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魔獣戦記ブレイブスター(仮)  作者: アネコユサギ
異世界、魔物使いになる
8/16

八話

 その道中でのこと。

 俺は道に落ちている、役に立つ薬草を採取していた。


「採取スキルも持っているのか?」

「何でも魔結晶基準で推し量るな」


 採取した薬草を魔結晶のアイテム欄に放り込む。

 まったく、由利は全てゲーム感覚でやっているのではないかと疑いたくなる。


「スキルがなければ技能が使えないとか思っているならこの先、生きていけないぞ」

「何だその言い方、まるで私を脳筋のような扱いをして!」

「似たようなもんだ。もふもふマニアの戦士」


 そう、この世界は魔結晶のお陰でゲームっぽくはあるが、別系統の職業だからと出来ない行動はあまり無いのだ。

 魔法の使える戦士や、肉弾戦が得意な魔法使いだって、本人が努力すれば叶う。

 もちろん、それに対応した職業が存在するけれど、近づけることが可能なのだ。


「まあまあ、マスターも落ち着いて」

「で? 薬草を拾って何をするんだ?」

「薬の調合だろ……後は薬草単体も売れるな」

「ほー……」

「お前はホント性別を感じさせない性格をしてるよな」


 見た目は美少女なのに話し方が男臭くて適わん。


「ま、一応、商人系の派生職だからな、出来ない事のほうが少ないと言えば納得するか?」

「ああ、それなら」


 ったく。


「元の世界に戻ったらお前、絶対学校で出遅れるタイプだな」

「余計なお世話だ! 私は自分の未来は自分で決める主義なんだ」

「はいはい」


 なんで由利は俺について来るのやら……ここでなら一緒に戦いやすそうな仲間がぞろぞろといるだろうに。

 アゾットに紹介するべきだったと後悔した。

 ロロをもふもふするのがそんなに楽しいのか?

 なんて出来事があったけど、日が落ちる前に宿泊地に戻り、宿を取った。


「そういえば風呂も完備しているんだな」

「完全な中世ファンタジーな世界じゃないみたいだからな」


 風呂とか、近代日本のように毎日入る習慣がこの世界にはある。何でも異世界人が広めた文化で、町も上下水道整備は完備されている所も多い。

 生活はしやすく、ある程度の金銭さえ手に入れば生きるうえでは俺達の世界よりも良いかも知れない。

 まあ……人間が住める土地が少ないけど。


 魔物に殺されるなんて日常茶飯事で、人口は低下傾向にあるそうだ。

 今から15年くらい前に戦争までやったらしくて、人手が足りないのが現状だとか、幾らなんでも馬鹿すぎる。

 異世界からの来訪者を一ヶ月限定で住居とギルド斡旋をしてくれたのはこういったカラクリがあるのだ。


「私は風呂に入ってくる」

「あ、そ」


 そもそも何で女の由利と相部屋なんだ?

