つくもさん
私の父は、骨董品集めが趣味だった。時々、出かけては骨董品を買い、よく父は母に怒られていた。「なんで、こんなガラクタばかり買ってくるの?たまには、ちゃんとした物を買ってきてよね!」「いいじゃないか、それくらい。」「よくありません!!」と、毎回怒られる父はそれでも、隙を狙っては、骨董品を買いに行ってしまう。
ある夏の日のことだった。私に父があるものをプレゼントしてくれた。懐中時計だった。とてもきれいで神秘的な感じだったが、時計の針は止まっていた。父は「もうすぐ、誕生日だろ。それ、針が止まっているけど、良い品なんだ。きっと気に入ると思って。だめかな?」私は首を横に振って「大丈夫。だってこの時計とってもきれい。ありがとう、お父さん。」
私はさっそくもらった懐中時計を宝箱に入れた。その夜のことだった。私が寝ていると物置から「出して、出してよー。」という声がしたような気がした。不思議に思い、物置を開けてみると宝箱が動いていた。私は、おそるおそる宝箱を開けてみると、懐中時計がぴょーんと、飛び出してきた。「ふーっ、やっと出れたわ。」としゃべっていた。私は思わず大声で「えっなんで?」と言った。すると私の声に気づいた両親が来て「どうかしたの?」とたずねてきたので私は「懐中時計がね、あれ?」懐中時計は床に転がっていてさっきみたいに動いたり、しゃべったりしてなかった。私は、夢でも見たのかと思い「なんでもないよ。」と言った。
その翌日、私はどうにもあの懐中時計のことが気になり、懐中時計に話かけてみた。「ねえ、あなた動いたり、しゃべれることできるの?」懐中時計は何にも反応しなかった。私はやっぱり、あれは夢だったのかと思った瞬間だった。「もちろん、できるわよ。だってつくも神だもの。」と懐中時計がしゃべった。
「やっぱり、あれは夢じゃなかったんだ。でも、つくも神って何?」「えっ知らないの?つくも神とは、長い年月が経った物に神様がやどる。それがつくも神なのよ。」「へえーそうなんだ。」「こんなことをしゃべっている場合じゃなかった。はやく行かなきゃ、はやく。」「どこへ行くの、懐中時計さん?」「だから、私は懐中時計じゃなくて、つくも神と言ったでしょ。そうだわ、つくもさんと呼んで。そしたら、呼びやすいでしょ。」「じゃあ、つくもさん。どこへ行くの?」「神社よ。出雲大社。そうだ!あなた連れて行ってくれない?出雲大社に。」「なんで、出雲大社に行くの?」「今月は神在月。つまり、日本中の神様たちは出雲大社で会議をするの。遅刻したら怒られちゃうわ。」「それって、いつなの?」「明日。」「えっ、つくもさん明日なの?」「そうよ。でもどっかの誰かさんに箱の中に入れられ、出られなくなって、今日着くはずだったんだけどねー」「もしかして、私のせい?」「そうよ!!」「ごめんね、つくもさん。」
私は電車で出雲大社に行くことにした。出雲大社は県内だったため、そんなに時間はかからなかったが、もしつくもさんが乗り物を使わなかったら、きっと遅刻していただろうと思った。そして、出雲大社に着くとつくもさんは「ありがとう。」と言って会議場らしきところへ行った。
私が帰ると机の上になんとあの懐中時計があった。私は「もう、会議は終わったの?つくもさん。」つくもさんは返事をしなかった。そのかわりに手紙があった。
どっかの誰かさんへ
私は会議で、転勤になることになりました。しばらく懐中時計からはなれることになりますが、また神在月には戻ってきます。それまでこの懐中時計を預かってください。今度は勝手に閉じ込めないでね。
つくもより
私は手紙の内容を見て「つくもさん、神様にも転勤ってあるんだね。」と笑いながら言うと、懐中時計のカチッという音が一瞬聞こえた。