新世界神話 其の弐「世界の新成」
初めましての人は初めまして。七時雨虹蜺です。前書いた短編の続きを書きたくなったので続き(?)です。前が気になった人は私のマイページに行って探すか、タグの「新世界神話」で検索すればたぶん大丈夫です。
新世界神話 其の弐「世界の新成」
天使の光臨の後、白き大地が無くなり、世界の大地の半分が水に覆われました。かつて世界の頂点に君臨していた生き物はその姿を消し、残された地上には動物たちが各々の人生を過ごしていました。
そんなある日、神は二つの新しい命を世界に送りました。その二つの命は『人間』と呼ばれる生き物の姿をしていました。
片方はアダム、もう片方はエヴァと呼ばれる名前をそれぞれ授かっていました。アダムは普通の生き物と同じでしたが、エヴァは違いました。エヴァは自然と対話する力を持っていたのです。
彼女が笑えば、草原には花々が咲き誇り、空は雲一つない晴れとなり、動物たちは楽しそうに踊り、歌います。しかし、彼女が泣けば、植物はしおれ、たちまち空は分厚い雲に覆われ、雷鳴が轟き、動物たちは姿を隠してしまいます。
アダムとエヴァはそれぞれ違う場所に生まれたので、二人が会うことはあまりありませんでしたが、ある日、二人は出会いました。
アダムが初めて彼女に会った時、目を丸くしました。
……今まで美しい物をたくさん見て来たけど、こんなに美しいものを見たのは初めてだ!
一方、エヴァは、
……彼はなんとたくましいのでしょう! こんなに胸が高鳴ったのは初めて!
と思いました。同時に蝶がエヴァの周りに集まりました。
要するに二人とも一目ぼれしたのです。
二人は初めてそこで『恋』という感情を知り、『愛』を知ったのです。
それから人間の感覚でいう数年の時が流れ、二人の間に二人の子供を授かりました。
その男の子の名前は「カイン」、女の子は「マリ」と言いました。
さらに数十年。
カインは大自然の間でのびのびと育ちましたので、アダムのようにたくましい男性に。マリはエヴァからありとあらゆる事を教わり、それを身に付けたので周囲を魅了する女性となりました。
大人になったのを見届けたアダムとエヴァは二人に一言だけ残して旅へと出発しました。
まだ見ぬ世界を見る為に。自分の使命を達成する為に。
数世紀の時が経ち、二人は出会った場所に再び戻って来ました。するとそこは大きな街となっていました。
カインとマリの子孫はあのあと更に数を増やし、大きな街を作るほどになっていたのです。
それを見たアダムとエヴァは使命を達成したので天に戻らなければなりませんでした。そして二人は幸福と安らぎに包まれたまま、天へと昇っていきました。
それを見て、全てを知った人間達は、二人を敬って天に届くほど大きな塔――バベルの塔を作りました。
最上階には大きな鐘があるのですが、街で結婚式を開いた時、誰もいないのに鳴ると言うのです。きっと二人が天から祝福しているのでしょう。
こうして、世界は、新たなる時を刻み始めました。