 気にしたらうるさそうだから黙っておく。


「ロロ、一緒に風呂に入らないか」

「嫌です。それにボクは雄です。間違っても女湯には入りたくないです」

「ロロは俺と入るんだよな」


 これみよがしにロロを撫でると、由利が悔しそうに呻く。


「ぐぬぬ……」

「入りませんよ」

「はっはっは、魔物使いの特権じゃあ」

「話聞いてませんね」


 由利を風呂へと追い払い、俺は部屋の扉のノブを捻る。


「まあ、由利が風呂に入っている間に俺達は飯でも食いに行こうぜ」

「あ、はい」


 アイツがいるとロロがゆっくり食事できないからなぁ。

 宿を出て酒場の方へ歩いて行く。


 酒場は冒険者の溜まり場になっていた。

 ただ、異世界人とこの世界人とでは溝があるように二つにコーナーが分断されている。

 俺は迷わず、異世界人用の席に座ってメニューを注文した。


「ふう……」


 まだ正式な魔物使いになって数日、順調ではあるけれど先は長い。

 ロロをどれだけ強い魔物にするか、師匠から貰った手帳を参考に勉強をしているが、いまいち見通しが立たない。

 このあたりで強いモンスターが手に入らないと魔物使いとして頭打ちになりそうなのが予測できる。


 不意に、酒場内を見渡すと、モンスターが視界に入る。

 タヌポヌだ……あ……。

 ちょうどその飼い主、いやフラティアが優雅にティーカップで何かを飲んでいた。


「あら、何やらタヌポヌがいるかと思ったら野蛮人じゃありませんの」

「なんでお前がここにいるんだよ」

「効率を求めたらこのツアーに参加するのは誰でも予想できるものじゃないかしら?」


 くそ、ロロの精神衛生上に悪いから距離を取らせようと思ったのが裏目に出た。


「まだ、アンデット化はしてないんだな」


 フラティアのタヌポヌを指差して尋ねる。

 ロロが心配そうに近づいた。


「あー……ん? 234、66だったっけ? どうしたの?」


 ぼんやりと視界が安定しておらず、何か上の空で、タヌポヌはロロに尋ねる。


「だ、大丈夫なの?」

「え……何が?」


 あまりロロの話を聞いていない様子で、天井を見上げている。


「なんかね……ぼーっとすると気持ちが良い事に気が付いたの……」

「そう……」

「なんか下向くと気持ち悪くてね……それで何? 2459……なんだっけ?」


 もう友人の番号すら思い出せない程進行しているののか……。


「23456!」


 ロロが心配して駆け寄ろうとすると、フラティアが手で叩く。


「おやめなさい。私のモンスターは今、下手に刺激すると暴れかねないわよ」


 フラティアはパッと結晶化させて擬似魔結晶に収める。


「野蛮人、アナタも早く使役化を掛けた方が良いわよ? 他人のモンスターに喧嘩を売るようになるわ」

「そんな風に育てたりはしないさ」

「甘いことを……」

「甘くて結構、別に俺は高名な魔物使いになる気はないからね。好き勝手やっていくさ」

「アナタのような野蛮人が魔物使いを辱めるようになるのですわ!」


 フラティアは不快そうにお茶を飲み終わると、酒場から出て行った。


「23456……」


 ロロの表情が暗い。

 避けようの無い絶望に心を痛めているのが伝わってくる。

 俺はその後ろ姿を励ますことが出来ずにいた。

 一刻も早く、師匠のような魔物使いになりたいと、決意を新たに師匠から貰った手帳を熟読する。

 


 翌朝。

 昨日は由利がフラティアと顔を合わせなかったから問題が起こらずに済んだが、何時顔合わせするか分かったものじゃない。

 確か、ルリティ山脈の方にも休憩所が設けられていたはずなので、そっちに移動しよう。


「もうルリティ山脈に行くのか?」

「アクティブしか戦う気が無いんでね。各上と戦うのは良い経験だろ?」

「まあ、そうだが……」

「多大な期待をされてもボクじゃ戦力にならないと思うのですが」

「ロロは謙虚だな」

「現実を見据えているだけです」


 確かにロロの攻撃手段に問題が出始めている。モンスターヒーリングでダメージを抑えているけれど。


「何かスキルは習得しないのか?」

「Lv7じゃ、使えるスキルはまだ……精々、尻尾形状変化くらいです」


 見た目からタヌポヌは自分の体を別のものへ変化させるスキルを覚えやすい傾向がある。

 その範囲はLvが上がれば上がるほど増えるのだけど、今のロロでは尻尾が限界なのだろう。


「それが良いな」

「はぁ……で、何に変化させるのですか?」

「刃物に化ければ多少は攻撃力の上昇が望める」

「雀の涙程度ですよ?」

「無いよりマシ」

「分かりました」


 ロロは渋々、スキルを使うように意識してくれたようだ。

 ん?

 仄かに血の匂いがする。

 もちろん、魔物と誰かが戦って漂っているのだろう。

 等と思いながら歩いていると、匂いが強くなって来た。

 そして道の真ん中に魔物の死骸が転がっているのを発見する。


「これは……惨たらしいな」


 由利が思わず顔を背ける。

 その死骸は、無残にも引き裂かれ、食い散らかされていた。

 あたりに臓物が飛び散っている。


「冒険者の誰かが切り伏せて、魔物が食べていったのでしょうか?」

「どうだろう……食べた形跡もあるけど、それにしては量が多いだろ」


 魔物は野生動物に近い。こんな無残な食い散らかし方をするとは思えないのだけど……。

 見る限り、まだ死んでからそんなに時間が経過していない。


「ちょっと警戒を強めた方が良いかもしれない。はぐれモンスターがいるかも」


 はぐれモンスターとは本来の縄張りから出て、別の地域で活動する強力なモンスターの呼び名だ。

 本当に極稀にしか存在しないのだけど、俺達では手も足も出ない可能性が否定できない。


「分かった」

「了解です」


 由利とロロが頷き、俺達は先を急いだ。

 その道中……丘にある道を歩いている所で俺だけが先ほどの死骸を作った犯人を見つけてしまった。

 丘の道の左側を歩いていた俺と右側を警戒して見ている由利、些細な差だったけど、いらぬ騒ぎにならなくて良かった。

 犯人は丘の左側で戦っている……フラティアとその所持するタヌポヌだった。


「ガアアアア!」

「よくやりましたわ!」


 タヌポヌが聞いた事の無い咆哮を上げながら、殺害したモンスターを死してなお、惨たらしく切り裂き、貪っている。

 血まみれになり、それでも暴れたりない。そんな風に見える。

 あれが……タヌポヌの戦い方なのか?

 腕や尻尾がへし折れるのではないかという乱暴に振りかぶり、魔物に噛み付いている。

 口から涎を常時垂らし、正気ではない。


「ん?」


 由利がこっちを向く。


「なんでもない。さ、早く先に行こう」

「あ、ああ……?」


 怪しまれてしまうことを覚悟して、俺は由利を半ば強引に連れて行く。


「……」


 ロロはきっと気づいてる。

 表情が暗い。

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