第6話 確実に迫る危機
一方涼たちは3人バラバラになって逃げていた。
生物室から遠く、戦闘が出来るぐらいの広さがあり、出入り口がいくつかある。その条件を満たすのは第二体育館しかなかった――元々体育館が2つあるこの学校では、第一体育館は兵士たちに占領されていたが第二体育館は開放されていた。その分他の生徒も紛れ込んでいる可能性もあるが、そんなこと言ってられなかった。
できるだけ敵を減らしつつ、体育館に逃げ込む。
これが今回3人で決めた作戦だった。
とは言ったものの――涼は逃げながら考えていた。3人が唯一兵士より圧倒的に勝っているものはスピード。その走力差のためか涼と兵士の距離は10メートル程離れていた。んなこと単純に出来たら誰も苦労しないんだよな。
体育館に逃げ込んだところで追い詰められれば終わりだ。涼たち3人が同時に相手できる最高人数は10人。となると1人辺り3人程度しか体育館までご一緒できないことになる。そのためか毎度作戦は決めるものの、作戦通り体育館まで逃げ込むのは終盤、大体終了30分前ぐらいまでは1人で敵を減らさなくてはならなかった。
「さてと……」
涼は立ち止まり軽く息を整えた。丁度3階の生物室の真下辺りに来ていた。隼人は一号館に逃げた。ヒカルは下の階に逃げた。ここまで来れば3人が出くわすことはないだろう――ごちゃごちゃになると逆に危険なため、3人は出くわさないようにしていた。
涼が立ち止まって2秒としないうちに、兵士たちは追いついていた。その数6人。
兵士たちは多少息が乱れていたが、一瞬にして涼の周りを取り囲んだ。と、6人同時に涼に襲い掛かって来た。だが涼は兵士たちが攻撃してくる一瞬前に、正面から攻撃してきた兵士の横をすり抜け、兵士の輪を抜けていた。同時に廊下に響き渡る鈍い音。それは何人かの兵士が相打ちしたことを知らせていた。涼はそのまま振り向きざまに反動をつけ、後ろから殴りかかってきた兵士の顔面に回し蹴りを食らわせた。確かな手ごたえと共に、先ほどより幾分大きな鈍い音。目の前の兵士はそのまま後方に吹っ飛んでいた。幸運にも真後ろにいた兵士も巻き込み、2人の兵士が床に倒れこんだ。だが、威力の高い回し蹴りで体勢が崩れた涼に向かって別の兵士が殴りかかってきた。頬の辺りに熱い衝撃を感じるのと共に押し寄せる痛み。涼は口の中が切れるのを感じながらも何とかその場に踏みとどまった。
やっぱきついな。
先ほど蹴りを食らわせた兵士が苦しそうな顔をしながら立ち上がるのを見ながら涼はそう思った。やはり一撃で倒れてくれるほど甘くないらしい。
分が悪いと判断した涼はとりあえずくるっと後ろを向くと、そのままトップスピードで校舎を駆け抜けた。
殴られた頬を触ると、ちりっという熱い痛みが走った。既に腫れ始めているのは感覚で何となく分かったが、たいしたダメージではない。
殴られたのが腰じゃなくて良かった。
強がっていたものの、やはり先ほど生物室で蹴りを食らった時に強打した腰の痛みは消えてなかった。集中していれば痛みはないが、攻撃を食らうのはきつい――。
ちらっと後ろを振り返ると、予想通り6人の兵士たちが後を追って来ていた。だが相打ちした兵士や涼にやられた兵士は動きが遅くなっているため、先ほどと同じスピードで追ってきているのは3人だけだった。
これを何度も繰り返し兵士を気絶させるか巻くしかないよな。
既に多少息が切れて来ている涼はそう思いながら階段を上っていた。現在の時刻は2時。あと1時間半。それは確実に終了に近づいて来ていると共に、確実危険が迫っていることを示していた。




