08.え、婚約破棄?
「――マレーネ」
ライナ様を、国王陛下との朝食に送り出した私たちは、一時の休息をいただいた。
そのタイミングで、ルート様が声をかけてきた。
「本当にすまない」
突然の謝罪。
その凛々しい眉間にしわを寄せ、申し訳なさそうに頭を下げるルート様。
「お顔を上げてください。浮気は誤解だったわけですし――」
「それもそうだが、殿下の侍女になったことも……俺のせいだ。申し訳ない」
「そんな」
確かに、慣れるまではちょっと心臓に悪そうだけれど、待遇はとてもいい。
父と母も喜んでくれたし、ルート様がそんなに申し訳なさそうにすることではない。
「これまではルート様への負担が大きかったのでしょうか? これからは、私が協力しますね!」
それに、せっかく異世界系少女漫画の世界に転生できたのだから、どんな展開になっても楽しまなければ。
「マレーネ……ありがとう」
だから笑って言うと、ルート様は安堵したように息を吐いた。
「実は俺は、とても不安だったんだ」
「何がですか?」
「君に、婚約破棄を言い渡されてしまうのではないかと思って」
「……!」
婚約破棄。
それはまた、異世界系少女漫画のお約束ではないか。
もしかしてそういう展開もありだったの?
……ちょっとやりたかったかも。なんて。
普通は、男女逆のことが多いけど。
異世界系少女漫画の鉄板ワードに、少しだけ興奮してしまった。
でも落ち着いて。
彼は悪いことはしていなかったのだから、むやみに婚約破棄なんて考えては、駄目よ。
そう思い、平静を装って問いかける。
「……ですが、なぜ私が婚約破棄すると?」
「俺が殿下と浮気していると疑っていただろう? 無理もない話だ……。しかし俺は、本当のことを話せなかった」
「それで、私が婚約破棄をすると?」
「俺は誤解を解くことすらできなかったから」
ルート様は、ただ「信じてくれ」としか言わなかった。
「王女は男だ」なんて言えたら話が早かっただろうけれど、仕事熱心で真面目な彼が、いくら婚約者だからって私に秘密を明かすはずがない。
今となってはわかるけど……。まぁ、普通は浮気展開だと思うわよね。
特に異世界系少女漫画を読み漁ってきた私なら、尚更。
たぶん、本当に浮気をしていたら、婚約破棄になっていたでしょうけれど。
でも、実際は違った。
私だって、証拠も押さえずに、一方的に婚約破棄を言い渡すつもりはなかった。
ろくに調べもせずに婚約破棄を言い渡すのは、ざまぁをされる男の役目だ(漫画では)。
「本当は君を巻き込みたくはなかった。しかし、これからは仕事中も君と一緒にいる時間が増えるのは、正直嬉しい」
ん?
そう言いながら、ルート様は私の手を取った。
「殿下は少し我儘なところがあるが、人一倍辛い思いもしている。君のことは俺が守るから、何かあったら遠慮なく言ってほしい」
「はあ……ありがとうございます……」
その手を握り、熱心な視線をまっすぐに向けてくるルート様。
なんだろう……まるで、溺愛してくるヒーローみたいな顔だわ。
これまでずっと、ルート様はライナ様のことが好きなのだと思っていたから、困惑してしまう。
いやでもこの漫画のヒーローは銀髪だよね?
ほんと、彼はどうなったんだろう……。
それにしても、この世界の主要人物はみんな顔が良すぎて困るわ。
ルート様だって、かなりのイケメン。
ライナ様のような中性的な美しさとは違う、騎士としてのたくましさや男らしさも兼ね備えた、好青年。
真面目すぎて、少し近寄り難い雰囲気を放っているけれど……まさか私にこんな甘い顔を見せるなんて。
これまでは、ライナ様の秘密がバレてはいけないからと、あえて壁を作っていたのかもしれない。
私はこのまま婚約者(ルート様)と、何事もなく結婚するのだろうか……?
「彼は浮気していなかったのだから、元サヤエンドは十分あり得る……」
「マレーネ?」
「あ! いえ、なんでもありません」
つい、心の声が口から出てしまった。
不思議そうに私を見つめるルート様に微笑んで、私は一旦休憩することにした。
「それでは、ライナ様のお食事が終わる頃に、また」
「ああ。また、後ほど」
一体この漫画は、どんなふうに進んでいくのだろうか。
どんなふうに進んでいくのか……作者にも分かりません!!(´இ□இ`。)°笑(ただ今自転車操業で頑張ってます!!)
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