5.街にも完全に定着したアリア式生活
王城からほど近い大通り――
朝市で賑わう広場は、いつものように活気に溢れていた。
だが、ひとつだけ以前とは決定的に違う光景がある。
それは、市民たちが買い物を始める“前”に、皆そろって水筒やカップを手にしていることだった。
野菜屋の前で、市民Aがぐいっと一杯。
「やっぱり朝はこれだねえ。アリア様式の“朝一杯”、欠かせないよ」
隣で野菜を選んでいる市民Bも微笑む。
「野菜スープのレシピも良かったわ。子どもたちが風邪を引かなくなってね。
アリア様は本当に不思議な方よねえ、魔法じゃなくて“生活”で人を元気にしてしまうなんて」
市民たちは口々にそんなことを言いながら、当たり前のように水を飲んでから買い物に戻る。
彼らにとって、それは朝の挨拶と同じくらい自然な習慣になっていた。
少し離れた場所から、フードを深くかぶったアリアがそっと様子を眺めていた。
アリア(心の声)
(……あれ? なんか……私、気づかないうちに“国民の習慣”とか作っちゃってる……?)
まるで彼女が“健康の精霊”でもあるかのように、街の人たちは楽しそうに水を飲み、野菜を買い、笑顔で過ごしている。
(いや、精霊じゃないです、ただの悪役令嬢です……!)
と必死に自分へツッコミを入れるアリアだったが――
その頬は、小さく誇らしげにほころんでいた。




