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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

Hush-序章「23世紀ってこんな感じです編」-

作者: mimi

冗談じゃない。くそったれ。

柿崎忍かきざきしのぶは、その名に恥じない自分の忍耐力がいよいよプツンとぶち切れそうなのを感じ、軽くこめかみをもんだ。

彼は多忙を極める公務員だった。

そんじょそこらのサラリーマンなんか目じゃないくらいの激務を背負っていた。それは、汚職に怒った民間労働者が暴動を起したせいで仕事が増えた―というわけではなかった。単に、仕事がグローバルどころかスペース規模にまで及んでしまった所にある。

そう、彼は公務員の中でも最も多忙を極める「星務省」に勤務する「星務官」なのである。今や23世紀。地球の情勢は大きく変貌をとげていた。宇宙のあらゆる星から、宇宙人が来球らいきゅうするようになっていたのである。

ことの起こりは22世紀後半。宇宙の果てからエイリアンが訪問して「こにゃにゃちわー!」とのたまった所から始まった。

やれ宇宙戦争勃発!ジェダイの騎士団はいないの?!助けてドラエもーん!!!などと人々は大混乱と大興奮に陥ったのである。しかし、混乱を他所に、宇宙人はとても穏やかで友好的で親切だった。

まず宇宙で初めて公式に地球に訪れた宇宙人は「にゃんにゃん」という。「猫星」から来たエイリアンだった。姿は巨大な二本足で歩く猫といえば充分だろう。ちなみに鰹節は食べない。地球の猫を見た時の感想は「とってもニャンダフルですね。僕の子供の頃を思い出します」だった。蛇足である。

そして、にゃんにゃんの話によると、地球はかなり前から発見されていたらしい。紫式部が源氏物語をせっせと作成していた頃には既に宇宙の星の全てに認識されていたらしい。何故地球が侵略されなかったかというと、宇宙で地球人はとっても大人気だったからである。

まず、超能力も魔法も使えない。頭も悪い。錬金術の技術もない。なのにみんなせっせと生きている。怒ったり、泣いたり、笑ったり、殺しあったり、セックスしたり、それはもう健気で面白かったそうである。

宇宙のどの星にも地球チャンネルというものがあり、24時間(宇宙時間で換算)地球人が放映されているそうで、それはそれは大人気らしい。

宇宙全体の認識として、地球人は日本語でいうと「バカ可愛い」そうである。余りにも愚かで非力で可愛いそうである。余計なお世話だ。

宇宙連合では、協定を結び「地球人をひっそり暖かく見守ろう」という決定を下したという。しかし、中には協定を破って地球人を拉致しようという不埒な輩もいて、そんな悪党を逮捕するのに「スペースコップ」をかなり動員したらしい。いわゆるMIBといわれたのがそれだったそうだ。ありがたい話だ。(ちなみに、19世紀に頻繁に出現したUFOはそんな密輸目的の輩が乗った宇宙船だった。)

話を戻そう。

そんな保護された地球になぜ宇宙人が来球したかというと、地球の存続がいよいよ危うくなって来たからである。石油はなくなるし、環境は悪くなる一方、しかも自然災害の予知も出来ないなんて!

なんてバカ可愛い、もとい、危なっかしいのかしら。これはもう救ってあげなくちゃ。

ということで、宇宙連合で話し合った結果、とうとう地球に宇宙人が訪問することになったのである。何故一番最初の来球に「猫星」の「にゃんにゃん」が選ばれたかというと、単にじゃんけんで買ったからである。にゃんにゃんと対面したアメリカ大統領が「失礼ですが、チョキは出せるんですか?」と聞いたところ、不敵に笑ってひげを撫でたそうである。謎だ。

まぁ、そんなわけで、宇宙人が来てから大分地球は変貌した。宇宙の技術で地球温暖化はストップしたし、大地震の予測は愚か、それを未然に防ぐことも可能になった。石油の代わりのエネルギー資源を手に入れ、今では空飛ぶ自動車が当たり前、子供達は竹コプターで学校に通う有様だ。

そして、街を歩けば宇宙人認証IDを下げた様々な星の宇宙人が闊歩し、地球人を観光しているのである。

最近では宇宙人と地球人の結婚がやっと認められて、月での挙式が人気である。宇宙人と地球人の混血の子供も宇宙で初めて誕生した。純粋な地球人の血をどう守っていくかなどがワイドショーを席巻しているが、それでもなんとか、大まかにして平和な地球は維持されていると思われる。

