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魔獣戦記ブレイブスター(仮)  作者: アネコユサギ
異世界、魔物使いになる
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四話

 一ヶ月お世話になったけれど、師匠の所にいるよりも身にならない場所だったなぁと言うのが感想だな。

 そもそも一か月じゃそこまで愛着も湧かないか。この世界に元からいる学校の連中も卒業ムードの奴ばかりだったし、下級生もあまり話はしてくれない。


「おっと、早速」


 俺はタヌポヌの結晶化を解いて召喚させる。

 ポンっと、タヌポヌは結晶から飛び出して佇む。

 タヌポヌは出るなり、俺の事をジーっと見つめている。


「今日から一緒に行動する新米魔物使いのユウだ。これからよろしくな」


 タヌポヌは俺の言葉に少しだけ怯えるような目を向けた後、一礼した。


「はい。言葉は分かっておられないでしょうが、製造番号23466です。短い間でしょうがよろしくお願いします」

「製造番号? 名前は無いのか?」

「へ!?」


 魔物言語理解1を覚えている俺は魔物の言葉を人が発した言葉と同じように理解できる。

 それに驚いたのかタヌポヌは素っ頓狂な声を上げて驚いた。


「短い間って何だよ。これから長いこと一緒に冒険する間柄だぞ」

「えっと、魔物言語理解を所持でございますか、マスター」

「ああ、俺は習得してるぞ」

「……変わっておられますね」

「は?」


 俺が聞き返すとタヌポヌはビクリと体を竦ませて防御の構えを取る。


「も、申し訳ございません!」

「何をそんなに怯えているんだ?」

「ま、マスターを不快にさせてしまいまして申し訳ございません!」


 何か泣き叫ぶように答えられてしまった。

 俺は変な警戒をされちゃったかなと頭を掻きながら、タヌポヌに声をかける。


「まあ、気持ちは分かるけどさ、変わってるだろうさ」


 魔物使いの学校に一週間程通えば、魔物使いとはどんな職業なのかを知ることが出来る。

 入学した異世界人が100人いたとして、卒業するのは10人程度だろう。

 それくらい。この世界の魔物使いとは精神的に厳しい職種だ。

 牧場経営を、好きというだけで出来ないのと同じくらい、嫌な出来事に遭遇する。

 例えば家畜を飼っていた場合、育成→出荷→精肉が頭に過ぎるのと同じだ。

 コレで家畜と話が出来たらどれだけ嫌な職種になるか分かるだろう。

 ま、俺の狙いはそこじゃないわけだけどね。


「とにかく、その製造番号だっけ? それが個体認識名か?」

「はい。ボクの名前は23466です。何か別の名前をお望みなら自由に名づけください」

「ふむ……」


 23466か……。66、ロロ。


「じゃあ、ロロってお前の事を呼ぼう」

「ロロですか。はい。よろしくお願いします」


 微妙に頭を傾げながら、ロロは俺と一緒に行くこととなるのだった。



 さて、魔物使いはどんな性能を持つか。

 俺自身の戦闘能力を分析してみようと思う。


 正直、戦闘面だけなら無職の方が強いと断言するほど、魔物使い自身に掛かる補正は低い。

 その代わりに、他の職種では1匹しか使役できない魔物を3匹まで使役することが出来る。


 しかも、他の職種では使えないような魔物でも使役できるのだ。

 町の中を歩きながら、自身に起こった変化とスキルを再確認する。

 あ、そういえば、卒業までに作った封印石があるな。

 封印石とは魔物使いが、仕事を行う時に使う道具だ。


「やはり戦闘はロロに任せる方が良さそうだな」

「あ、はい。分かりました。マスターのLvが上がるまでボクが戦いますね」


 健気な返事だ。思わず笑みを零して頭を撫でる。


「よしよし、じゃあ行くか」

「はい!」


 ロロを連れて、俺は町の外へ出かける。


