第十五話:ケモ娘はダンジョンだと生き生きしているようです。
3つあるうちの一番左の扉をくぐる。
特に考えはない。
人はつい左を選ぶらしいって緋の眼の人も言ってた。
また何度か分岐点を過ぎて扉の前に着く。
ちなみに道などは覚えないようにしてる。
どうせ転移できるものがあるから余裕だろうとか気楽な考えである。
最悪ポイントがあれば生きていけるしな。
ちなみに遭難者などがでても助けに来るようなシステムはないらしい。あくまで自己責任なのだとか。
「いくぞっ」
「はいなのっ」
扉を開けて走ってくぐり抜ける。
なかにいるのは二足歩行の牛。
ミノタウルスだ。
大きさは牛より小さいかくらいだ。小太りのおっさんという印象。
うげ…。
みんな、考えて欲しい。
何もつけてない二足歩行の牛である。
裸のデブと表現したほうがわかりやすいかな。
そう、大事な急所が丸見えである。
ここまで堂々と弱点をさらけ出してると逆に清々し…くならないな。うん。
アコもそのせいかどうかわからないが扉を出すのがさっきよりも早い。
扉を開けるもミノタウルスはまだこちらを伺っている。
「アコ、今回は床がないから気をつけるんだぞ。」
「わかってるの。」
そういいながらアコが石ころを投げる。
結構なスピードでミノタウルスの顔に当たる。
アコ、つよくないか…?
ぶるぅあ!っとヨダレを撒き散らしながらこっちへ走ってくる。
もうすでにアコはダンジョンの中へと入っている。
俺もそれに続き扉をくぐり走って落とし穴の反対側まで行く。
先に着いたアコがさらに走ってくるミノタウルスに石ころを投げる。
怒り心頭なミノタウルスがまっすぐアコを目掛けて突進するも、
ぶぅもっ
っと、潰れた音と一緒に変な声をだす。
ダンジョンメニューを見てポイントを確認する。
59ポイント。
26ポイントか?
さっきよりも美味しいな。
それにしても案外ポイントが美味しい。
これなら温泉も近いうちに交換できるぞ!
ホクホクしながら扉をくぐり、アコが出しなおした扉から落とし穴の下にいく。
魔石を回収してまた左の扉に入る。
魔石も10センチ近くある。かなり大きい。
これはいい値段になりそうだ。
今度は扉が2つしかなかったな。
次の扉は結構早めに見つかった。
アコに軽く頷くと、アコも頷き返してくるので扉を開ける。
走って扉をくぐると、またミノタウルスがいた。
アコが嫌そうな顔をした気がする。
扉を出して石ころを投げる。
弾速がさっきより早いのは気のせいだろうか。
当たったのを確認してアコが颯爽とダンジョンのなかにはいる。
俺が扉を開けてる間にしっかりと石ころを当ててるあたり場慣れし始めてる。俺が石ころ投げる暇がない。
俺もアコに続いてダンジョンに入ると、先についているアコが突進してくるミノタウルスに石ころを投げる。
ちゃっかり2つ目も投げて、2つ目の石がミノタウルスの左目に当たる。
痛みで転び、しかし勢いが止まらないまま落とし穴に落ちていく。
アコ…そんなにミノタウルスが嫌いか…。
若干アコがすっきりした顔をしてる気がする。きのせいかな?きのせいだといいな。
これで84ポイント。
あれ1ポイント少ない?
個体差があるのかな?
魔石を回収してまた左の扉を選ぶ。
今更だか、この扉ってどちらを選んでもあまり変わりないような、構造的にこの近さなら分岐点で合流したりするよね。
いや、逆に考えるとぐるぐると同じ場所を回る可能性もあるのか。
そういう意味では全て左を選択するのもありなのか?
迷路で迷ったら左手をついて歩けともいうし。右手だっけ?
ん?左だけだとそれこそぐるぐる回らないか?
考えるのをやめよう。
テキトーでいいんだ、テキトーで。
迷っても転移で出れるし。
迷っても飢えて死なないしな。
そんなことを考えながら歩いていると次の扉に着く。
「アコ、大丈夫か?」
「大丈夫なの。」
「この中のやつを倒したら少し休憩にしようか。」
「わかったの。」
小部屋のなかは魔物を倒して、中から出なければ次の魔物は湧かないし、他の人も入れないらしい。
なので、疲れたパーティが休むときは小部屋のなかで魔物を倒してから、小部屋の中で休むらしい。
開かない扉があるとそこはほかのパーティが戦闘中もしくは休憩中なのでほかの場所を探す方がいいらしい。
扉をくぐり走ってなかに入る。
今度はイノシシのようなオオカミのようなヘンテコなやつだ。
ボアウルフ。
普通の大型犬くらいの大きさで、オオカミのように細長いのに足が異様に短い。
若干小さめだ。
そんなことを思ってると、すぐにこちらに気づいたボアウルフが唸る。
アコが扉を出し終わり、もう石ころを投げている。
扉を開けるとアコがすぐになかにはいる。
遅れずになかに入り、落とし穴を回り込む。
先に到着したアコが突進してくるボアウルフに石を投げるも、ボアウルフは若干小さく当たっていない。
しかし、石が当たらなくともこっちに突進してくるだけで問題はない。
ぶぎゅ
と、変な声と、トマトが潰れたような音と、何かが砕けたような音が同時に聞こえてきた。
98ポイント。
14ポイントか。
こいつが今の所一番ポイントが少ないな。
魔石も少し小さめだった。
レッドボアよりも魔石もポイントも少し大きめだったミノタウルスが今の所一番美味しいな。
「じゃあ、休憩にしようか。泉のそばに扉出せる?」
「わかったの。」
泉のそばに行き、手と顔を洗う。
ダンジョンに入ってどのくらいだろう、2時間くらいかな?
まだお腹は空いてないのでオレンジジュースを2つ出す。
オレンジジュースを見たアコの耳と尻尾が嬉しそうに動く。
「アコはほんとにオレンジジュースが好きなんだな」
「とっても甘くて美味しいのっ!」
泉に足を入れてパシャパシャと水をはねながら、美味しそうにオレンジジュースを飲むアコ。
うーん、いい眺めだ。すごい和む。
ここが命がけのダンジョンのなかだと忘れてしまう。
アコがオレンジジュースを飲み終わったのをみて声をかける。
「いけそうか?」
「大丈夫なの、まだまだ全然いけるの」
「じゃあ、いこうか」
「あ、あの、マスター」
「どうした?」
「あの、手、繋いで欲しいの」
ケモ耳娘にそんなことを言われたら、断れるやつなんていない。
「ああ、安全な通路だけな。」
「わかったの!」
笑顔で応えるアコの手を取って、次の扉を開きライトアップされた通路を仲良く歩いた。
アコちゃん、根っからの狩人ですね。