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半妖少女とゆく禍主退治の旅  作者: 彼岸茸


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18/30

18 ルカと合流

 晩夏の日差しが降り注ぐ中、山村を発った俺とセツナは最寄りの宿場へ向かっていた。

 朝晩は涼しくなったけど、日中はまだまだ暑い。

 汗をかく俺とは対照的に、セツナはなんとも涼しげな表情をしている。


「それにしても、暑いのう」


 鉄扇でぱたぱたと扇いでいる彼女だが、汗一つかいていない。

 妖だし、人間とは異なる感覚なのだろう。ここ数年、毎年見ているけど、毎度不思議な気持ちになる。


 ちなみに、昔はあの扇でよく叩かれたものだ。

 素振りや型の練習中に、ちょっと間違えるとあの扇で矯正された。

 あれ、結構痛いんだよな。


「全然暑そうに見えないから、俺の荷物を持ってくれてもいいんだよ」


 俺が担いでいる荷物は正直に言って、重い。

 なにせ、セツナがもらった果実酒を背負っている。

 果実酒の入った甕は歩くたびに揺れて、それだけで運ぶのは疲れる。


 そのせいで暑さも増したように感じてしまう。

 いや、気のせいなんだろうけど。


「シンよ、か弱い妾に重い物を持たせるのか?」


 少女の形をしていても、中身は千年を生きる妖狐だ。

 俺よりも腕力はあるのに、これだ。


 いっそどこかに捨てるか、すれ違う行商人に売るかしてもいいかもしれない。

 でも、せっかくの依頼の報酬だし、それはそれで勿体ないか。


 なら、飲むか?

 ちょうど汗をかいて喉も渇いていることだ。


「汝、良からぬことを考えてはおるまいな?」

「別に何もないよ」


 訝しむセツナに、俺は肩を竦めてみせた。

 こういう時の勘は鋭いんだよな。

 セツナを誤魔化しつつ街道を進むと、遠くに宿場が見えてきた。

 周囲を板塀で囲っているのが分かる。

 