「あ、あそこにビパラがいますよ」


 城下町を出たその日に出会ったノンアクティブの魔物をロロは指差して言った。


「早速、戦いますね」

「ちょっと待った!」

「はい!?」


 走り出そうとするロロは変な声を出して急ブレーキしてこっちを見る。


「敵意の無い奴と戦うのは嫌だ」

「え、でも……ボクの勝てる相手はビパラ、モーグ、ウーササくらいですよ」


 どれもノンアクティブな魔物ばかりだ。

 ノンアクティブとは先制攻撃をしてこない平和的な相手の事。

 しかもロロが言ったのは初心者冒険者でも余裕で勝てる最下級の魔物の名前。

 俺は魔結晶からロロのステータスを呼び出す。


「ふむ……」


 正直、ロロのステータスは涙が出るほど低めだ。


「それより上となると少しお金を貯めてボクを加工をするのがよろしいかと」


 確か、タヌポヌは全てにおいて低めのモンスターとして扱われている。

 実戦で扱うには加工をしてからが望ましいとか教わった。

 加工と言うのはモンスターを、文字通り加工して戦闘用に組み替える事だ。


 まず魔物使いの意のままに操れるよう傀儡化のスキルを習得し、自我を喪失させる。

 その後、属性石と呼ばれる鉱石を体内に埋め込んで、戦闘能力を上げるのがベターな方法だ。

 タヌポヌはその加工が行いやすい初心者用モンスターである。


「だが、断る!」

「えええええええ!?」


 ロロは大きく目を見開いて声を上げた。


「お前はやれば出来る子だ。ラスーカ辺りに挑戦だ!」

「そ、そんな、ラスーカって、ちょっと、マスター!」


 ラスーカとは先制攻撃をしてくる緑色のカラスみたいな魔物だ。

 確か、近くの森に生息していたはず、生態は単独行動、実に戦いやすい。

 ロロ向けには良い魔物であるはず。


「と、言う訳でラスーカの生息地だ」


 おどおどと怯えながらロロは辺り見渡している。

 この震え具合は可愛いと思える。


「そんな怯えるんじゃない。俺がタイミングを教えてやるから」

「で、でも……ボクはまだLv1なんですよ!?」

「大丈夫大丈夫、俺はニャッシュを無職Lv1で倒したから」

「ニャッシュ!? マスターは無謀すぎます!」


 猫のような犬のような魔物の名前はニャッシュと言う。それなりに強力な魔物だ。

 師匠と一緒に生活してずいぶん倒したものだ。

 懐かしい。まだ一ヶ月しか経っていないのに、師匠に会いたくなってきた。


「カァ!」


 さっそくラスーカが現れ、先制攻撃をしてきた。


「危ない」


 ドンとロロを突き倒して、ラスーカの軌道を読み取る。

 目標に命中しなかったラスーカは体勢を崩し、空中で体勢を立て直そうと羽ばたく。

 しかし、高度が上がる前に俺は詰め寄って、師匠から貰った剣で叩き切る。


「カァ!?」


 攻撃が浅いか。とはいえ虫の息。


「マスター!?」

「早くトドメを刺せ!」

「は、はい!」


 ロロは尻尾を大きく振りかぶり、ラスーカに叩きつける。

 バシンと音がしてラスーカが地面に押さえつけられた。


「カァ!!!」

「そのまま押さえつけて倒せ!」

「ぐぬぬぬ……」


 力をこめてロロはラスーカを押さえつける。

 やがて、ラスーカはパタッと事切れた。


「よし!」


 俺は魔結晶を弾いて最下級封印石を取り出し、魔法を唱える。

 封印石から呪文が現れて、ラスーカに向って飛んで行き、縛り付ける。

 そしてラスーカは光の玉となって封印石に入っていった。

 ピンという澄んだ音がしたかと思うと封印石はまるで琥珀のような透明な石に変わり、中に小さくなったラスーカが時を止めたかのように封印される。

 EXP5獲得。


「よくやったぞ、ロロ」

「は、はい。どういたしまして」

「へー……これがラスーカを封印した石か」


 光にかざしながら、俺は初仕事を終えたのを実感する。

