噂のあの人
ここだけの話、俺はスーパーマンなんだ。
正義の味方として、昼夜問わず悪の組織と戦っている。
……いや、笑うなよ。ホントだって。ホントホント。
だから、冗談じゃないってば。優子、笑いすぎ。…マジなんだよ。俺は正義の味方なの。
……え?変身してみろ?…ダメだ。それはできない。
そりゃあ……あれだよ、あれ。俺がスーパーマンだってことは秘密にしなきゃいけないからさ。
それこそ、悪の組織に知られたら困るんだ。
……え?じゃあ、なんで教えたか?
決まってるだろ。優子だからだよ。
恋人には教えていいって決まってんだよ。
ハリウッド映画観てみろよ。赤いやつも黒いやつも、大抵恋人にはカミングアウトするんだぜ。
そうそう。な、してただろ?……え?そんなの覚えてない?
まぁ、覚えてないならそれでいいんだよ。
大事なのは俺がスーパーマンってことさ。優子、これで分かってくれたかい?
…だから、なんで笑うかな……。
確かに急に言われて、あっさり信じられるようなコトじゃないっていうのは、分かるんだけどさ。
でも、そうなんだよ。だからさ、ほら、とにかく理解して欲しいんだよ。
俺がどうして昨日来れなかったか。
……いや、だから悪かったって!ごめんってもう言っただろ!
あぁ、そうだよな。優子の大切な誕生日だったんだよな。ごめん。悪かった。土下座もしただろ!
でも俺だって仕方なかったんだよ。……そうだ。悪の組織と戦ってたからな。
……え?悪の組織って誰なのか?……いやいやいや、それは教えられないな。
なんで?なんでって……あっ、いや、俺も知らないんだよ。あいつらの正体。
薄々は気づいてるけどな。勿論。嘘じゃねえよ!
ハリウッド映画でもあるだろ。こういう話。正義の味方してると恋人と仲が悪くなるって展開。
で、しまいに別れちゃったりしてさ、「正義の味方なんてやめたい!」とか言っちゃうんだよなあ。
……って、いや、別に分かれたいわけじゃないよ!?
じゃあ、正義の味方やめろ?……悪いが、それはできないな。優子にはすまないと思ってる。
だけど俺は罪のない人たちを助けたいんだ。俺にしかできないことだからさ。
……そうだ。俺だけなんだよスーパーマンは。
そりゃあもう、ブラック企業も真っ青になるくらいの激務なんだぜ?
今?今は…悪の組織も休んでるみたいだな。
……あぁ、きっと昨日に俺がこてんぱんにしたから、今頃、次の作戦でも練ってんだろ。
どうやって退治したか?ふっふっふ、知りたいのか?
残念っ。それも教えられないんだ。
戦い方について詳しく言うと、戦ってる時に俺がヒーローだってバレるからさ。
…あ、あぁ…まぁ…確かに、もうバレてるけどな…。でも、ほら、一応。
俺のことに深入りすると、いつかお前も狙われるかもしれないしな。誰に?そりゃ、悪の組織にさ。
ハリウッド映画でよくある展開だな。ヒロインが襲われるってやつ。
男の子とか、捕まってるヒロイン見てさ、そういうときワクワクしちゃうんだよな。
……おい怒るなって!ただのジョークだよ、気にすんなって。あぁ、そうだな。俺が悪かった。
大丈夫。お前のことは俺が守るからさ。
……私よりも先にデートの約束を守ってほしい?
そ、それもそうだよな…悪い。
でもさ、優子もしつこいぜ。過ぎたコトじゃねえか。気にしすぎだと思うぜ?
いや、勿論。俺が悪かったって。それはそうだけど。
……そうそう。今更どうしようもない。その通りだよ。
へっ?昨日、一緒にいたあの子は誰だって?なんの話だい?
……浮気だなんて、違うよ!まさかぁ!いやいやそんな、見間違いだろ?
え?写真撮った?……それ、盗撮だろ!犯罪犯罪!
「この子は誰?」って……えっと、その子は……ぴ、ピンクだよ!
そうそう。俺の仲間。彼女も正義の味方なんだよ。
……正義の味方は俺だけだって……確かにさっきは、まぁ、そう言ったけど……。
じ、実は昨日分かったばっかなんだよ!そう。いきなり出てきてさ。
「アタシもスーパーマンなのよ」ってさあ。お、俺も驚いちゃったよ!
……う、嘘じゃねえって!俺は正義の味方だぜ?嘘なんてつかねえよ。
正義の味方が嘘なんじゃないか?
おいおい、いい年した大人がそんな嘘つくと思うか?……いや、だから信じろって。
ピンクに連絡しろぉ?それはできないな。盗聴されたら困るだろ?
そう。悪の組織にさ。……あいつらはインテリなんだよ。盗聴なんてお手のもんさ。
……今の会話?それは大丈夫。直接喋ってるからな。
あいつらは携帯電話を傍受するんだ。
……ピンクの携帯電話の番号?そんなん、知ってどうするんだよ。
電話して確かめる!?だ、ダメだ!傍受されるだろ!
私がかけるからって…いや、優子。ダメだ。君が危なくなる。……な、なるんだよ!
とにかく、君を巻き込むことはできない。
君はあくまでスーパーマンの恋人であって、スーパーマンじゃないからな。
おい、優子?おい、優子!どこ行くんだよ!
……もう我慢できない?っておい!やめろよ。別れるなんて言うなよ。
俺たちまだこれからじゃねえか。おい、頼むよ。
分かった。俺が悪かった。そうだよ、俺はスーパーマンなんかじゃねえよ!
……優子?……おい、待てよ!待てって、話聞けって!
………お、俺は悪の組織の一員なんだよ!昨日は残業で、帰って来れなかったんだ!!
……………。
優子……ゆ、許してくれんの?
そっか。ありがとう。嘘ついてごめん。悪かったよ。
もう嘘はつかない。……いや、まあ、それは嘘だけどな。