「ようやく見えてきたのう」

「ああ。やっと休憩できる」


 もちろん、目的は休憩だけではない。

 禍主を祓うという最終目標は別として、今回はルカとの合流が目的だ。


 彼女は蛇女討伐の報酬を無事に受け取れただろうか。

 まあ、彼女も退治人をしてそれなりに長そうだし、俺よりもしっかりしているかもしれない。


 木陰を選びながら進み、宿場に到着した。


     ◆


 宿場の入口にあたる関所も、特に問題なく通過できた。

 刀に関して、だいたいどこの関所でも衛士に聞かれるけど、退治人をしていると言えば通してくれる。

 少しばかり嫌な顔はされるけど。


 妖が視えない彼らからすると、退治人なんてただの胡散臭い連中だからな。


 宿場としてはそこそこの広さだろう。

 ひとまず腹が減った。


「飯でも食うか」

「うむ。酒がある茶屋が良いぞ」

「果実酒があるだろうが」

「それはそれ、これはこれじゃ」


 そんなことを言うセツナに苦笑する。


 茶屋を探していると、貧民が身を寄せ合う一角を通りかかった。

 臭いが鼻につき、少しだけ足早になる。


 広めの宿場には、大抵貧民がいる。裕福な人がいれば、貧しい人がいるのは仕方のないことだ。

 ただ、スリには十分気を付けないといけない。


 しかし、何か違和感を覚えるんだけど……


「ふむ。なるほどのう……」


 セツナはその何かに気付いたようだ。


「どうしたんだ?」

「……いや、ここでも事件がありそうな気がしてのう」


 なんでまた、そういう不穏なことを言うかな。

 だけど、妖関連なら路銀を稼ぐことにも繋がるので、そう悪いことではない。

 そして、セツナの勘はよく当たる。


「ま、依頼があればその時に考えよう」

「そうじゃな。まずは酒じゃ」

「違う、飯だ」


 貧民の一角を抜けると、少しずつ賑やかになっていった。

 露店なんかも出ている。肉の串焼きも悪くはないけど、今は腰を落ち着けたい。


 通り沿いには米屋や鍛冶屋、薬屋なんかが並んでいる。

 もちろん、茶屋や蕎麦屋なんかもあり、良い匂いが漂ってくる。


 どの茶屋にするか考えていると、後ろから声がかかった。


「シン、合流できて良かったわ」


 振り向くと、ルカだった。

 狼の耳と尾は出ていない。相変わらずの薄着で、目のやり場に少々困る。


「よく俺達だって分かったな」

「お狐様が目立つから」


 お狐様……ああ、セツナのことか。

 白衣に緋袴なんて、祭りの時か神社に行った時以外ではあまり見るものでもないしな。

 俺は慣れてしまってるけど、確かに目立つ服装だ。


「妾のことはセツナと呼ぶが良い」

「はい、セツナ様」

「かような敬称は不要じゃよ」


 セツナって、大妖にしては寛容なんだよな。呼び捨てにしても、「こいつ」呼ばわりしても気にしないし。

 しかし、ルカはそうではないらしい。


「いえ、そういうわけには……」

「律儀じゃのう。まあいいか」


 ルカは少しばかり緊張しているようだ。

 そういえば、初めてセツナを見た時もぎょっとした顔をしていた。

 やはり妖と言えど、千年以上生きる者には敬意を持った方がいいのだろうか。


「じゃあ、セツナ様」

「シンはやめよ、気色悪い。ほれ、見よ……鳥肌が立ったじゃろうが」


 冗談のつもりだったけど、本気で嫌がられたので、これまで通りに呼ぶことにしよう。


「じゃあ、セツナ。ルカも揃ったし、茶屋に行こう」

「二度と変な呼び方をするでないぞ」

「はいはい。ルカも一緒に行こう」

「ええ」


 こうして、俺達はとりあえず目に付いた大きめの茶屋に入った。


     ◆


 店内は賑わっていた。旅の商人のような格好の人も多い。

 俺はうどんを、ルカは団子を頼んだ。

 セツナは「酒」と言いそうになったので、俺と同じうどんにしておいた。


「シンが旅の退治人をしてるのって、理由があるの?」


 ルカが俺に尋ねた。


「詮索する気はないから、言いたくないなら別にいいわ」

「隠すようなことでもないしな」


 ちらりとセツナを見ると、彼女は「好きにせい」と呟いた。


「禍主を追っている。ちょっとした因縁があってな」


 わざわざ家族が殺されたことまでは言わなくてもいいだろう。

 あれを思い出すだけで、怒りと悔しさと悲しさがない交ぜになった感情がぐるぐると回ってしまう。

 さすがに軽々しく人に話していいことじゃない。


「ええと、禍主って、あの禍主? 千年くらい前に封印されたって……」


 ルカがきょとんとしている。

 長く封印されているのだから、それを追うというのも、傍から聞けば変な話なのかもしれない。


「ふん、その封印が綻んでいるんじゃろ」


 セツナにしては珍しく、吐き捨てるような物言いだった。

 俺だけでなく、セツナも禍主と因縁があることは察しているけど、内容までは聞いていない。


「でも、そう簡単に見つかるものでもないしな。ここ数年、退治人として旅をしているけど、まだ手がかりもないんだ」

「そう……見つかるといいわね」


 話しているうちに、うどんと団子が来た。

 うどんをすすると、長く歩いて疲れた体によく沁みる。素朴な味で美味しい。

 ルカも団子に手を付ける。


 これまでに見てきた妖の話をルカとしていると、隣の席の女達がざわついた。

 何事かと思ってそちらを向くと、その中の一人が躊躇いがちに尋ねてくる。


「あの、もしかして退治人様ですか?」


 嘘をつく理由もないので、俺は頷く。

 すると、女は話を続けた。


「子どものところに、『子どもみたいなもの』が来るんです」

「『子どもみたいなもの』?」


 それはまた随分と抽象的というか、何というか。


「わたしらには視えないもんで……。でも、子どもが夜になると来るって言うんですよ。見に行っても何もいないし、なんだか気味が悪くて」


 その言葉を皮切りに、女達が「うちも」「我が家も」と次々に言い出した。

 子どもには視えて、大人には視えない。

 まあ、妖あるあるではあるな。


「シン、どうするの?」

「聞くだけ聞いてみよう」


 受けるかどうか、俺が決めていいことなのか分からないけど、ルカの問いにそう答える。

 俺は女達に向き直る。


「詳しく聞かせてほしい」


 彼女達が交代で話した内容をまとめると、こうだ。


 夜になると、子どもがいる場所に現れる。

 大人には視えない。

 これと言って悪さをするわけではなく、しばらくすると消える。

 ただ、そういうことが続くのは怖いから、なんとかしてほしい。


 それほど難しい依頼ではなさそうだ。

 ルカを見てみると、彼女は少しだけ口角を上げていた。

 俺と同意見のようだ。


「引き受けましょう」

「そうだな」


 ルカと相談して報酬を決める。

 今までは一人で決めてきたので、なんだかこういうのは新鮮だ。


 女達は提案した金額で了承したので、正式に依頼を受けることになった。

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