 魔物使いの仕事は魔物を燃料資源、魔石に変換する事が第一目的なのである。

 まず、配下の魔物を使って、魔物を倒し、自らの魔力を刻んだ石や紙に封印する。

 するとその魔物を封印した道具を獲得、その道具を魔石に変換させることによって、この世界で良く使われる燃料の一つ、魔石が作られるのである。

 一応、商人系生産職に該当する魔物使いはこの魔石を売って金銭を得る。

 魔物の売買は副産物的な面が強い。

 誰にでも扱えて便利な魔物を作るというのはそれだけ面倒なのだ。


「よーし、こんな感じで、先制攻撃をしてくる魔物を退治していくぞー!」

「お、おー」


 俺の激励にロロはあんまり乗り気じゃない調子で腕を上げる。



 それから夕方まで、俺達はラスーカを狩り続け、ロロと俺のLvは4まで上がった。

 収穫は途中で封印石(26個)が切れ、ラスーカの死骸が15個くらい。下級モンスターで味も悪く、需要が無いに等しいラスーカの死骸は後でロロのエサに回すとして、魔石に変換すれば……この世界の金銭の単位、ルクスに換算すると50ルクス程度だ。

 宿代が一泊15ルクスだから、妥当な範囲だろう。


「よし、じゃあ今夜は森で野宿だ」

「ええええ!?」


 夕日に目を向けた俺はロロにそう指示を出す。

 何か驚いてばかりだな、ロロは。


「宿に戻らないと危ないですよ」

「交代で火の番をすれば大丈夫だろ」


 今は宿代すらもったいない。これから色々と物入りになっていくのだから、少しでも節約せねばなるまい。

 上位の封印石に作成とかにも金銭が必要となる。

 その辺の石を媒介に使った最下級の封印石じゃ限界も近いだろう。

 俺は魔結晶を指で弾いてキャンプセットを取り出し、キャンプの準備を始めた。

 ロロも俺の指示通りに薪を集め、その日は野宿となった。


「じゃあ、俺が先に番をするからお前はゆっくり休め」

「あの……ボクを結晶化して必要時に呼び出せばよろしいのでは?」

「それは嫌だ」

「はぁ……」


 ロロはどうも知っている魔物使いと俺が違うのではないかと言うような目で溜息を漏らし、ストンと丸まって眠りだした。

 ふと、見ているとふわふわの尻尾は触り心地が良さそう。

 誘惑に駆られて尻尾を撫でてみる。

 ふわ……。

 おお、なんか硬いような柔らかいような不思議な触り心地、撫でれば撫でるほど癖になりそう。


「……なんですか?」


 寝たかと思ったら起きていた。言葉は丁寧だけど、俺から尻尾を遠ざける。


「スキンシップだ」

「マスターは変わり者ですね」

「普通の魔物使いを基準にしたらな。仲良くやって行きたい」

「ですがボクはそんなに強くなりませんよ?」

「そこはどうにかする」


 どうもロロは俺との付き合いが短く終わると思い込んでしまっている。目指すは師匠のような魔物との関係なのだけど、道は遠そうだ。


「変わっていますね。ボクをどう加工するのですか?」

「俺は道を指し示すだけだ。ロロ、自分で道を選べ」


 古来、魔物使いとは相棒となる魔物に強くなる道しるべを指し示す職業であったはずなのだ。

 なのに今の魔物使いは魔物の全てを酷使する権利を持っていると誤解している。

 師匠から教わった知識では魔物使いは魔物と仲良くする職業なのだ。


「よく意味が分からないのですけど……」

「気にするな。いずれ分かる」

「はぁ……」

「撫でて良いか?」


 諦めたかのように息を吐いたロロは尻尾を俺の方に近づける。


「ご自由にどうぞ」

「じゃあ早速」


 もふもふもふ。


「あ、あの……楽しいですか」

「それなりに楽しい」


 照れくさそうにしているロロを見て、嫌がる様子が無いのが嬉しい。

 師匠のような関係になりたいな。

 飽きるまでロロを撫で、それから俺は野宿の準備を続行するのだった。

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