十五話
「無一文で放り出された!」
由利は城下町の拘留場から出て、悪態を付く。
捕まってから一週間。
魔物使いギルドの連中が由利に尋問をし、由利は何も悪い事をしていないと洗いざらいをしゃべるまでに至った。
ユウが一体何の罪で賞金を掛けられるに至ったのか、そして、自分が何故捕まったのかに納得が行かない。
そこに口を挟んだ戦士ギルド。
ユウによって身包みを全て剥がされた由利はむしろ被害者。
しかもこの世界の経験が薄い冒険者なのだから情状酌量の余地がある。
結果、由利はユウに騙されて利用された被害者として罪は大幅に軽減、無一文での解放で話がついた。
そして由利はユウの末路についても聞かされている。
由利を縛り上げて逃亡した日の深夜。ルリティ山脈の奥地でギルドから依頼された刺客が放った必殺の矢をその身に受けて絶命。死体は魔力元素へと返り、魔結晶がその場に残されていた。
魔結晶は持ち主の魂の欠片。決して他人に渡すことができず、奪うことも出来ない。
唯一の例外は死人の魔結晶のみ。
つまり、ユウはギルドの刺客によって殺されたという事だ。
由利は思う。ユウが行った罪とはなんだったのか。
それを戦士ギルドの連中は教えてくれた。
禁術とされる魔法の使用。
おそらく、魔物合成の魔法。
だけど、由利は納得が行かなかった。
あんな、絶望しか生み出されない状況を打破したあの奇跡を使ってはいけない事に。
その代価が命だなんてと不満を爆発させない訳には行かない。
凶悪な魔物を生み出しかねないなど知ったことか。
おそらく、ユウが由利の身包みを剥いで、置いていったのは賞金首にさせない為であると由利は考えていた。
口も態度も悪い奴であったが、悪人ではないと由利はユウを信じている。
戦士ギルドから支給された安物の剣と鎧を着込み、由利は不満を持ちながら町の公園でこれからの事を考える。
魔物使いギルドに行ってユウの遺品に触れようかと考えるが、報告では既に由利の私物は魔結晶内には無かったらしい。
しかも、同行していた魔物は魔石化させられ、既にこの世にいないそうだ。
「はぁ……」
由利はユウとの日々に思いを馳せた。
というかロロをモフモフした思い出で悦に浸る。
それはもう近くに居る人が引くほどのだらしない顔で空中に手を揉む姿は、男だったら自警団に捕まりかねない顔をしていた。
「えっと……」
チェスバヌが一匹、そんな変態の足元で困ったように声を漏らす。
「ふへへへへ……ん?」
「失礼しました」
「待て!」
飛び立とうとするチェスバヌを由利は器用に掴んだ。
「お前、ステアじゃないか!?」
そう、それはユウが仲間にしていた魔物のステアであるのを由利は思い出して、抱き寄せる。
「心配したんだぞ! そもそも魔石化させられたんじゃなかったのか!? あの馬鹿は死んだらしいし、ロロはどこだ?」
「まあ……その……信用が置ける方があなたしか居なかったからこうして待っていた訳なのですけど……」
先ほどの行動にステアは不安になって、別の信用が置ける人間を探すか考え込んでいた。
「ふむ、是非私を混ぜてくれ」
「いやぁ……この話は無かったことに」
「混ぜて混ぜて、仲間はずれにしないでくれよー!」
子供のように駄々を捏ねながら由利はステアに懇願する。
「顔は凄く良いのに、残念なお方ですね。アナタは」
呆れ返りながらステアは由利に呟く。
「絶対に、裏切らないでくださいよ?」
「私がいつ裏切った? 裏切ったのはあの馬鹿だ!」
忌々しいと言うかのごとく、怒りを露にして由利はユウへの恨みを叫ぶ。
「ステア、お前を救う為に使ったあの魔法が禁忌なら、私は喜んで悪事に身を染めよう」
「……まあ、アナタのような方になら力を貸していただけるとありがたいですね」
ステアはそういうと、羽毛の中から紫色の結晶を取り出して、由利に手渡す。
「なんだこれは? 珍しい色の結晶だな」
「実体化を要請します」
「はぁ……」
由利は自らの魔結晶を弾き、魔物使いの魔物を実体化する項目に、渡された魔結晶を載せる。
ザ……ザザ……
一瞬、アイコンの部分が砂嵐によって歪んだが、何事も無く、登録が終わる。
そして召喚のコマンドを入力した。
ボンっと音を立てて、紫色の結晶が実体化する。
「ふう……やっぱり、結晶化ってのは慣れないな」
煙が晴れて現れたのは……。
「なんだロロじゃないか」
由利も見覚えのあるロロの姿であった。
タヌポヌ Lv18★
「ん? 18?」
「ああ、ステア、やっぱり由利に力を貸してもらったのか」
「はい。何だかんだで由利さんは事情を説明すれば力を貸してくれると思いますので」
「ふむ……」
