表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/40

34.まさか闇落ち……?

「な、なんのことですか……?」


 声が震えてしまった。喉が渇く。心臓が高く音を立てる。


「……」


 誤魔化す私の反応を窺うように、セドリック様はただじっと見つめてきた。


 探るような視線。


 まさか――。


 ライナ様の秘密をばらす気!?


 いやいやいや、正ヒーローがそんなことするはず……。

 もしかして、ヒロインと結ばれなければ、ヒーローは闇落ちするの!?


 もし、ライナ様の正体が王子だと公になったら。

 もし、狙われたら。

 もし――暗殺でもされたら。


 呼吸が浅くなる。


 セドリック様は、続きの言葉を言いづらそうに視線を逸らした。

 そして苦しげに、唇を引き結ぶ。


 ……葛藤しているの?

 やっぱり、本当はそんなことしたくないんだわ。

 でも……ヒロインと結ばれなければ、正ヒーロー(この人)の未来はどうなるの……?


「もし、脅されているのなら、俺が必ず君を助ける」

「……脅されてなど、いません」


 視線を落とす私に、セドリック様は優しく言った。そして今度は額を押さえ、考えるような間を置いてから、そっと手を伸ばしてきた。


「とにかく、冷静に考えてくれ。俺は、セドリック・エーレンベルク。君は、マレーネ・フォークト。俺たちは、結ばれる運命だ」

「……」


 肩に触れられ、視線が至近距離で交わる。


 それにしても、なんて自信たっぷりな言葉……。

 まるで、自分がこの物語のヒーローで、私がヒロインだって、知っているかのような言い方。

 その紫の瞳を見つめていると、吸い込まれてしまいそうな感覚に陥る。


 これが、正ヒーローとヒロインの、抗えない運命というやつなの?


「マレーネ、君は必ず俺を好きになる」

「……」


 頭がぼんやりとして、不思議とその言葉を否定できなくなる。


 これは……なに? ヒーローチート? そんなの、あるの……?


「マレーネ」


 セドリック様の声が、頭の中に響く。彼の瞳が、私を射抜く。


「……っ」


 それでも、目を閉じて彼を視界から追いやった、次の瞬間。


「彼女は俺の婚約者だ」


 セドリック様の後ろから響いた、ルート様の声に、私ははっとして顔を上げた。


 ゆっくりと視線を向けると、そこには扉の前に立つルート様の姿があった。


「……ルート・ヴェルナー」


 セドリック様が静かに彼の名を呼ぶ。


「それ以上マレーネに近づく理由があるなら、聞こう」


 ルート様の声は落ち着いていた。

 けれど――。


 彼は燃えている。


 ……比喩ではなく、本当に。

 怒りのオーラのように、彼の周囲を淡い炎が揺らめいている。


 そういえば、彼は炎の騎士だった。


「……何を偉そうに。王女と浮気をしているくせに」

「浮気などしていない」

「ついこの間まで、この国の誰もがそう思っていた。今はマレーネを脅して、無理やりそばに置いているのだろう。彼女を解放しろ!」

「セドリック様……!」


 胸が締めつけられる。

 これはまるで、あのシーン(・・・・・)


 婚約者(ルート様)との婚約を解消するはずだった、あの夜会のシーンを、今ここでやり直すような展開だ。


 でも、私は知っている。ルート様とライナ様の浮気が誤解だということを。


「彼女は俺と殿下を信じてくれている」


 ルート様の視線が、まっすぐ私に向いた。


 そう、あのシーンとは違う。

 この物語の展開は、大きく変わったのだ。


 ……でも、そのせいでライナ様にもしものことがあったら――。


 私は覚悟を決めて、声を出した。


「セドリック様、少しお時間をいただけませんか?」

「マレーネ……!」


 驚いたように目を見開くセドリック様。

 けれど次の瞬間、彼の肩の力が少し抜けた。興奮の熱が、わずかに静まる。


「わかった、待つよ」


 正ヒーローらしい冷静さを取り戻したセドリック様は、私に優しい微笑みを向けると、最後にルート様をひと睨みして、部屋を出ていった。



「マレーネ……」


 部屋に残された、私とルート様。

 彼はほんの少しだけ、寂しそうな表情を見せた。


「ライナ様は、今」


 それでもまずは、お仕えしている殿下のことを確認する。


「自室で執務の最中だ。少しの間、マリアさんがそばにいる」


 そうか。よかった。

 たぶんライナ様のことだから、何かを察してルート様を私の部屋に寄越してくれたのね。


「では少し、お話があります」


 まっすぐに彼を見据えて告げると、ルート様も表情を引きしめ、頷いてくれた。




続きます……!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