07.お召し替え
そういうわけで、私はライナ様の側付き侍女として仕えることになった。
ルート様とは結婚前だし、父は「なんと名誉な!」と喜んでいた。
母も、「お仕事中もルート様の近くにいられるなんて、よかったわね♡」と言っていた。
なんともあっけない……。
冒頭しか読んでいない漫画の世界だけど、もしかしてこれは展開通りに進んでいるのだろうか??
漫画でも、ざまぁしようと思った王女は王子で、ざまぁのない物語だったのだろうか……?
オチがわからないから、どうしようもない。
あと、銀髪のヒーローは今どうしているのか、少しだけ気になる。
とにもかくにも、翌日から私は登城して、ライナ王女に仕えることになった。
「おはよう、マレーネ」
「おはようございます、ライナ様、ルート様」
私がライナ様の部屋に通されると、キラッキラのロイヤルスマイルを向けられた。
隣には既にルート様がいる。
まぁ、護衛だし、当然といえば当然なのかもしれないけれど……家には帰ったのだろうか。もしかして、ルート様は休みなしでずっと働いているのだろうか。
「早速だけど、着替えを手伝ってくれるかな?」
「はい、もちろんです」
ライナ様はまだ寝衣姿だった。
喉ぼとけが隠れる、長袖のワンピースタイプの寝衣は、もちろん女性もの。
足元も、足首の辺りまでしっかりと布があるから、もしこの姿を見られても、男だとはわからない。
布を詰めている特殊なものなのか、胸元が膨らんでいる。そしてなんといっても、お顔が美しすぎるから。
どうしても、まずはそのお顔に目がいくし、こんなに美しい王女様がまさか男だなんて、普通考えもしない。
「いつもはルート様が?」
「たまにね。もう一人、赤ん坊の頃から私の世話をしてくれている、信頼できる侍女がいる」
「なるほど」
「後で紹介するよ」
「はい」
侍女は呼ばれない限り、入ってはいけないことになっているらしい。
だから先ほど私がライナ様の部屋に入っていくのを見て、こそこそ話している人たちがいたのね。
「それじゃあ、よろしく」
「――はい」
するり、と寝衣を滑らせるライナ様に、ドキリと胸が鳴る。
男だとわかっていても(いや、男だからこそ?)、白くて美しい肌が露になると、ドキドキする。
本当に美しい人だ。女だったら絶世の美女だっただろうし、性別を偽っているのがとてももったいない。
男だと知られたら知られたで、黙っていない貴族令嬢が多いだろう。
「どうしたの? マレーネ。早く締めてよ」
「は、はい! 失礼しました」
つい、ジッとその白い肩やら背中やらを見つめてしまった私に、ライナ様がくすりと笑う。
ライナ様は、自分で肌着の上からコルセットを装着していた。
私は咳払いをして気合を入れると、ライナ様の背中に回ってコルセットの紐を締め始めた。
「やっぱりマレーネのほうが上手いね」
「恐れ入ります」
「マレーネって、ルートの身体、見たことあるの?」
「えっ!?」
突然の問いに、思わず手に力が入る。
「いてて、痛いよ、マレーネ」
「も、申し訳ありません……!」
「殿下が変なことを聞くからですよ!?」
ルート様も焦って声を上げる。
私は心を落ち着かせて、再びコルセットを締めていった。
「見たことありませんよ」
「へぇ、そうなんだ。婚約者なのに?」
「婚約していても、そういう機会はありませんよ、普通」
「そうなんだ」
私の代わりに、ルート様が答えてくれた。
ライナ様には婚約者がいないし、純粋な疑問だったのかもしれない。
「さ、できましたよ。本日のお召し物はこちらでよろしいのですか?」
だから大して気にせず、出してあったドレスを手に取ったけれど――。
「それじゃあ、男の身体を見たのは、私が初めて?」
「……!!」
なぜか、ずいっと私に迫ってくるライナ様。
「ルートは騎士だし、歳も上だから、こいつのほうがたくましいだろうけど。でも私も、結構男らしい身体つきになってきたんだ」
「そ、そうですか……」
「マレーネはどう思う?」
「さ、さぁ……?」
言いながら、自分の腕を曲げ、力こぶを作って見せるライナ様。
そんなことを聞かれても、私だって男の身体なんて見慣れていない。
前世では、この世界よりは男性の半裸を見る機会はあったけど(決して変な意味ではなく)、この世界では、肌を露出した人を見ることが滅多にない。
もちろん、ルート様が服を脱いだところに遭遇したことも一度もない。
逆にそんな機会、一体いつ訪れるというのだろう??
「はいはい、わかりましたから。早くドレスを着てください!」
「つまんねぇの」
ルート様は慣れっこなのか、ライナ様をあしらいながら手際よくドレスを着せていく。
……この仕事、地味に心臓に悪いかもしれない。




