03.王女様を選ぶなら、私とはお別れいたしましょう!
二人は、人目を避けるように、ひそひそと何かを囁き合いながら廊下を進んでいった。
その距離の近さは、決して護衛と王女様の距離感ではない。
とても親しい者の距離であることは、すぐにわかった。
むふふふ……やっぱり、想像通りの展開。
やがて、一室の扉の向こうへと消えていく二人。
私は少し距離を取りながら、その後を追った。
足音を殺し、息を潜めて、扉の前までたどり着く。
そっと耳をそばだてると、中から二人の声が聞こえた。
『……さっさとして』
それは、急かすようなライナ様の声だった。
少し苛立っているのか、いつもよりも声が低い。
おそらく、ルート様の前でだけ見せる、少し我儘な姿なのだろう。
そんな想像をしていると、続いて聞こえてきたルート様の言葉に、私の心臓が跳ねた。
『わかっています。……しかし、きついですね』
『痛……っ、下手くそ、もっと優しく!』
『すみません、しかし、これは苦しいな……』
低く、抑えたようなルート様の声。
――え? きつい? 痛い? もっと優しく……?
頭の中で、想像が一気に膨れ上がる。
あの、クールで真面目なルート様が服を乱し、たくましい身体を露にして、眉間を寄せ、苦しそうにライナ様を抱いている姿。
あの、静かで気品高い王女様が、白くて滑らかな肌を露にして、ルート様の前でだけ見せる、少し我儘で乱れた姿。
もしかして、ルート様がライナ様の尻に敷かれている感じ?
ルート様がMで、ライナ様がSなの……?
とにかく二人は、既にそういう仲なのね――!?
婚約者がいる護衛騎士と、国王の大切な王女様が?
この夜会の最中に?
二人でこっそり抜け出して?
「……やっばい、興奮する……熱い展開だわこれ」
口元が、思わずにやける。頬が熱い。
これから銀髪のヒーローが助けに来てくれて、溺愛されることが決まっているはずのヒロインである私は、余裕の気持ちで見ていられる。
ああ……でも、あんなに美しい二人のそういう展開を、目の前で見てしまって本当にいいのかしら?
さすがにドキドキしてきた。
けれど、ここまで来て、逃げるわけにはいかないわよね。一応私は、浮気されているかわいそうなヒロインなわけだし?
「こんなチャンス、絶対ない……! いくわよ!!」
私は覚悟を決めて、扉を勢いよく開け放つ。
そして、強気の主人公が言いそうな言葉を、叫んだ。
「ルート様! 王女様を選ぶなら、私とはお別れいたしましょう――!」




