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魔獣戦記ブレイブスター(仮)  作者: アネコユサギ
異世界、魔物使いになる
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五話

 俺は火の番をしながら、魔結晶を弾いてスキルを呼び出し、結晶加工を開始する。

 ステータスに数値化された魔力の項目が徐々に低下し、俺の持つラスーカの結晶の中にあるラスーカを透明にしていく。

 そして完全に透明化した所で、結晶は魔石に変化した。


 よし!

 師匠も同じように封印した魔物を魔石に変換する所を俺に見せてくれた。

 俺は、魔物使いになったんだ。


 と、興奮したのは良いけれど、俺の魔力では一回に3個までしか結晶を魔石化できなかった。

 魔力は時間と共に自然と回復する、更に睡眠や食事を取ると早くなる。

 回復には、1時間くらい要するだろう。


 うー……ん。

 とりあえず、ラスーカの死骸を肉に加工でもしておくことで、交代の時間まで待つことにしようと思う。

 ……鳥を捌くのはこの世界に来て何度目か。


 徐々に異世界に慣れていく自分、思い返せばダイヴゲームにここまでのリアリティなど無かった。

 今を精一杯、楽しく生きる。前にいた世界では出来なかった事がこの世界にはあるような気がした。


「さて、今日は焼き鳥だ」


 本日のご馳走。ラスーカの焼き鳥。

 枝に刺した鳥肉がいい匂いをかもし出した頃。


「や、やった。明かりが、人だ」


 なんか茂みから剣を支えにしてボロボロの剣士が現れた。


「ん? なんだ?」


 俺は寝ているロロを揺すって起こし、警戒態勢を取る。


「お、驚かせてすまない。森で道に迷ってしまって、一緒に休ませてくれないか」


 暗闇から現れたのは戦士の衣装を着た女の子だ。

 全身が泥まみれで些か汚らしい。

 だけど、顔はかなり可愛い方じゃない無いか?


 身長は150cm前後。

 年齢は……たぶん俺と同じ位の17歳前後だろう。

 髪はロング。金髪だ。

 泥まみれなのに肌は白く、瞳は透き通るような青。

 生まれが良さそうだと確信するほど、整った容姿をしていた。


「別に良いけど……どうしたの?」

「ああ、森でLvを上げていたら道に迷ってしまって、どうしようかと困っていた所に火を見つけて来たんだ」


 ぐぅ……。

 女の子の方から音が響く。

 顔を真っ赤にした女の子が焼き鳥の方に視線を向けっぱなしだ。


「良かったらどうぞ」


 一本女の子に渡し、起こしたロロにもう一本持たせる。


「あ、ありがとう! 空腹で目が回っていたんだ」


 女の子はワイルドに焼き鳥を頬張り、貪りだした。


「ふう……」


 人心地ついたのか女の子はお腹を摩りながら俺の方に顔を向ける。


「自己紹介が遅れたな、私の名前は天音由利、異世界人だ」

「え? 天音?」


 どう見ても外人にしか見えないのに、名前から察するに日本人だぞ。

 すると由利は馴れた様に付け加える。


「父が日本贔屓でな、永住までして、私に日本の名前を授けたんだ」

「はぁ……」

「そういう君も異世界人か?」

「ああ、三浦勇だ。一ヶ月前にこの世界に来た」

「私もそうだ」


 天音由利は、俺と同じ世界から来た異世界人だそうだ。思いっきり外国人顔で、この世界にも簡単に馴染めそうな雰囲気がある。

 言わなければ、気づかないだろう。


「君は……魔物使いか?」


 ロロが怯えるように俺の方へ擦り寄ってくる。それを目にした由利は険しい視線で俺に尋ねた。


「そうだけど」

「マスター……」


 ロロを撫でながら俺は肯定する。


「そういうアンタは戦士か?」

「ああ、私は新米の戦士だ」

「そうか……」


 パチパチと焚き火が爆ぜるのを見ながら、俺は魔石作成を続ける。

 仮眠を取るにも由利がまだ信用できない状況で寝るのは危険行為だ。


「……マスターは寝ないのですか?」

「ちょっとな」


 由利の方へ視線を向ける。

 何やら軽蔑の眼差しを感じ、警戒を解けない。


「ですが寝ないと体に響きますよ?」

「そうだけど……」

「君は、魔物言語を習得しているようだな、珍しい」


 !?

