響くなか、帰り道を2人で並んで歩きながら、そんなことを聞いてみる。
「マスターが出してくれた、あのオレンジ色のジュースの果物が食べてみたいの。」
「みかんのことか?」
「みかん?」
「ああ、オレンジ色の丸い果物なんだ。」
「おいしいの?」
「甘くて美味しいぞ。凍らせたりしてらシャリシャリしてもっと美味しくなる。」
「おいしそうなの…。」
みかんか。ここで売ってるかな?
結構南国っぽい感じするからな。
まあ、なくてもダンジョン魔力で出せばいいか。数ポイントなら問題ない。
アコが気に入ったのなら、それこそダンジョンにみかんの木を植えるのもいいな。
それからアコと歩きながらいろんな話をした。
アコが好きな食べ物のこと。
アコが嫌いな食べ物のこと。
今日見てびっくりしたこと。
早く文字が読めるようになりたいとのこと。
ほかにもたくさんおしゃべりをしながら宿まで帰った。
「あらあら、遅かったのね。夕食もうできてるけど、すぐ持っていっていいかしら?」
宿に着くと女将にそういわれた。
「はい、もう腹ペコなので、お願いします。」
「あいよ。」
鍵を受け取り先に部屋に戻って卓の準備をする。
しばらくすると扉の方から女将が声をかけてくる。
「ご飯ここに置いときますね」
「はーい。」
と、返事をしながら外に出たらもう女将はいなくなっている。
本当に早いな。
でも、確か女将と料理長の夫と2人で切り盛りしてる店らしいし、止まってる暇などないのだろう。
「アコ、ご飯だぞ。」
「もう、おなかぺこぺこなの。」
「飲み物はどうする?オレンジジュース飲むか?」
「い、いいの?」
「ああ、今日アコは大活躍だっからな。デザートまで出してもいいくらいだぞ。」
「で、デザート?」
アコが目を輝かせる。
心なしか耳がピクピクしてる気がする。
「ご飯を食べ終わってからな。」
「わかったの!」
皿を並べ終わって席に着く。
今日の献立は野菜のスープに、パンを軽く炙ったものに、魚焼きだった。
「いただきます。」
「いただきますなの。」
パンはやっぱりバターが欲しくなるな。
出せるのかな?
一応あるな。
3ポイントからだ。
ここら辺では一般的ではないのか、それともたまたまこの店じゃ使ってなかったのか。
バターって出したら日持ちするんだっけ?
どうなんだろ…。なんか腐りそうだからやめとこ。
美味しそうにご飯を食べながら、オレンジジュースをちびちび大切そうに飲むアコを見る。
相変わらずかわいいなぁ…。
デザートは何にしようかな。
ダンジョンメニューを探す。
さすがにアイスクリーム系はないな。
ケーキ類はどうだ?
パウンドケーキなどクリームを使ってないものならあるがかなり高い。10ポイントとかする。
どういう基準なんだ…?
お、カステラがあるな。3ポイントだ。
これはいい感じかな?
先に食べ終わったアコが期待の眼差しでこちらを見ている。
「今日のデザートはカステラだ。」
「カステラ?」
「ああ、アコは見たことないか?」
「ないの。」
「そうか、甘くて美味しいぞ」
そういってカステラを召喚する。
長方形の細長いカステラが出てくる。
今更だがこれ1枚のみとかだったら無駄にポイント消費したな。そんなことなくてよかった。
軽く拭いたナイフで適当に四当分にする。
「これがカステラなの?」
「ああ、たべていいぞ。」
「マスター!ありがとなの!」
うーん。この笑顔のために生きてるって感じだ。
「ふわっふわっでとっても甘いの!」
耳と尻尾が大暴れしている。
とても気に入ってもらえたようだ。
個人的には少し甘さとフワフワ感が足りない気がする。
あとこの砂糖多分黒糖を使ってる。
これはこれで味があっておいしいけれどね。
まあ、そんな無粋なことは言いませんが。
追加で出したオレンジジュースをアコに渡しながら言う。
「とってもおいしいだろう?世界にはほかにもたくさんのおいしいものがあるんだぞ。」
「こんなにおいしいのがたくさんあるの!?」
「ああ、ケーキ類だけでも相当数あるな。」
まあ、大半は出せないけど。
「すごいの…マスターと一緒でアコは幸せなの!」
向日葵のような、むしろもうこれ太陽なんじゃないのって笑顔を向けてくる。
明日は日焼けで真っ黒焦げだな。
