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③決断

「汝にもう一つ、言っておくことがある。

『神』とは傍観者でしかない。

何かに直接、干渉はせず、ただ、見ているだけしかできないとだけ言っておこう。

まぁ、アドバイスぐらいかな、できることと言えば・・・だが。」


 神の言葉に僕は失望した。

 神に縋ることさえできないんだと知った。


 ただ、このまま時間を引き延ばすわけにも行かなくなったことは確かだ。

 時間がない。

 でも、決められない。

 たぶん、ここで、決めてしまうと、後戻りが不可となるだろう。

 余計に慎重になってしまう。


 ・・・


 どうしよう。


 そんな困った状態を知ってか知らずか、神は、口をはさんでくる。


「深く考えても仕方ない。

汝がどれを選んだとしてもその先で、頑張らなければならないことには変わりないのだからな。

だから、何度も言ってるが、どれを選んでも正解だし、間違いじゃないというのは、そういうことだ。」


 神はああ言っているが、果たして、平等な選択肢なのだろうか?


 僕は、疑っている。

 なぜなら、この世界は、平等じゃないから。

 だからと言って、それを見極めることは僕にはできない。


 ただ、よくよく考えてみると、この選択肢の中で、1つ目だけは他と大きく異なるということが分かった。

 あえて、選択しなかった場合には、タイムアップで、1つ目になってしまうからだ。

 つまり、こういう状況において、選択する可能性が高いのは、1つ目と言えるのではないだろうか?


 ここで、考えるべきなのは、大多数が選択するものがいいのか、それとも少数派の方がいいのかということ。

 なかなか、踏ん切りが付かない。


「悩んでいるところ悪いのだが、あまり時間を掛けても汝が消えてしまうかと思う。

1つ目の選択肢以外を考えているならば、早めに決断した方がいい。」


 神が急がしてくる。

 ただ、神が言っていることも正しいと思えるようになってきたのは、さっきから、徐々に僕の体が薄くなってきているように感じているから。


 たぶん、これが消えるということなのだろう。


 僕が一番選びたいのは、時間稼ぎができるもの。

 極力、先延ばしにしたいと考えている。

 それが可能な選択肢はどれなのか?


 たぶん、3つ目なんだろう。

 精神を鍛えると言っていた。

 鍛えるには、いくらかの期間が必要だろう。

 そういう風に当たりを付ける。


「神。僕は3つ目の選択肢である『精神を鍛える』というのを選ぶよ。」


 やっと、決断した。

 これが最善の選択であることを願うばかりだが・・・。


「そうか。ならば、ここに来た意味が少しは出てきたようだな。」


 神は思わせぶりなことを言い出す。

 いまいち、この神とはうまく行く気がしない。

 人じゃないから、合わないのだろうとか思いつつ、無難な選択だったことを祈っている。


「さ、汝が消えてしまう前に次の世界へ旅立とう!」


 神はそういうと、僕の手を取り目の前に広がる光の中へと突っ込んで行った。



 ・・・手に感じる熱に気付き、ふと、考えた。


 誰かに手を引かれたことなんて、何年振りだろうか。

 神は中世的な顔立ちで、男なのか女なのか判別できない。

 女だったら異性を意識してしまうだろうが、男であっても、こうして、人の手を握るということが最近では全然なかったから、冷静な気持ちでいられない自分がいるように思う。



 神に連れられて行く。

 さて、これから僕は何をしたらいいのだろうか?

 一寸先は闇とはこのことなのだろう。


 そして、そういう状況に置かれた自分を心底、怖いと感じる。

 よくよく考えてみれば、今まではある程度、こうなると予測しながら暮らしてきた。


 もちろん、その通りにならないことも多々ある。

 でも、不思議なことに、同じことの繰り返しが続けば続くほど、明日何が起きるのか、ということが何となく分かる。


 逆に言えば、パターン化されてしまっているとも言える。

 それって、どうなのだろうか?

 マンネリ?

 安定?


 それから、もう一つ感じていることがあった。

 社会というのは、決められているルールというのがあって、たとえ、それが理不尽なルールであっても、抗う事が出来なかったりする。

 大人になるっていうのは、そのいうことを知って、受け入れるということだと最近知った。


『諦めが肝心』だとか、『長いものに巻かれる』とか、そんな類の言葉が徐々に自分の中に浸透していく。


 今、自分がこんなことになったのも、理由が分かったような気がした。

 それでも、たぶん、必死にもがきながらも無力の自分を悟るんじゃないのかなといつでも思ってしまう。


 そろそろ光の中の向こうへと着くのだろう。

 先には、一体、何が待っているのか?

 行ってみないと分からないが、僕は心のどこかで感じていることがあった。

 どうせ、大したことはない、と。

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