さてさて、それでは本題に入ろう。

どうして星務官である柿崎忍かきざきしのぶが激怒しているかである。

彼は本日、なんと2年間もハッシュ星に大使として赴けとの辞令を貰ったのである。

「どういうことですか大臣!」

バンッ!と勢い良く机を叩くと、忍は目の前で苦笑を浮かべている星務省大臣であり、忍の同期でもある前園雄一郎まえぞのゆういちろうに詰め寄った。

「事と次第によっちゃ退職しますよ!」

勢い良く唾を飛ばさんばかりにそう叫ぶと、困ったように眉を寄せている雄一郎を睨んだ。

「・・・いやね。僕は反対したんだよ。君は優秀だし、仕事ぶりも申し分ない。けど、君、宇宙婚に最後まで反対してたでしょう?各星の星務大臣が酷く機嫌を損ねてしまってねぇ・・・。」

「当たり前でしょう!奴等みたいなエイリアンに地球を荒らされてもいいってんですか?!あいつ等は変態なんですよ!!!」

「・・・君ねぇ、いくら弟を宇宙人に取られたからって、そう歪んだ解釈をしてはいけないよ。」

「歪んだ解釈?!何いってやがる雄一郎!」

もはや興奮のあまり忍は雄一郎の襟を掴んで持ち上げた。すでに公私の分別を失って喚き散らしている。

「あのクソ宇宙人!何してやがったと思う?うちのいくにっ!うちの可愛い可愛い郁にっ・・!」

「お、落ちつけ忍。。。どうした、郁君に何かあったか?」

「バカ!いえるわけないだろう!うちの可愛い郁が、あんな!あんなニョロニョロに!」

「ニョロニョロ?・・・郁君の相手は確か人型のシュメール星人ではなかったか?」

「そうだよ!その変態シュメール星人が宇宙生物持込みやがったんだよ!俺がこんにゃくと間違えて封を切ったら、中から変なニョロニョロが出てきて、俺の体目掛けて突進してきやがった!」

「・・・まさか・・・、『ニョロニョロ★しょくしゅん』かい・・?」

「そうだよ!1人エッチ用アングラ腐れアイテムだよ!そのせいで俺は犯されはぐったんだぞ?!」

「うげっ、それは凄い。」

「あの腐れ変態を問い詰めたらあっさり白状しやがった!あれを!あれをよりによって郁に使ってたんだぞ!あんな、あんな破廉恥なモノを郁に!あのクソ変態野郎笑いながら『今時触手プレイなんて常識ですよ?遅れてるんですね。』だなんていいやがった!!!許せるか?お前はあんなもんが常識だってのたまってる変態を許せるっていうのかよ、ぇえ?!」

「・・・ぐふっ、ジヌ、死んじゃうから・・・」

いよいよ雄一郎が三途の川を渡ろうと言う所で、漸く泡を吹いている相手に気づいて忍が手を離した。雄一郎はゼーゼーと息を整えると、興奮冷めやらぬ忍へと向き直った。

「・・・・・それは、気の毒だったな忍・・・」

「そうだ。俺はあれでもう二度とこんにゃくが食えなくなった。」

「・・・・・お前、おでんのこんにゃく好きだったのにな・・・。でもさ、ほら、いい機会じゃないか?このまま地球にいてシュメール星の彼と郁君のラブラブ姿を見せられるより、いっそ宇宙に飛び出してみたらどうだ?」

どうにか宇宙に旅立ってもらいたいと、雄一郎は説得を試みた。

「ばかやろう!俺がいなくなったりしたらますます奴の思う壺じゃねぇか!」

鼓膜が破れるほどの忍の怒号が響いた。ああ、俺のほうが上司なのに!星務大臣なのに!そう想いつつも小心者の雄一郎は言い返せない。

「さっきだって俺がこんなに苦しんでるっていうのに、2人でTDLでデートだぞ!ネズミの耳つけた郁とチューしてる写真を転送してきやがった!あの男!殺してやる!!!」

「わー!待て待て!落ち着け!」

雄一郎は青くなって忍を止めた。星務官が宇宙人に殺傷沙汰なんて洒落にならない。(まぁ、十中八九返り討ちにされるのがオチだが)

雄一郎は内心溜息を吐いた。

どうにもこうにも忍は宇宙人が大嫌いなのである。そもそも、星務官になった理由だって、これ以上変態腐れ宇宙人をのさばらせてたまるか!という理由である。

忍が宇宙人を嫌うようになったのは、大学2年生の時に起きたある事件がきっかけだった。地球へ留学という名の遊行に来ていたベルベル星人が、忍を強姦しようとしたのである。そしてさらに追い討ちをかけるように、忍の唯一の家族であり最愛の弟である郁が、宇宙人と出来てしまったのである。目に入れても痛くない想いで蝶よ花よと育てて来た郁を、シュメール星人が口説き落として恋人にしてしまったのだ。