もうすでにひとつ食べ終わったアコが残った2切れのカステラを見つめる。
「全部食べていいよ。」
「ぜんぶいいの?」
「ああ、俺はこれで十分だ。」
まだ半分ほど残ってるカステラを見つめる。
「ありがとなの!」
オレンジジュースを少しのみまたカステラに挑み始めるアコ。
そんなアコをおかずにカステラを進める。
こんなに美味しく食べてくれる娘がいるとどんな料理でも美味しく食べれそうだ。
「よし。アコ、俺は先に水浴びしてくるな。」
アコが3つ目のカステラに挑みかかった時にそういう。
「わかったの。」
目はカステラに夢中で、そう言った。
どんだけカステラが好きなんだ。
お皿を片付けて外の椅子の上に乗せて置いておく。
そのままアコに出してもらったドアをくぐり泉で水浴びをする。
結構緊張していたのかかなり汗をかいたと思う。
服を泉で軽く洗濯する。
事前に買って置いた紐を木と木に結び、洗濯物を干しておく。
「ただいま」
「おかえりなの」
まだカステラの余韻があるのかニコニコと笑いながら迎えてくれる。
カステラすごいな…。
「アコも水浴びしておいで。服は軽く泉で洗って干すといいよ。木と木の間に紐を垂らしてるから。」
ちゃんとアコのことを考えて低めに結んだから、アコ1人でもできるはずだ。
「わかったの。」
そういって扉の中へと入っていく。
アコが水浴びをしている間にダンジョンメニューをみる。
ダンジョン魔力を貯めたら最初に交換するつもりだったもの。
魔法具の二対一体の腕輪。
お互いの大体のいる場所がわかると言うやつだ。
ダンジョンメニューをみる。
ポイントは30ポイントあたりからだな。
お互いに意思疎通できる腕輪などもある。
500ポイントらしい。高すぎる…。
《ダンジョン魔力35ポイント消費。現在78ポイント。》
銀色の腕輪がでてくる。
うん、派手すぎず、でも、かなりおしゃれにできたと思う。
内側に魔法陣のようなものと幾何学模様などが書かれ、表面にはかなりうっすらと何やら紋章のようなものが書かれるのみだ。龍と剣だろうか?かなりかっこいい。
この腕輪何がすごいって装着者の大きさに変化するらしい。
魔法便利だな。
「ただいまなの。」
それからしばらくしてアコが戻ってきた。時間がかかったのは洗濯物かなとあたりをつける。
椅子に座りながらアコに声をかける。
「アコ、渡したいものがあるんだ。」
「渡したいもの?」
「ああ、こっちへきて手を出してくれないか」
「手?」
アコがそういいながら右手を出してくる。
アコが出した右手を優しく左手で掴み、右手で腕輪をつけてあげる。
「これ、腕輪?」
「ああ、お揃いなんだ。」
「マスターも同じのつけてるの!」
「ああ、これがあればもし離れてもお互いの場所がわかる。これでずっと一緒だ。」
「ますたぁ…」
アコが少し涙目で、でも嬉しそうに呟く。
「常に意思疎通ができる腕輪とかもあったんだが、高くて今は手に入らなくてな。それで我慢してくれ。」
「ううん、これがいい。これでいいの。」
アコが大事そうに腕輪を撫でる。
「マスター、ありがとうなの」
アコが抱きついてくる。
「俺も大好きなアコと離れるのは嫌だからな。ずっと一緒だ。」
優しく抱き返す。
「ますたぁ…わ、わたしも!わたしもマスター大好きなの!」
抱きつきながらアコが下から覗き込むようにそう言って、顔がみるみる紅くなっていく。
ああ、もう、かわいいなぁ。
右手でアコの頭を撫でる。
アコが顔を胸に擦り付けてくる。
猫みたいだ。
「アコ…」
アコの名前を呼ぶ。
「ますたぁ…」
アコがこちらを見上げ応える。
自然とお互いの唇と唇が重なる。
少し甘い味がした。
どちらからともなく離れ、また近づき合う。
アコをお姫様抱っこでベッドまで連れていく。
顔が真っ赤なアコは恥ずかしいのかこちらをみない。
ベットに優しく寝かせて、
「アコ」
名前を呼ぶ。
アコが応える前に唇を塞ぐ。
息をするのを我慢していたアコから唇を離し、
「マスター、がいいの…。マスターじゃ、なきゃ…」
だめなの。
とぎれとぎれに、呼吸を乱しながら、アコがそう呟く。
「アコ…。」
また唇と唇を重ね、貪るように求め始める。
ランプの灯る仄暗い異世界の夜に。
お互いの声が、優しく響き渡る。
あえてノーコメントでいきたいです。