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18.焼きもち?

 焼き菓子を食べ終え、屋台を離れて少し歩いた頃だった。


「――マレーネ」


 不意に、低く抑えた声で名前を呼ばれる。

 隣を歩いていたルート様を見上げると、彼はいつになく強張った表情をしていた。


 なんだろう……。何か、緊張しているような面持ちだ。

 視線は、前を歩いているライナ様から逸らしていない。そういうところは、本当に真面目な方だ。


「先ほどの、フードを被った男だが……」

「はい?」


 思わず、間の抜けた返事をしてしまう。

 なんの話かと思ったら。


 ルート様は一度言葉を切り、一瞬だけ私に視線を向けた。

 その仕草が、妙に躊躇っているように見える。


「もしかして、あなたは……ああいう男がタイプなのだろうか」


 ……はい?


 一瞬、何を言われたのか、わからなかった。


「不躾なことを聞いてすまない。ただ、その……」


 彼は小さく咳払いをして、続けた。


「じっと見ていたので……気になった」

「ああ~……いえ、そういうわけでは……」


 慌てて首を横に振るけれど、内心は完全に混乱していた。


 ……なにこれ。


 もしかして、焼きもち?

 さっきの、銀髪のフード男に?

 え、待って待って。


 私の頭の中で、ものすごい勢いで思考が回り始める。


 ちょっと見てただけだよ!?

 なんにも絡んでいないのに、婚約者のルート様が気にするなんて……やっぱり、あの銀髪は主要人物なの?

 ということは、彼が銀髪のヒーロー……?


 私は頭の中で、必死にこの後の展開を予想した。


 婚約者が一度距離を取ったヒロインに、後から縋ってくる展開も王道……。


 は……っ!

 もしかしてこれは、「今さら遅いです」と言って、スカッ! と、ルート様を振る展開なのでは?

 そうしたら、満を持して銀髪のヒーローが現れるのだろうか。


 ……いやいやいや。だから、ルート様の浮気は誤解だし、私はルート様から「愛さない」宣言をされたわけでもない。


「……」


 ルート様をちらりと見る。

 眉をわずかに寄せ、真剣そのものの表情で、私の返事を待っている様子だ。


 その姿は、市井の服装でも変わらず凛としていて、隠しきれない〝騎士〟としての目をしていた。


 どう考えても、彼は〝ざまぁされる婚約者〟ではない。


 むしろこれ、ルート様の好感度上がってるでしょう?

 それは決して、〝読者〟としての私だけではなくて、私自身も――。


「私は……」


 ドキドキと、鼓動が高鳴った。それでも口を開いた、そのときだった。


「ルート」


 前を歩いていたライナ様が、振り返らずに声を上げた。

 なんだろう? と、私たちは同時にライナ様に視線を向ける。


「妬いているなら、もう少し堂々としたらどうだ?」

「なっ……!?」


 はっと息を吐いて、こちらを振り返るライナ様。

 その言葉に、ルート様は言葉を詰まらせた。そのお顔は、耳まで赤くなっている。


「べ、別に、そういうわけでは……!」

「はいはい。それじゃあ私が代わりに言ってやるよ」


 そう言うと、ライナ様は足を止め、くるりと振り返った。

 そして、ぐいっと私に歩み寄る。


「マレーネ。君は、私のことだけを見ていろ――」

「……!?」


 そっち!?


 なぜか私の顎をくい、と掴み、至近距離でその台詞。


 これは、〝顎くい〟だ――!


 少女漫画ではお約束の展開……!!


 でも、ライナ様はさすがに正ヒーローじゃないよね?


 ……まさか、そのパターンもあるの?


「いい加減にしてください!!」

「ははは、おまえもこれくらいできないと。なぁ、マレーネ?」

「え? ええと……」


 ルート様が私たちの間に割り込むと、ライナ様はパッと手を離した。


「すまない、この人は本当に距離感がおかしくて……」

「い、いいえ」

「おい、それ誰に言ってるんだ?」

「あなたですよ」

「なんだと? 不敬罪にするぞ」

「できるものならどうぞ」

「この……、言ったな!?」


 ルート様とライナ様は、仲良く言い合いを始めた。


 その間も、ルート様が私を庇うようにすぐ目の前に立っていて。

 さりげなく、手を握られていて。


「……」


 私を守ろうとしてくれている、その大きくてたくましい背中を目の前にして。

 途中から、二人の会話が耳に入らなくなるくらい、私の心臓はドキドキと大きな音を立てていた。


 そして、異世界系少女漫画が大好きな私は、頭の中で、覚えてもいないこの物語のタイトル(仮)を考えてみた。



 浮気していると思っていた婚約者が、なぜか溺愛モードに突入したみたいです……?




お読みいただきありがとうございます!

次回、お約束の閉じ込められ展開……!?お楽しみに!⸜(*˙꒳˙*)⸝

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