それからというもの、忍は宇宙人に対してかなり憎悪を抱くようになった。そして、忍は星務省に入り、徹底的に宇宙人の危険性を訴えてきたのである。本来なら雄一郎よりも優秀で、とっくに星務省大臣の座を手に入れてもおかしくない男が、一介の星務官として燻っているのは、そんな理由があったのである。

「・・・とにかく、忍、今回の移動は決定だ。ハッシュ星へは行ってもらうよ。いい機会じゃないか。宇宙人の危険性をいくら地球で訴えても限界があるよ。堂々と宇宙人の前で怒鳴ってやればいいのさ。この変態!!!ってね。どうだい?敵陣に乗り込んでみないかい?」

雄一郎はにこやかに提案した。どうにもこうにも各星からの圧力は凄いのである。雄一郎とて、念願の大臣の椅子を早々手放したくはない。

同期の忍には悪いが、大人しく人身御供として旅立ってもらわなければならない。

「実際に宇宙の星にいって体験したことを地球に持ち帰って来てほしい。その目で確かめて、本当に宇宙人が危ない変態野郎だってことが解ったんなら、こちらも本腰を入れよう。どうかな。地球人の代表としてハッシュへ行ってはもらえないだろうか?」

忍はぐっと押し黙った。星務大臣自らが頭を下げて頼んでいるのである。

「頼むよ・・・、郁君のことは心配しなくてもいい。僕がシュメール星人の彼が行き過ぎた行動を取らないようにきちんと見ておくから・・・」

雄一郎は今度は友人の頼みとして攻略を試みた。勿論、郁君関連のアフターフォローも忘れてはいない。

忍はたっぷり10分ほど唸った。そして、さらにウダウダと小一時間程、星務大臣室のソファーで悩み倒した末に、漸く小声で頷いた。


「・・・・解った。行こう。」


苦渋の選択である。それを聞いて雄一郎がホントだね?と念を押して確認する。

忍は嫌々と頷いた。

「ありがとう!!!」

雄一郎は飛び上がらんばかりに喜ぶと、立ち上がって机の下からなにやら引きずりだした。旅行用の大きなキャリーバックだ。

「じゃ、いってらっしゃい!」

「・・・って、おい?雄一郎?」

いきなりのことに唖然としている忍に、雄一郎はにこやかに言い募った。

「もうUFOの準備も出来てるからいってらっしゃい。大丈夫、下着から宇宙パスポートまで全部準備してあるから、郁君とシュメール星人の彼が快く手伝ってくれたよ。」

「なんだって?!まさかお前!あのシュメール星人に買収されたんじゃ?!」

「あはは、何言ってるんだよ。そこの君たち、柿崎星務官をUFOまで送ってさしあげてくれ。」

ドアの前に控えていた屈強なSP達が、忍の両腕を抱えて引きずっていく。

「くそっ、雄一郎!裏切ったな!覚えてやがれ~~~~!!!」

虚しい捨て台詞が星務省全体に響き渡ってやがて遠ざかって行く。

「ごめんね。忍」

僕も寂しいんだよ。なんて感傷に浸りながら雄一郎は窓の外を見た。忍が無理矢理UFOに乗せられて、半ば強制的に宇宙に旅立って行く。

「宇宙人嫌いが治って地球に帰ってきたら、僕の彼女紹介するから・・・」

雄一郎の彼女はドキドキ星の王女、ドキンちゃんである。宇宙人嫌いの忍には気の毒で言えなかったのである。

雄一郎は、ハッシュ星に関する書類に目を通した。

『Hush星人に関する基本情報』

 - 「人型」をした宇宙人であり、超能力を有する。

    肌の色はブルー。身長が2メートル以上の大柄である。

    地球人の美的感覚からするとかなり美形の部類に入る容姿を持つ。

    Hush星人のHushとは『hush(沈黙する)』に由来する。

    彼らは秘密主義でいわゆる鎖星させい状態であった。

    Hush星の国王が逝去し、次王に現Hush国王であるハシム・マラカイトが就任。

    ハシム王の積極的外交政策により、地球との交流が実現され今に到る。

    彼らの生活様式や生態は以前不明であるが、彼らにはある特徴がある。

    彼らにヘテロは存在せず。全員がホモということである-

                                        以上



「うーん、大丈夫かなぁ?」

雄一郎はそう呟いた後、大きなクシャミを2回した。







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