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3話

昇降口に入ると、1年2組の、つまり所属しているクラスの靴箱に向かう。


そこには高さが180cmくらいの両面に靴が入るタイプの靴箱が各学年に8個ずつ、計12個が設けられている。


しかし、生徒がどんどん辞めていく我が校ではそのすべてが使われている訳ではなく、3年生は7つ使われているが、2年生は4つ、1年生は3つしか使用されていない。


つまり、半分ほどが未使用という訳だ。


もっとも、靴箱が完全に埋まった学年など今まで一度もいなかったらしい。


閑古鳥が鳴く下駄箱で靴から上履きに履き替えると、教室へは行かず、始業式を行っているはずの体育館へ向かうことにした。


今から教室に行っても更に遅刻するだけであるし、カバンを持ったままでも大して邪魔にならないからだ。


下駄箱から上がり、右に曲がって校舎内を少し進む。


そこから一度校舎の外に出て渡り廊下の先にある体育館へ足を進める。


そこに進むうちに少し違和感を感じる。


始業式にしては些か騒がしすぎるのではないか。


確か、式は8時50分から始まっているはずだから、今は式の真っ最中だ。


しかし、体育館からは生徒たちの話し声が聞こえた。それも、1人や2人程度の音量ではなく、街中の喧騒によく似ている。


教師がマイクを使って静かにさせている様子もない。


何十、何百という人間が一斉に話している騒がしさで、そこからは式を執り行っている様子は全く感じられなかった。


いくら自由な学校だといっても、ほとんどの生徒はこの手の常識は持ち合わせている。ましてや、式中に生徒が騒ぐということは今まで一度も無かった。


ならば何故だろうか。


少し考えるが、なかなか答えらしい考えは浮かんでこない。


思いつくのは開始が何かの理由で遅れているということぐらいだが、毎年行っている学校行事で20分以上遅れるとは考えにくい。


まあ、入ってみれば分かる、と閉じられているドアを開けて中に入る。


まず目に入ったのは、ステージの上にはマイクが置かれた机が置かれているが、そこには誰も立っていない。


生徒たちは談笑している予想通りの光景が広がっているが、教員たちはいつもと様子が違った。


いつもより人数が少なく、忙しそうに先生間を往復している人や、何やらこそこそと相談している人、ステージ裏に出たり入ったりする人など一様に落ち着きが無い。


こんな様子を見れば、何らかの問題が起こっていることは容易に想像がつく。


もしかしたら、すでにここにいる生徒には何らかの説明があったかもしれないと思い、広い体育館の真ん中で身を寄せ合っている生徒たちの中に入っていく。


「お、重役出勤か~?」


自分のクラスの列の最後尾に着くと、隣のクラス、3組の最後尾にいた茶髪の、いかにも現代っ子風の男が話しかけてきた。


「ちょといろいろあってな。それより始業式ってまだ始まってないのか?」


「みたいだな。詳しいことは言ってなかったけど、なんか問題があって今確認してるところだってさ~。」


どうやら詳しいことは生徒には話されていないらしい。


「そっか。由夏さん、何か聞いてない?」


3組とは反対側、1組の最後尾にいた肩甲骨まで髪を伸ばした女生徒に尋ねる。


「私も何も聞いてないわよ。朝のホームルームでも何も言ってなかったしね。」


「そっか…ときにその頭についてる物は何かな?」


オレは彼女の頭に『憑いている』物を指摘する。


「あ、それ俺も思った。何でそんなのつけてんの?由夏ちゃんには別のが似合うと思うけどな~。」


茶髪の男子もそれに同調する。


「社も圭介も分かってないな。私にはこれが1番なのよ。」


「いや、でもさすがにおかしいと思うけどな…なんでドクロと幽霊を?」


そう、彼女の頭には髪飾りとしてリアルなドクロがあしらわれたヘアピンと、デフォルメされてはいるが、可愛らしいとは言いがたい幽霊のイラストが描かれた缶バッチをカチューシャにつけていた。


「ふっふっふ、甘い、甘いよヤッシー!これを見なさい!」


不敵な笑みを浮かべた彼女は両手をこちらに見せる。


「お~、由夏ちゃん気合入ってるね~。」


彼女の白くて綺麗な指の1本1本にゴツくて大きなシルバーアクセサリーがはめられていた。


デザインは少しずつ違うが、その全てがドクロをモチーフにしたものだった。


髪に隠れて分かり難いが、耳にもドクロのイヤリングがつけられ、制服にはお化けの缶バッジがいくつかついていた。


「まあね。ほら、今日のラッキーアイテムは『人の成れの果てな物37個』でしょ?だからいっぱいつけてきたの。」


彼女があまりにも普通に言うものだから聞き流しそうになったが、今確実におかしなことを言った。


「成れの果てって、そんな変なものが開運に繋がるのか?しかも37個って多すぎるし。」


「いいのよ。だって今朝の占いでそう言ってたからね。」


まさかあの占いコーナーが原因だったとは。


変なラッキーアイテムだったから、まさかとは思ったが。どうやら今日は嫌な縁に憑かれているようだ。


「あぁ、あのコーナーか。今日のは酷かったな~。」


圭介から思わぬ援護が飛び出した。


いつも女の子のことしか頭にないと思っていたが、どうやらある程度の常識は持ち合わせていたらしい。


「だってさ~、キャトられるっておかしいじゃん。人間はアブダクションだし。もっと気をつけてほしいよね~。」


腕を組んで少し語気を強めて予想外のことを言った。


やはり彼に期待するのは間違っているかもしれない。


常人とは違うところに突っ込んでないで、もっと一般的なところに目を向けて欲しい。


思えば、この2人は最初からおかしかった。


入学した当初は3人とも7組にいた。


4月の頭に行われた新入生の交流会で、たまたま同じグループになったことが縁でよく3人で話したり、遊びに出かけるようになった。


その頃から2人はユニークな性格だった。


圭介は女の子が大好きで、ケータイの電話帳には300人以上の女の子のアドレスが登録されていると自慢された。


もっとも、ほとんどの女子には相手にされていないし、本人は否定しているが彼女いない暦は16年らしい。


由夏は夏休み明けから占いにハマったらしく、最初の頃はラッキーカラーやラッキーナンバーを大事にしていた程度の可愛らしさだったが、次第にエスカレートして今では訳の分からないグッズや独自の占いの開発にお熱らしい。


そんな2人とも、どんどん生徒が辞めていく過程で今はクラスが変わっているが、会えばこうして話が弾む。


クリスマス前にはナンパにつき合わされたし、元旦には初詣のハシゴに連行させられた。


オレにとっては、こうして学校の外で会う、学校に残った数少ない友人の2人だ。


そうして他の生徒たちと同じように時間を潰すために話をする中に加わっていく。


「えー、皆さん。静かにしてください。静かにしてください。」


喧騒をかき消すようにスピーカーから声が体育館いっぱいに響き渡る。


「開始が遅れてすいません。えー、まずは皆さんに言わなければいけないことがあります。」


次第に音量が下がり、体育館が静寂に包まれていく。


これで、こんな寒い場所で待たされた理由が分かるのだという期待感で包まれていく。


「えー、わが校の理事長が失踪しました。」


よく分からなかった。

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