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44.私が選んだハッピーエンド

「マレーネ、少し時間をもらえるか?」


 その日の夜。

 仕事を終え、寝る支度を整えて、部屋でやすんでいたとき。

 ルート様はやってきた。


 いつも通りの穏やかな声だけど、どこか落ち着かない様子で、視線がほんの少しだけ、揺れている。


「はい、どうかしましたか?」

「……見せたいものがある」


 短くそう言って、私の手を取るルート様。

 彼の手はあたたかくて、大きくて、安心する。

 けれど今日は、その指先にほんの少しだけ緊張がこもっていた。


「一緒に来てほしい」

「はい」


 理由は聞かずに、私は頷いた。

 だって、私はルート様を心から信頼しているから。

 ルート様が私に見せたいものがあるというのなら、それはきっと素敵なものだ。


 ルート様に導かれ、廊下を歩いた。

 王宮の静かな回廊。この時間はもう、歩いている人はいない。


 歩き始めてすぐに、ルート様は足を止めた。


 こんなに近く?

 入ったことのない部屋の前で立ち止まったルート様を見上げると、彼は深く息を吸い、少しだけ躊躇うようにして、口を開いた。


「やっと、完成したんだ」

「?」


 ルート様の手によって、静かに扉が開けられる。


「……え――っ?」


 室内を見た瞬間、思わず息を呑んだ。


 目の前に広がったのは、壁一面に飾られた、たくさんの本だった。


 天井まで届く本棚。磨かれた木の床。

 窓から差し込む月の光が、本の背表紙を金色に染めている。


 そして中央には、ふかふかの長椅子。

 読みかけの本やティーセットを置くための小さなテーブル。

 やわらかな灯りのランプ。


 まるで、夢の中の図書室のようだ。


「すごい……」


 ゆっくりと一歩踏み出し、本棚に近づく。

 古い名作、最近の人気作、詩集、短編集――そのほとんどが、恋愛ものだった。


「以前、言っていただろう?」

「え?」


 背後から聞こえた、ルート様の声に振り返る。


「マレーネは、本を読むのが好きだと。特に、恋愛ものが。だから部屋の近くに、書庫を作った。いつでも来られるように」


 少し照れながらもそう言って微笑むルート様に、言葉を失った。

 そういえば、以前そんな会話をした。

 それからずっと、計画してくれていたの?

 こんなにたくさんの本を集めて、部屋まで用意して。


「嬉しいです……ありがとう、ございます」


 感激のあまり、声が震えた。

 だって、こんなに素敵な贈り物は、もらったことがない。


「……セドリック殿に、先を越されてしまったけどな」


 ……あ。

 だからあのとき、何か言いたそうにしていたのね。

 きっと、まだ準備中で、何も言えなかったんだわ。


「どんな贈り物よりも、一番嬉しいです」


 ルート様に向き合って、素直にその気持ちを伝えると、彼も嬉しそうに笑ってくれた。


 それに、私が欲しかったものは、すでにいただいている。


 ルート様の気持ちを聞けて、こんなに素敵なものを用意してくれて。

 私はなんて幸せ者なのだろう。


「マレーネ……?」


 気づけば、視界が歪んでいた。

 それでもまっすぐにルート様を見つめて、私は口を開いた。


「本当に、ありがとうございます」


 私は、彼が好き。

 キャラクターじゃない。ざまぁされる婚約者でもない。


「私は、あなたのことが、大好きです」


 それを伝えた直後、一筋の涙が頬を流れ落ちた。


「俺も、君のことが大好きだ」


 そう言って、ぎゅっと強く、でも、壊れ物みたいに優しく、ルート様が抱きしめてくれる。


「俺の世界は、君でできている」



 こんなに幸せでいいのかな?

 いいんだよね。

 だってこれは、()が選んだ未来で、私が掴んだ幸せで、私が決めたハッピーエンドだから。


 ルート様の胸に顔を埋めると、彼の鼓動が聞こえてきた。


 この人となら、この先どんな物語が待っていても、どんな運命でも――きっと、うまくいく。




お読みいただきありがとうございました!

ストックなしで始めましたが、なんとか毎日更新頑張れました……!

これも応援してくださる優しい読者様のおかげです。


楽しんでいただけましたら、最後に祝福の評価☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくださると本当に嬉しいです!( ;ᵕ;)

お一人お一人の応援に、いつも支えられております!

その後のお話も書くかもしれないので、ブックマークはどうかそのままでお願いします(*.ˬ.)"



王女が本当に悪いパターンの短編も書きました!(^^)

愛が重い護衛騎士のお話です。よかったらこちらもよろしくお願いいたします!

『回帰した身代わり王女は護衛騎士の執着から逃げられない』

https://ncode.syosetu.com/n1295lv/

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― 新着の感想 ―
完結お疲れ様でした。 マレーネの言葉を、聞いて、考えてくれた贈り物、本当にステキ! 誰かに決められた訳でも、何かのレールに乗った訳でもない、自分で選んで自分で掴んだ幸せ。マレーネ頑張りましたね! そ…
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