①神との遭遇
気付いたら、目の前に自分がいた。
詳しく説明するならば、多分、病院と思われる場所の部屋のベッドに自分が寝ているのが見えた。
おかしいと思われるかもしれないが、この目で自分が寝ている姿を見ている。
そして、それを見ている自分は・・・と言うと・・・
手がぼやけている。
足も同様にぼやけている。
そして、よく考えてみると、空中に浮遊している。
それはまるで・・・
「幽霊みたい、って、ところか?」
誰かの声が聞こえた。
声の方へ顔を向けると、そこには、男なのか女なのか分からない顔立ちの人?がいた。
僕が驚いているところに間髪入れずに言葉を続ける。
「実際、汝は、幽霊みたいな状態なのさ。」
「あ、あの・・・突然で、状況を飲み込めないんだが、あんたは誰なんだ?それと、この状況について、何か分かるのか?」
僕はとりあえず、この意味不明な状況を打破したいと思った。
分からない状態でいるのが非常に不安になってきたからだ。
「汝の質問に簡潔に答えていくよ。まず、私は神だ。汝たちが想像する神で差し支えない。それから、汝は、今、生と死の狭間を彷徨っている状態だ。」
自分を神と自称する人?がこの状況を説明している。
「神?狭間?悪いのだが、まだ、状況が掴めない。第一、なぜ、僕は自分を見ているんだ?それに・・・」
僕が言い終わらないうちに神が口を挟んできた。
「汝は、死にかけた。だが、まだ、死んでいない。かと言って、『現実』の肉体の方は意識も戻らない状態だ。そして、今の汝は精神エネルギー体として、肉体から抜け出てこの宇宙空間に存在している。状況説明は以上だ。」
僕は神の言葉を一つずつ噛み砕いていく。
「・・・ということは、僕はこん睡状態で、魂が体から抜け出た状態ということでいいのか?」
魂なんて信じていない自分だが、とりあえず、適当な言葉が思い浮かばなかったから、そう確認した。
「その認識で間違っていないよ。それからご愁傷様と言っておくよ。」
「何がご愁傷様なんだ??」
「この状況を見て、汝は、何か思い出さないか?ちょっと前に何をしようとしていたのか?とか。」
神の質問に対して、僕は、少し前のことを思い出そうとした。
「うーん・・・何があったっけ?」
なかなか思い出せない。
「思い出せない汝にきっかけを与えてやろう。汝はスピードを出ている車の前になぜか出た。なぜだろうな?」
神のヒントに忌々しい映像が甦ってきた。
「・・・そう・・・だった。僕は、道路に飛び出した。なんで?だったか。」
なぜか車が行き交う道路に飛び出そうとした自分を思い出す。
なぜ、そうしたのか、思い出せない。
「ヒントその2。汝は疲れていた。なぜ、疲れていたんだろうな?」
神はまた、ヒントを出してきた。
その言葉を聞いた瞬間、僕は、それまで忘れていた記憶を紡ぎだしていた。
「人生に・・・疲れ果ててたんだ・・・僕は。そして、ふらっと、スピードが出ている車を見て、吸い込まれるように道路に出てしまった。」
直前の記憶で、覚えているのはそこまでだった。
それ以降は何も覚えていない。
「よく思い出したね。とりあえず、汝の直前の行動を詳細に伝えよう。
汝は日々、激務により、心身ともに疲れ果てていた。そのせいで、まともな考えが出来なくなっていた。
そこにある考えが思い浮かんだ。そう、死んだら楽になるのかな?と。そう考えたら、交通事故に遭ったら、楽になるのかな?と思い始めた。
それからは、頭はまともに働かず、車の前に飛び出してしまい。車に轢かれた。運悪く汝を轢いた車の運転手は直前で、ブレーキを踏み、幸いにも汝への衝突ダメージは軽減された。
もちろん、即死までは至らなかったが、それでも意識不明の状態だ。
これが『現実』の汝の肉体の状況だ。」
神の説明を聞いて、忘れていたことを思い出しつつ、嫌なことも思い出してしまった。
「・・・でも、なぜ、こんなこと忘れていたんだろう。本当にすぐ直前の話なのに・・・」
「簡単さ。『今』の汝は、最低限の汝だったものが精神エネルギー体として存在しているに過ぎない。
しかも、それは、ふわふわと確定しない量子状態で、はっきりとしない上に、自分が分かる最低限の情報しか詰まっていないからな。」
神はさっきから親切に説明してくれる。
でも、全部を把握しているかのようなこの自称『神』は一体なんだろうか。
「あのさ、あんた、さっき自分のことを『神』と言ったような気がするが、神ってなんだ?」
僕は率直に聞いた。
なんか、自分がどうなったのか分かった状態で、次にどうすればいいのかとかそんなことが分からなかったから、今、一番、それに関係ないことで逃避した。
「神は神さ。宇宙における全知全能の存在さ。
まぁ、今の汝は、そこに横たわっている汝の記憶という情報を全て内包していない精神エネルギー体だから、知能が落ちて、理解力が低下しているから仕方ないのだろうがな。」
「つまり、あんたは、本当に『神』ということか?
そして、僕は、記憶が完璧じゃないから、昔のことを思い出せないと。」
僕は入手した情報を基に出た考えを整理した。
「汝のその理解で、だいたい問題ない。
あと、それから、今、不安に感じていないかね?」
・・・そうなんだ。神の言うとおり、僕は、不安だ。
何も分からないという無知の恐怖が襲いかかってくる。
しかも、他にも思い出そうにも何も思い出せない。
記憶喪失という言葉を思い出したが、今の自分は、その状態なんじゃないか、と思う。
「あのさ、あんたは神だから何でも知っているのかもしれないから聞くよ。僕はこれからどうしたらいい?」
もう、誰かに何をしたらいいのか判断を委ねるしか僕にはできなかった。
「じゃ、本題に入ろうか。汝がこれからできるのは3つのみ。
まず、1つ目。
このまま、そのエネルギー体のまま何もせず、エネルギーが拡散するのを待つ。
つまり、最低限汝を形作っているのが消えるイコール死を待つ。
『現実』の肉体は仮死状態だから、そのうち衰弱して、そっちの方も死ぬだろう。
そして、精神は、霧散して、次の命の材料となる。
中には、輪廻転生することもあるが、元々の精神に依存する面が強いため、同じような人生を繰り返すこともしばしばだ。
次に、2つ目。
その精神エネルギー体を『現実』の体に戻す。
こうすれば、汝は意識不明の状態から回復するだろう。
ただし、今、私と出会ったここでの情報は消えてしまうがな。ここでの時間が切り取られて、元の自分に戻る。単に状況は変化せずに交通事故に遭った以降につながるだけだ。
そして、3つ目。
汝は、おそらく、元の『現実』に戻ったとしても幸せになれるかと言えば、難しいだろう。傍から見れば、ただの自殺未遂だからな。
精神というのは、形をいろいろと変えられる。それこそ、楽天的になったり、悲観的になったりと、自在だ。もし、精神を鍛えることに成功して、『現実』に戻ることができれば、『現実』に影響を与え、今までの自分ではなく、生まれ変わった自分として、新たな人生を送ることも可能だ。当然、そう易々とうまくいくのは稀だがな。
以上だ。
一つ言っておくが、どれが正解とか間違いとかそういうのはない。どれも選択しても構わない。どの場合もあくまで、自分次第だからだ。」
神は言った。
僕には、3つの等しい選択肢があると。