30.銀髪のヒーロー3
俺の名は、セドリック・エーレンベルク。
銀の髪、紫の瞳を持つ、公爵家の嫡男だ。
運命の仮面舞踏会――その日は、やってきた。
俺はすぐにマレーネを見つけた。仮面をつけていてもわかる。
あの美しさは、仮面程度で隠すことなどできないのだから。
しかしマレーネは、今日も婚約者のルート・ヴェルナーと一緒にいて、なかなか近づけなかった。
そうしている間に、俺は酒に酔った令嬢たちに囲まれ、質問攻めにされてしまった。
庭に逃げたのだが、彼女たちはそこにまで追いかけてきた。
俺はマレーネの近くにいたいのに……。
どうしたものかと困っていたとき。助けに現れたのは、まさかのマレーネ・フォークト――その人だった。
やはり俺たちは運命の相手だ。
出会うことが決まっていたのだ。
本来ならば俺が彼女を助けるはずだったが、この際どちらでもいい。
とにかく、今この場にルートはいない。ようやく彼女と顔を合わせることができた。
そう思った俺は、この気持ちをまっすぐに伝えた。
ずっと抱えてきた想い。
〝マレーネが好き〟
思えば名も名乗っていなかったせいか、彼女は戸惑っていた。
そして、返事を聞く前に――ルートがやってきた。
一体どうなっているんだ。ライナ王女はいいのか? 本当に邪魔な男だ……。
結局俺は、彼女から返事を聞くことができなかった。
その後、すぐにマレーネは姿を消した。帰ってしまったのかもしれない。
……おそらく、ルートが帰したのだろう。余計なことをするな。
俺は苛立つ思いで、こっそりとルートのあとをつけることにした。
今日こそは、奴の本性を暴いてやる――。
するとルートは、見たことのない金髪の青年と裏廊下で合流したではないか。
あれは誰だ……?
思い当たるのは、先日街でも見かけた、帽子を被った少年。こうして見ると、立派な貴族令息という感じだ。
所作も美しく、まるで王族のような気品を感じる。
しかし、仮面をしているせいで、顔まではわからない。
そのまま二人の後を追った。ルートは時折後ろを警戒していた。さすがは護衛騎士。侮れん。
そのせいであまり距離を詰めることはできなかったから、何を話しているのかはわからなかった。
しかし――。
俺は、見てしまった。
二人が、ライナ王女の私室に入っていくのを。
どういうことだ――!?
マレーネは一緒ではなかった。
つまり、ライナ王女の部屋に、男が二人、入っていったということか?
こんな時間に?
いくら護衛が一緒とはいえ、あり得ない。
やはり、ライナ王女とルートはできているのだろう。
では、あの金髪は? そういえば、ライナ王女の髪によく似ていたな……。
……まさか!
――彼は、ライナ王女の親戚か?
ということは、やはりあれは王族なのか!?
秘密の王族……王の隠し子、とかだろうか?
……いやいやいや、そんな話は噂でも聞いたことがない。
それじゃあ彼は――まさか、ライナ王女――?
その仮説が頭に浮かんだ瞬間、嫌な汗が背中を伝い落ちた。
しかし、それならば納得いく。
ルートと王女の浮気は誤解で、その秘密をマレーネが知り、協力しているのならば――。
すべて、辻褄が合うのだ。
マレーネが明るくなったのも、浮気が誤解だったからなのか?
秘密を共有できたから、ルートはマレーネに対して距離が近くなったのか?
……もしそうなら、俺はとんでもない秘密を掴んでしまったことになる。
いや、しかし確証はない。彼と王女が別人という可能性も、まだ残っている。
だいたい俺は、〝王女が王子だった〟なんていう未来を、まったく知らない。
本来であれば、この仮面舞踏会には俺とマレーネが一緒に参加し、二人で楽しくダンスを踊るはずだった。
そして、美しく可憐なマレーネの姿を見たルートが、「もう一度話をしよう」と縋ってくるのを、「今さら遅い」と言って、俺がスカッと格好よくざまぁしてやるはずだったのだ。
……まぁ、マレーネに気持ちを伝えられただけでも、前進したが。
とにかく、今度会ったときはもう一度、正式に名を名乗り、最初からきちんとやり直そうと思う。
金髪の男の正体はおいおいだ。まずはしっかり軌道修正しなければ。
運命の歯車は、確かに回り始めた。
――大丈夫。俺はこの世界の正ヒーロー。
セドリック・エーレンベルクなのだから。
あああ……銀髪の秘密も明らかに!?
いつもリアクションなどありがとうございます!続きも頑張ります!




