表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/39

33.ずっと見てきた

「――これで、よし!」


 銀髪――セドリック様からの贈り物は、とりあえず丁寧にクローゼットへしまっておいた。


 使うつもりはない。

 ……いや、正確には、使えない。


 だってよく見たら、ネックレスとイヤリングだけではなく、指輪や腕輪や髪飾り――すべてに、紫色の宝石があしらわれていたから。


 さっきは量の多さに圧倒されて忘れていたけれど、紫はセドリック様の瞳の色だ。


 この国では、恋人や婚約者の髪や瞳の色の宝石を身につける……というのが、流行っている。

 異世界系少女漫画でもおなじみの、あの鉄板演出である。


 ルート様の髪色は黒、瞳は赤だ。


「……やっぱり、あの場ですぐにお返しするべきだったかもしれない」


 そんな後悔が胸をよぎるけれど、今さらどうしようもない。

 とにかく、使用することはないだろう。

 そう結論付けて、荷物の整理を終えた、そのときだった。


〝コンコンコン――〟


 扉がノックされた。


 誰――?


 ルート様は、ライナ様と一緒にいるはず。

 公爵家の使用人が、忘れ物でもしたのかしら?


「はい、どうぞ」


 他に私を訪ねてくる人物に心当たりがないまま返事をすると、ガチャリと開けられた扉の向こうから現れたのは――。


「マレーネ」

「銀ぱ……、セドリック様!?」


 なんと、銀髪の正ヒーロー。セドリック・エーレンベルク、その人だった。



「突然すまない。驚かせてしまっただろうか」


 扉の前に立つセドリック様は、どこか落ち着かない様子だった。

 堂々としているはずの公爵家嫡男が、わずかに視線を泳がせている。


「はい。……あ、いいえ……その、どうされたのですか?」


 思わず頷いてしまった。

 だって、ついさっき、公爵家の使用人は帰ったばかりですけど?

 まさか本人が来るなんて……普通、思わない。


「贈り物、受け取ってくれたと聞いた。気に入ってもらえただろうか?」


 ほんのりと頬が赤い。声も、どこかぎこちない。


 ……え。

 あれだけ大量に送りつけてきたのに、本人はこんなに照れているの?

 行動力と感情の差が……。


 あと、私との温度差もある。


「お気持ちは嬉しいですし、〝礼として〟ありがたくちょうだいしました。ですが」


 ここで曖昧にしてはいけない。

 私は小さく息を吸い、覚悟を決めた。


「私には婚約者がおります」

「知っている」


 即答だった。迷いの間もない。

 でも、彼から笑顔が一切消えた。


「ですから、今後は……このようなことはなさらないでください」


 できるだけ、やわらかく。でも、はっきりと告げた。


「……」


 何も答えないセドリック様からは、悲しみと――わずかな不満が、隠しきれないまま滲んでいた。


「……おかしい」

「え?」


 そして、ぽつりと呟かれる。


「君を〝政略〟の中に閉じ込めていたくない」


 まっすぐに向けられる瞳は、さっきまでとはまるで違っていた。

 真剣で、逸らせないほど強い光を宿している。


「セドリック・エーレンベルク――俺は、マレーネ、君を愛している。ずっと見てきた」

「……」


 鼓動が、どくんと大きく跳ねた。


 迷いのない声音。飾りのない言葉。

 それはまさに、漫画の中の正ヒーロー、そのものだった。


「彼は、君を愛しているのか?」

「それは……」


 答えに詰まる。

 それは、わからない。

 ただ、私たちは〝婚約している〟という事実があるだけ。


 それでもルート様は誠実な方だ。優しく、頼もしく、私を大切にしてくれているのも伝わってくる。


 でも……〝愛している〟のかと問われると、それはわからない。


「……それでも、私は」


 ルート様の手の温もりを思い出し、私はきゅっと指先を握って顔を上げた。


「ルート様を、お慕いしております」


 それが、すべてだ。

 ルート様とは政略的な婚約だけど。でも、私はルート様のことが好き。


 これは、この物語の進むべき展開と反しているのかもしれない。

 でも、それでも……私にも、心がある。


 私は、ただのキャラクターじゃない。この世界で、ちゃんと生きている。


「おかしい……。そんなの、あり得ない」


 はっきりと伝えたのに、セドリック様は納得していなかった。

 俯き、小さく何度も否定的な言葉を繰り返している。


 そして、ふいに顔を上げたかと思うと、とんでもない言葉を口にした。


「……俺は、ライナ殿下の秘密を知っている」

「え――?」


 その瞬間、ひやりと、冷たいものが身体を突き抜けた。



あああ、銀髪……!!

続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