君の好きなうた。
眠れなくて即興で書きました。
大人の恋も書きたいな〜と。
偶然とはおそろしい・・・・・・。
数年ぶりの再会で一瞬、誰かわからなかった。
時々、元気かな? 程度には思い出しはしていたけれど。
まだ子供だった頃、大人になるまで一緒にいた人。
誰よりもあたしのことをわかっていてくれた優しい人。
たくさんの思い出がふきだしてくるみたいに頭の中をぐるぐるする。
いいものも。
わるいものも。
「今、帰り?」
あたしは必死で平静を装って話しかけていた。
何もこんな平日に、こんなに大勢の人間の中からこの人に会わなくてもいいだろうに。
仕事帰りの駅のホーム。
知らない人間のほうが断然多いにきまっているこの場所であたしは10年前に別れた彼を見つけてしまった。
「いや、これから仕事。夜番だから」
「まだあそこのレストラン?」
「違う場所。今はダイニングバーみたいなところ」
「へ〜。そっか、シェフの道は険しいもんね」
以前は目を輝かせて話してくれた夢も今はもう現実に押しつぶされちゃったわけだ。
相変わらず童顔でとても30過ぎにはみえない彼をまじまじと見つめる。
「み・・・・・あー、佐野さんはまだあそこの事務所に?」
み。その後はわかる。
苗字でなんか呼んだことなんかないくせに。
もうあの頃の愛称で呼ぶ事はできないってわけだ。
「もう変わったにきまってるじゃない、あれから何年たったと思ってるのよ」
困った顔が昔とちっとも変わらないのに笑いがでてしまう。
本当にあれから10年もたったなんて思えないくらい。
「だよな。飽き性だもんな」
「そう、でもちゃんと働いてる」
「働くの嫌いってあんなに言ってたのにがんばってるな」
くしゃっと皺をつくって笑う彼が好きだった。
いつも受け止めてくれる優しさが好きだった。
「もういい大人ですから」
「確かに。もう子供じゃないからな〜」
「だよ。そっちこそ結婚生活はどう?」
あたしと別れた後につきあった人と結婚すると報告は受けていた。
彼が結婚を決めたと聞かされて、その後、一度だけ会う機会があった。
おめでとうと心から祝福したけれど、彼は複雑な顔をしていたのをおぼえている。
だからこそ会うのは怖かった。
ほんの少し会話して早く消えたかった。
彼が結婚して、その後どうなっているかなんて知らなくていい。
それなのに・・・・・・。
「普通だよ」
「もう5年? 子供は・・・・・・あ、これは聞いたらまずいか」
「何に気をつかってるんだよ。子供はまだ。あの人がまだいらないって」
「ふ〜ん。年上なのにまだなんだ・・・・・・」
「子供好きじゃないってさ」
少し寂しそうに笑う。
うまくいってないの? 不満があるの?
それを知ってもあたしには何もできないんだけどね。
心の中で苦笑する。
早く仕事に行けばいい。
これ以上、思い出を汚したくなかったし。
なによりも。
あまりにも遠くて。
あたしと彼はもうなんの関係もなくて。
遠い。
彼からあたしも遠いだろうし。
あたしから彼は遠くて。
話をしても届かないんじゃないかと思ってしまうほど。
あたしも変わってしまったし。
彼も変わってしまってる。
「あ、まあ・・・・・・なんだっけ」
「何よ、もー、こんなとこで時間つかっていいの? 仕事いいの?」
「あー・・・・・・だよな。あ! なんだ、その・・・・・・」
時々、何かを期待してるみたいに話しをつなげようとするのがいやらしくて。
前はこんな事をしなかったって拒絶反応がでてしまう。
元気に生きていてさえいればそれでいい。
そう思って別れた時は。
あたしの想いはもう恋とはちがっていた。
一緒にいる時間が長すぎたって思ってたけど本当はそうじゃない。
一緒にいてもお互いをたかめられなかった。
同じところで甘えて。
あたしたちはダメになっていく。
あたしは変わりたかった。
甘えてワガママばかり言って何も努力しないのではなくて。
努力してしっかりとした女になりたかった。
仕事も自分も楽しみたかった。