ロロの喋り方とその態度に由利は眉を寄せる。
間違ってもロロはこんな喋り方をしない。もっと礼儀正しい魔物のはずだ。
「事情は全部話したのか? あと、コイツの状況は?」
「まだ話しておりません。状況を察するに無罪放免で釈放されたばかりでしょう」
「そうか……とりあえず、剥いだ装備品の返還だな」
ロロは手の中から紫色の魔結晶を取り出して弾くと、由利が持っていた装備品の類が現れる。
「な――」
「悪いとは思ってたんだ。でも賞金首にさせるくらいならとな」
その態度に由利はいやな予測が頭を掠める。
「まあ、なんとなく話しているだけで分かるだろう。俺はロロじゃない。ユウだ」
「な、な、な――」
震える指で由利はタヌポヌとなっている俺を指差した。
「まあ、色々あってな。ロロの体に俺が憑依しちまった。当面の目的は、元の体に戻って、ロロに自由を与えることだ」
尻尾で体を持ち上げ、俺は由利に笑みを浮かべる。
「力を貸して欲しい」
この体じゃ、交渉とか色々と不便なものだからな。
あの後、俺はロロの体に宿り一命を取り留めた。
ロロの魔法が完成し、視界が真っ白になった後、気が付いたら、俺の体はロロになっていた。
そして機能を失った俺の魔結晶と、新しく生み出された魔結晶が手の中にあった。
新しい魔結晶は紫色。
何故こんな色をしているのか分からないけれど、ステータスの部分が二つある。
魔物使い Lv18
タヌポヌ Lv18★
スキル欄も二重になり、俺自身のスキルとロロが習得しているスキルが一緒に載っていた。
ロロの意識がどうなったのか、俺にもステアにも分からない。
人間ではなく魔物になってしまったのはこの際、気にすることではない。
それよりも、ロロの意識とか魂の方が心配だ。
とはいえ、俺が元々持っていた魔結晶をその場に置いて逃げたお陰か、世間では俺自身が死んだ事になっている。
この事態を利用しない手は無い。
ステアの力を借りて、国に戻ってきた訳だけど。
魔結晶を弾いて、俺は師匠から貰った手帳を由利に見せる。
「どうもロロが使った魔法は憑依魔法というものらしい」
ロロの体だからか、俺が読めなかった部分を読み取ることができた。
「本来は憑依魔術師という魔物使いの派生職が得意とする魔法なんだけど、致命傷を受けた俺をロロが体に憑依させて一命を繋ぐなんて荒業をしたみたいなんだ」
「あ、ああ……」
「だがな、俺はそんな魔法を知らないし、仕様外の魔法だったから解除が出来ない」
由利はワナワナと震える手で俺に手を伸ばす。
「解除する方法を調べようとしたんだけど」
俺は師匠の手帳のページを捲る。
「……血まみれで読めないな」
「ああ」
そう、あの時の致命傷で溢れ出た血で師匠の手帳の大半が血で汚れて読めなくなってしまった。
読める範囲は全て暗記しているので問題は無いが、それ以外のページはかなりある。
「憑依魔術師という職業も残ったページに少しだけ書かれているのみで、良く分からん」
「由利さんに出会うまでの間、色々と調べましたものね」
「人目を気にしながらな」
国に戻って五日間。
深夜に図書館などに忍び込んでみたけれど、それらしい記述はまったく見つからなかった。
「師匠が住んでいた森にも一度帰ったんだけど……」
家は焼き捨てられていて、師匠とコンタクトすることも出来やしない。
一体何があったのだろうか。
心配しても仕方ない。
あの師匠の事だから死んではいないと思うけど。
「とにかく、当面の目標は憑依魔術師を見つけて、魔法を解除する方法を探す事だ。出来れば手伝って欲しい」
知らない仲じゃない。
まあ、身包み剥いで置いていった負い目はあるけど。
断られたら、自分達で何とかするしかない。
すると由利は勝ち誇った笑みを浮かべ。
「やっと私に頼ったな! 良いだろう。私が出来る限りの協力をしてやる。その代わり――」
「わ!?」
由利は俺とステアを抱き上げるなり、腹を揉み出す。
もふもふもふもふ!
う、これ、かなり気持ち悪い!
「お前達は私の物だーーーーー!」
「誰がお前の物になるかボケェエエエエエエエエエエ!」
例えロロの魂が奇跡に対する代価だったとしても、それを否定する。
命を繋いでくれたロロを絶対に取り戻す。
自分の体となってしまったロロの体を眺め、そう誓った。
俺の長い旅はこうして始まったのであった。
という事で彼の冒険が始まった訳ですが……。
ここで一端閉じさせてもらいます。
一応ストックはまだ少しあるのですが、中途半端な所で止まってしまうので、現在自分が執筆中の別作品が完結したら、こちらの続きを書く予定です。
他、明日閑話を一つ挟んで一部完、という形にします。




