41.きっとすべて大丈夫
ライナ様が、貧乳を気にしている――。
だなんて、とんでもないことを口走ってしまった。
あんな咄嗟の思いつきで。ライナ様の秘密を守るためとはいえ、彼女(彼)の名誉を、別の意味で失ったような気がする。
もっとうまい言い訳はなかったの……?
思い返すだけで顔が熱くなり、いたたまれない気持ちになる。
ごめんなさい、ライナ様。
でも、セドリック様のおかげもあって、先輩侍女は一応信じてくれたようだ。
おそらく、セドリック様がライナ様と結婚するというのも、口から出まかせだろう。
そんなことをライナ様が承諾したとは思えないし、私はなにも聞いていないから。
あんなに大胆な発言を、あの場で即座に口にできるなんて。セドリック様もなかなかの策士ね。
そう思ったときだった。
「マレーネ」
扉の向こうから、私を呼ぶ声がした。
聞き慣れたはずなのに、その声を聞いた瞬間、どくん、と鼓動が大きく跳ねた。
まるで身体の奥に溜まっていた緊張が、一気に揺さぶられたみたいに。
「……ルート様」
中に入ってきたルート様は、一瞬だけ室内を見渡すと、すぐに私のもとにかけよってきた。
迷いのない足取りで、視線を一切逸らさずに。
彼の目には、セドリック様も侍女も映っていない。
「大丈夫か? 立てるか?」
すぐに私の目の前まで来ると、躊躇いなく膝をつき、心配そうに手を差し出してくれる。
「だ、大丈夫です」
その優しさに胸が熱くなる。
私は慌てて頷いた。けれど、彼の視線は私から動かない。
本当に? と無言で問われている気がした。
「無理をするな」
その声は穏やかなのに、有無を言わせない響きがあった。
ルート様に支えられて、私はゆっくりと立ち上がる。まだ少しお尻が痛むけど、大したことはなさそうだ。
それでも、ルート様の手は離れない。
ルート様は私を支えるように寄り添ったまま、視線を侍女へと向けた。
「――それで」
その瞬間、空気が変わったのが、はっきりとわかった。
さっきまで私に向けられていたやわらかい雰囲気が、完全に消えている。
ルート様の鋭い視線を受けて、彼女の肩がビクッと震えた。
「わ、私はただ――」
「話は後でゆっくり聞こう。しかるべき場所でな」
「……っ」
短く、それだけ告げると、ルート様は扉の向こうに合図を送った。
見ると、外には仲間の騎士たちが控えていた。
「違うんです、聞いてください!」
騎士たちに囲まれて、彼女は弁明しようと声を上げた。
けれど。
「――規律違反」
「え?」
「王族侮辱、脅迫、そして暴行――といったところか?」
「……っ」
彼女の声を遮るように、ルート様が静かに口を開く。
それを肯定するように、セドリック様が頷いた。
「何かひとつでも、間違っているか?」
淡々とした言葉。それなのに、ひとつひとつがとても重い。
侍女はルート様から目を逸らし、セドリック様と私に視線を向け、俯いた。
「…………いえ」
言い逃れはできない。ここに、彼女の味方は一人もいない。
ようやくそれを察したのか、掠れた声で答えると、騎士たちが彼女の腕を拘束した。
「連れていけ」
「はっ」
小さく見える先輩侍女の背中を見送り、彼らの足音が遠ざかっていくのを聞いた。
すべて終わったのだと、ほっと息を吐くと、すぐ隣でルート様が私の手を握る。
「マレーネ……怖い思いをさせてしまった」
顔を上げると、ルート様は凛々しい眉をきゅっと寄せ、とても切なげに私を見つめていた。
「いいえ……」
「もう大丈夫だ」
そして、たまらない、とでも言うように、そっと私を抱き寄せた。
強くはないけれど、決して逃げられないくらい、しっかりとした腕に包まれて、ルート様の胸に私の額が触れる。
彼の鼓動が伝わってくる。
「ル、ルート様……!」
セドリック様が、まだこの場にいるのに……。
そんなことお構いなしに私を抱きしめているルート様の腕が、微かに震えていることに気がついて、私はそっと彼の背中に手を添えた。
心配させてしまったんですね。
同時に、張り詰めていたものがほどけていくような気がした。
ルート様がいてくれたら、きっとすべて大丈夫。
そう思えてしまうから、不思議だ。
「マレーネ……」
背後でセドリック様のすすり泣くような声を聞きながら、私はようやく肩の力を抜いたのだった。
銀髪は泣きながら見てます……(そりゃそうだ( ;ᵕ;)




