②選択肢
神からの選択肢を聞いた僕は悩んでいた。
神の言うとおり、どれを選んでも間違いじゃないという言葉。
だからこそ、余計に分からなかった。
今まで、正解ばかりを考えてきた自分にとって、正解が分からない状態に不安を覚える。
おまけに理解力が低下しているらしいから、それが拍車をかけて、不安を助長する。
「そうそう、汝に言った選択肢の中の1つ目だが、今、こうして選択せずに悩んでいる状態がその選択した状態とも言える。このまま優柔不断に悩んでいても、徐々に精神エネルギーが拡散して消えていっているからな。そこのところは忠告しておこう。」
神が非情なことを言い出す。
一つ納得した。
3つの選択肢しか取れないと言ってたが、何も選択しないというのもその3つの選択肢の中から選択していることになっているんだ。
要するに僕には、選択肢を選ばないという方法はないらしい。
ただ、たぶん、こんな優柔不断に慎重になっている自分を思うに、目の前で意識の戻らない自分も同じように優柔不断だったんだろう。
目の前で眠っている自分が自分であるという認識はあるが、その自分がどんな人物だったかまでは思い出せない。
神の言うとおり、記憶の中の一部の情報しか、この体には詰まっていないからだろうな。
僕は、最後の手段を使うことにした。
「神。僕に教えてほしいことがある。その3つの選択肢の中で、ベストな選択肢はどれなんだ?」
そう、僕は神に聞くことにした。
「汝はそこまでして、正解を知りたいのか?まぁ、完全には死んでいないとは言え、生前は、極力、無難に人生を渡ってきただけあって、『間違い』はしなくないのだろう。あいまいな記憶情報しか持たない『今』の汝には、自覚できないのだが、それでも、生前の主義は残っているようだ。」
「・・・?それで、神。何か自分にとっては、ベストな選択なのか教えてほしい。」
僕は、正解を知りたい。
間違いをしたくなかった。
だから、どうしても、神から『解答』を聞かないといけなかった。
「とりあえず、杓子定規になるが、3つの選択肢に優劣はない。どれを選んでも同じだ。ただ、それでは汝は納得しないと見るから、選択肢を偏らせる情報を与えようか?」
神は一旦言い終わると、まじめな顔から一転、口角を上げて、にやりと笑う。
「さて、汝に問おう。汝の名は何だ?」
唐突の神の質問に僕は考え込んだ。
不思議なことに目の前にいる自分自身の名前が出てこないのだ。
「・・・分からない。・・・本当に分からないんだ!」
「そうだろうな。あそこで寝ている汝のほんの一部の情報が『今』の汝なのだからな。死ぬと言うのは、そういうことなんだ。自分のことが分からなくなっていく。最期は、意識もできなくなる。すなわち無だ。どうだ?知らぬ間に分からなくなり、いつの間にか消えてしまうかもしれないという気持ちは?」
「びっくりだ。確かに、自分は自分だと思っているが、いざ、説明しようと思ったら言葉が出てこない。」
「消えるというのは怖いとも言えないだろう?さて、次は、なぜ、汝は、精神エネルギー体になってしまって、今ここにいるか、だ。」
「確かに。この状況はたぶん、異常なのだと思う。
今までにこんな経験したことないし、夢じゃないか?とか思っている。
でも、なぜか分からない。」
「汝は、交通事故に遭って、そのまま人生が終わるというのもあり得た。だが、辛うじて、こういう状況となった。汝の心のどこかではまだ終わりたくないという思いが残っていたからだろう。さて、そのまま消えるだけだった選択肢から2つの選択肢が追加されたと言えば、汝はどの選択肢を選ばいいと考えるのか?」
神は、今の自分の置かれた状況を冷静に分析した。
そして、僕は、神に確認をする。
「2つ目、もしくは3つ目の選択肢を選ぶのが正解ということか?」
「だから、何度も言うが、正解はない。」
それでも神は、執拗に解答を言わない。
僕は・・・
「神。解答が欲しい。どれが正しいんだ!
『神様』だったら、それぐらい教えてくれてもいいじゃないか?!」
不安なんだ。僕は間違う事が怖いんだ。
「選ぶのは、あくまで汝自身だ。それとも汝は『他人』が決めたことに疑いもせず、従うのか?そこには自分というものの価値が入っていないぞ!まだ、分からないようだから、もう一度言う。汝は、一択だった選択肢を三択に増やした。それがどういう意味か分かるか?」
それでも、神は僕に解答を示してはくれなかった。
「不満そうだな。汝は、どうしても変われないようだ。さて、ここで、重要なことを汝に伝えておこう。汝のそのエネルギー体の寿命はそんなに長くない。早く決めないと、1つ目の選択肢となり、そのまま拡散するだけになる。」
・・・
神は期限を切ってきた。
僕は一体何を選んだら・・・。
「ほ、本当に僕は何を選んだらいいんだ!!」