 俺は驚きで固まってしまった。

 魔物言語を取得していると思われる方が希少だ。


「ああ、誤解させてしまって申し訳ない。私は元、見習い魔物使いなんだ」

「へ?」

「この世界に来て一週間は元の世界に戻れると思って避難所で待っていたが――」


 由利は自らの経歴を語りだした。

 この世界にきて一週間は避難所にいた由利は、自ら行動しなければいけないと奮起して、職業に就くことを決めた。


 そして、昔からペットを飼ってみたいとダイヴ系ゲームを梯子していた由利は迷わず、魔物使いの門を叩いたらしい。

 入学してしばらく、暇があったら草原へ出て、Lvを上げ、魔物言語を習得した。

 そんな所で、この世界の魔物使いとはどんな職業かに気付き、絶望して、戦士系の学校へ転校した。


「君は自分のモンスターをどうするつもりなんだ?」

「どうするって?」

「その……意のままに操る傀儡にするのか?」


 言いづらそうに由利は聞いてくる。

 ああ、その事ね。


「その必要は無い。俺はこの、ロロと一緒に魔物使いとして成長していく予定だ」

「そうか」


 俺の返答に由利の厳しかった視線が柔らかくなった。


「正直、この世界の魔物使いは、私の理想とは掛け離れていて嫌いだ」

「気持ちは分かるけど、魔物退治だって似たようなものなんじゃ」

「心を破壊して意のままに操るという発想が気に食わないんだ」

「はぁ……」

「魔物言語だって、モンスターがこちらの話を聞こうと思わない限り発動しないしな」

「そうだね」


 野生の魔物相手にはまず話が成立しないのには理由がある。

 相手がこちらと話をしたいと思っていない限り、会話は成立しない。

 もちろん、こちらからアクションを起こして会話を成立させる方法が無いわけじゃないけど。

 意味も無く、倒す相手と話をしていたらキリが無い。


「所で……そのタヌポヌ……撫でてもいいか?」


 由利はロロの方に顔を向けて、何やらスキンシップをとりたいような顔をしている。


「何をするつもりだ」


 ロロを抱き寄せて、由利から見えないようにする。すると由利は誤解だと弁護しだした。


「別にやましい気持ちがある訳じゃない。ただ撫でたいと思っただけなんだ」

「怪しい……」

「家は親が動物嫌いでペットが飼えなかったんだ。だからダイヴ系ゲームで願望を叶えていたのだけど、この世界に来て、もふもふ分が足りなくなってきたんだ」

「マスターと同類ですよこの方」


 ロロが溜息を吐きながら俺に進言する。もふもふ分とは、なんだ?

 失敬な、俺はこんな変態じゃないぞ。もふもふ。


「ボクの尻尾を飽きるまで触った方が何を心外な顔をしているのですか……」

「なにぃ! 貴様、うらやま――じゃない。モンスターをただのペットにするつもりだな!」

「ああもう。面倒くさい、ロロ、少しだけ触らせてやれ」

「はいはい……なんか同じような方々ですね」


 面倒そうにちょこんとロロは由利の方へ歩いていき、由利に撫でさせる。


「おお、もふもふだ」


 うー……ん、変わっているけど、敵ではない……のか?