「はっきりしないのは相変わらずなのね〜」
あたしは笑うことしかできなかった。
あの時の選択は間違いじゃないってずっとどこかでひっかかっていて。
まだ答えはでていない。
今、目の前にいる彼はどうだったんだろう。
もう忘れてしまってるかな。
それともまだ恨んでいるんだろうか。
勝手に決断してしまったあたしを・・・・・・。
「ほら! あたしも帰るから行って!」
「お、おう」
「またね! 仕事がんばって!」
「またね」なんて社交辞令をいいつつあたしは彼に背を向けて歩き始めた。
すこし歩いたところで振り返ってしまった。
しまった!!と思った時はおそかった。
以前と同じ。
彼はずっと見ていた。
「何で行かないの!? 仕事おくれるよ!」
あたしは手を振って走りだす。
子供じゃあるまいし。
バカだ。
だけど。
あたしもバカだ。
どんなにショックを受けたとしても。
今はもう変わってしまっても。
思い出は消えなくて。
二人でよく聞いたラジオ番組を今でも時々きいていたり。
二人でよく行ったお店や。
車の中で眠ってしまうとあたしの好きな曲をかけてくれた事とか。
あたしが寝てると思って、歌をうたってしまっていたこととか。
何もかもを鮮明におぼえている。
今でも変わらないもの。
一緒じゃなくていい。
どこかで生きていてくれさえいればそれでいい。
「ずっと一緒にいようね」
彼がくれた約束。
破ってしまったのはあたしだった。
手を離してしまったのはあたし。
それなのに、いまだにあの人はあたしに笑いかけてくれる。
「リョウ、あたしのことどのくらい好き?」
「さあ〜? どのくらいなんてわかんないよ。なんでそんなに心配なんだ?」
「だって、なんか不安なの」
「じゃあ、毎日愛してるって言うかな」
「言葉よりリョウの一部になれたらいいのにな。手とか足とか体の一部になりたい」
「そんなのダメだー! ミイがいなくなっちゃうじゃん。ずっと一緒にいればいつか不安なんてなくなるだろ」
「そうかな、うん。じゃあ約束ね」
毎日、仕事が終わると3分の電話。
毎週火曜日のデート。
帰りの車の中はあたしの好きな曲が流れる。
運転中も手をつなぐ。
不安で寂しくて恋しくて幸せな時間。
それなのに・・・・・・。
あたしは彼との約束を破って自由を手にいれた。
別れを切り出した時の彼の涙。
あたしは忘れない。
彼を傷つけたから、そのぶんだけ罰を受けた。
あたしはまだ自由の中。
リョウと別れて傷つくって事が痛いって知ったから。
本当はリョウに会うのは辛い。
リョウがはやくあたしって存在を忘れちゃえばいいのにって。
あたしは人混みをかきわけて改札口を出る。
胸が少しだけ痛む。
リョウを乗せたであろう電車がホームを離れていくのが見える。
胸の中に流れるあの曲。
あたしが好きだといって彼も好きだといったあの曲が聴こえる。
恋しいわけじゃない。
戻りたいわけでもない。
ただ、あの頃のあたしが泣いてるだけ。
「帰りたくないよ・・・・・・」
「また来週な、もう遅いぞ」
「ぶー・・・・・・はやく大人になりたいよ」
「すぐだよ。ほら行けよ、家の人が心配する」
「うん・・・・・・」
「じゃあ、ミイが家にはいって部屋の電気がつくまで外で見てるから」
「本当? じゃあ、あたしは窓からリョウが曲がるまで見てる」
今でもあたしの事を思い出す?
今でもあなたを思い出す。
好きだったものすべて。
好きな曲。
好きな海。
好きな・・・・・・。
あなたの幸せをいつまでも願ってるよ。
■あとがきという名の懺悔■
連載の「僕恋」の本日分を書き上げてふ〜っと一息入れたときに何気なく大人恋も書いてみたいな〜と書いてしまったこのお話・・・・・・。
以前にブログの方で書いた実話をもとに書いてみました。といっても実話ではありません・・・・・・。
大人の甘酸っぱさをだしてみましたがどうでしょう?
ダメですかね;;
ご感想などありましたらよろしくお願いいたします。
僕たちは恋する理由の方も読んでいただけたら喜びます。