27.たとえ正ヒーローが銀髪でも
これ、まずいかも?
そう思い、一歩後退った、その瞬間。
銀髪の男は、私の前にすっと跪いた。
「マレーネ・フォークト――」
はっきりと、フルネームを呼ばれる。
心臓が、嫌な音を立てる。
「君が、好きだ」
「――――っ!」
ああああ、来た!!
来ちゃった!!
やっぱりこの人、銀髪の正ヒーローだ!!!
でもまさか、今さら!?
ここで!?
ルート様は……今夜は絶対に、浮気をしていると思われるようなことはしていない。
だって、今夜のライナ様は男の姿をしているのだから……!!
それなのに――。
正ヒーローから告白されるなんて、聞いてない!!
しかも助けたのは私だし!
なんか展開が強引なんですけど!?
やっぱり、私と銀髪(正ヒーロー)は、絶対に出会う運命なの……!?
頭が、真っ白になる。
「――マレーネ」
「はい……っ!?」
そこに、背中から張り詰めた声が響いた。
はっとして振り向くと、そこに立っていたのはルート様だった。
たぶん私の戻りが遅いから、探しにきてくれたんだ。
「ルート様……!」
鼓動が跳ねる。
銀髪の男性は、まだ跪いたまま。
「あなたは……なぜ仮面を外しているのですか」
銀髪に向けられた、静かな声。
けれどその奥には、鋭いものが潜んでいる。
「これには、事情が」
「マナー違反だ」
銀髪の男性の言葉を途中で遮るようにして、ルート様は私の手を取った。
「行こう、マレーネ」
「あ……」
その手には、驚くほど力がこもっていた。
有無を言わせないという、ルート様の気持ちが伝わってくる。
「待ってくれ……!」
それでも銀髪は声を上げた。背中から聞こえる声を、ルート様は無視した。
怒っている……もしかして、今の聞かれた?
いつも冷静で、落ち着きのあるルート様から、こんなにも露骨な怒りを感じたのは、初めてだ。
「あの、ルート様……?」
「彼は、街でも見かけた男だな。やはり知り合いなのか?」
「いいえ……! 初めて会いました!」
――この世界では。
たぶん彼は銀髪のヒーローで間違いないだろう。でも、私が転生してからは、初めてちゃんと顔を合わせた。
名前だって知らない。漫画ではすぐに出てきたのかもしれないけれど、覚えていないし。
「告白されていたな」
「……!!」
やっぱり、聞いていたの!?
静かでストレートな言葉に、思わず息が詰まる。
顔が熱い。恥ずかしさと、動揺と、なにより――。
「それは……」
立ち止まってこちらに身体を向けたルート様の手が、さっきよりも強く、私を引き寄せたから。
「ライナ様なら、まだ許せた」
「え……?」
「しかし、彼は許せない。あれは本気だった」
「……」
はっきりとした声音。迷いも、冗談も、一切ない。
視線を向けると、仮面の奥の赤い瞳が、まっすぐにこちらを射抜いていた。
独占欲。
嫉妬。
そして、隠しきれない想い――。
「君は、俺の婚約者だ」
「も、もちろんです……!」
銀髪の告白を受ける気は、なかった。
私が何か言うよりも先にルート様が現れて、有無を言わさずその場を立ち去ることになっただけ。
「……他の男に、あんなふうに言われているのを……俺は黙って見過ごせない」
「ルート様……」
彼の顔が切なげに歪むのが、仮面越しでもわかった。
胸がぎゅっと締めつけられる。
ドキドキと鼓動が速くなり、頬が熱くなる。
ルート様に心配をかけるのは嫌。不安にさせるのは嫌。
そんな顔、しないでほしい……。
そう思ったら、なんとも言えない気持ちが込み上げてきた。
でも、こういうとき、なんて言ってあげたらいいのか、私にはわからない。
ルート様は、私が〝婚約者〟だから、他の男性に渡したくないの?
それとも――。
「……ごめんなさい」
今は、謝ることしかできない。
嫌な気持ちにさせてしまったことは、間違いないのだから。
「いや、すまない。君を責める気はないんだ。……ただ、俺が彼に妬いただけだから」
「……」
ルート様は、はっとすると、すぐにいつものようなやわらかい声に戻った。
「戻ろうか。殿下も心配だし」
「……そうですね」
その言葉に頷くと、ルート様は私にそっと手を差し出してくれた。
その手に掴まると、優しく微笑んで一緒に歩いてくれた。
もう、先ほどのような力強さはない。
ルート様が少しでも安心してくれたなら、いいけれど……。
……銀髪の正ヒーロー。
たとえその人が今、私の前に現れたとしても。
私にも、心がある。
「……」
隣を歩いている婚約者の凛々しい横顔をそっと見つめ、触れ合っている手から伝わってくる熱を感じて、私は確信した。
気づいてしまった。
……この漫画の正ヒーローが、銀髪でも――。
私は、ルート様のことが好き。
ついに気持ちを自覚したマレーネ……!
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