 まあ、いいや。


「ふわぁ……」


 眠くなってきたな。


「じゃあロロ、何かあったら起こしてくれ」

「え!? マスター! この人、ボクの事を高揚した目で見ているのに寝るんですか!?」

「なんか大丈夫そうだし」

「もふもふもふもふ」

「え、うわ! 尻尾に顔を埋めないで! どこ触ってるんですか、ああやめて! 変な所を撫でないで――」


 こういう騒がしいのも何か楽しいな。と思いながら、俺は仮眠を取るのだった。



 翌朝、朝日が昇るのを確認してから、俺は町へ戻る準備に取り掛かった。

 寝ている間に妙なことをしなかった由利は、眠そうに出発の準備を終えていた。

 あれから交代で仮眠を取った。

 由利は夜盗の類ではないのがこれで証明できたと思う。


「町まで一緒に行くか?」

「ああ、頼む。その間に君のモンスターを抱っこさせて欲しい」

「この人、ずっとボクを撫で回していたんですよマスター!」


 頼むから勘弁して欲しいと懇願するロロに俺はどうすか頬を掻く。


「とりあえず、だっこは我慢な」

「何故だ!」

「もう十分だからだ」

「まだもふもふ分が補充しきれないというのに!」

「一晩中もふもふして何が足りないんだ!」


 まったく、とんだ変態と関わってしまった。

 ロロは俺にぴったりと引っ付いて、由利には近づこうとしない。

 町へ行く道中は平和なもので、魔物とも遭遇することはなかった。


「さて、何だかんだであっさりと町に到着した訳だが……」


 由利のほうに向いて言う。

 ここで解散、

 だというのに、何かロロに狙いを定めている。別れを惜しんでいるというか。


「ん? もうか?」

「お前さー……今からでも遅くないから魔物使いになれば?」


 タヌポヌが好きなら自分で手に入れたほうが早いだろうに、何故ロロに熱を上げる。


「断る!」

「はぁ……」


 まったく、気持ちは分かるけどそんなに魔物使いが嫌かね。

 あ、とりあえず道中で封印石を魔石に変換する作業は続行し、後数個まで、数は減っていた。


「私も今回の狩りで手に入れた獲物を売りさばくとしよう。ユウ、アナタも一緒に来ると良い。良い買取商を知っている」

「まあ、どちらにしろ金が要るから良いけど」


 由利に連れられて俺は由利が何時も世話になっているらしい買取商に魔石を買い取って貰う。


「ふむ、魔石ですか」


 メガネをかけた男の子だった。年齢は15歳くらいだろうか。

 同じ、異世界人……なのかな? ギルド公認のバッチを胸に着けて商いをしている様子だ。


「一応20個ある。どれくらいで買い取ってくれる?」

「そうですねぇ……如何せん消耗品で相場が安定してますからね。親方! 魔石ですがどうします?」

「まだ見習い?」

「まあね。異世界人は成長が早いって言われても商人系はコネが重要でさ」


 困った顔で男の子と雑談を交わす。


「相場一覧とか鑑定のスキルを駆使すれば大体の値段は測定できるけど、資本金と経験がね」

「へー……」


 商人見習いの親方が顔を覗かせて、俺の魔石を一瞥する。


「……今日は魔石の需要が高い。質は良くないが合計50ルクスって所だ」


 26個で50ルクスぐらいが相場なのだから相当高めに買ってくれるのが分かる。


「ありがとうございます」

「別に良い……」


 親方が何故かロロの方に視線を向ける。


「タヌポヌ用の加工アイテムがあるが必要か?」

「今のところ不自由ではないけど、いずれ……って所ですかね」

「見たところ、傀儡化を行っていないな。どういう了見だ?」

「あれは好きじゃない。やる気も無い」

「そうか……道具が必要になったら言え、なるべく安く売ってやる」


 見習いが驚く。


「親方?」

「なんだ? 早く会計を済ませろ」

「あ、はい」


 チャリンと魔石20個を渡して50ルクスと交換する。


「マスター、やりましたね」

「ああ」


 初仕事の報酬が手に入った。

 何を買うか悩む。


「珍しいんですよ? 親方があんな事を言うなんて」

「そうなのか?」

「ええ、アナタの事を気に入ったのかも」

「ふむ……何が気に入ったか良く分からないが、必要になったら頼むよ」

「毎度」


 もうしばらくはあの森で稼ぐことになるだろう。

 由利の方もいらない荷物の処分が終わったのか俺の方を向く。


「さて、次は何処に行く?」

「何故、一緒に行動しなければいけないんだ?」


 当たり前のようについて来る由利、一体いつの間に俺の同行者になったというのだ。


「ダメか?」

「いや、別にダメじゃないけど……お前、そんなにロロが気に入ったのか?」

「それもあるが、まあ……目的が近いからが理由だな」

「Lv上げか?」

「ああ、まだ私はLvが低くてな、あそこを拠点にするなら人手は多いほうが良いだろ?」

「そりゃあ、効率とか考えると悪くないけど」


 少しくらい休んでおきたいしなぁ……。


「今日は町でゆっくりする予定なんだが」


 手に入れた金銭で色々と必要な物を買い足しておきたいし、師匠から貰った本で勉強もしたい。


「問題はあるまい。昼飯はどうする?」


 朝飯も俺から盗って行った奴が我が者顔で聞いてくる。


「冒険者用の酒場で軽めに取るのが妥当だろ、もう奢らないからな」

「何を当たり前の事を怒っているんだ?」


 変な奴に絡まれちゃったなぁ……まったく。

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