2.アリアの“地味すぎる見回り”
王城の職員廊下には、朝の喧騒が落ち着き、規則正しい足音だけが響いていた。
その中を――ペットボトルのような水筒を抱えて歩く令嬢がひとり。
(今日も……みんな、ちゃんと飲んでるかな)
アリア・フォン・シュトラール。
肩書きは令嬢だが、やっていることは限りなく“給水係”に近い。
廊下を曲がったところで、護衛Aが慌てて姿勢を正した。
「アリア様、今日も“給水巡回”ですか……!」
「そうよ。あなた――昨日の午後、水飲んでなかったでしょう?」
「えっ……見てたんですか?」
「見てなくても分かるの。魔力の循環がちょっと重かったもの」
アリアは当然のように水筒の蓋を開け、コップに注ぐ。
差し出された護衛Aは、剣を構えるより緊張した顔でそれを受け取った。
「うっ……ありがたく……!」
「はい。ゆっくり飲んで。喉じゃなくて“体に入れる”イメージで」
護衛Aはごくごくと飲み、肩がふっと軽くなる。
「……っ! 本当だ。魔力が通りやすい!」
「でしょ? 午後は特に乾燥するから気をつけてね」
アリアはにこっと笑って、次の巡回地点へと歩いていく。
――敵も陰謀も魔物も出てこない。
ただ人に水を飲ませて回るだけの、地味すぎるほど平和な仕事。
でも彼女の足取りは軽かった。
(こういうのが、一番いいわ……本当に)
王城の廊下に、今日もアリアの“給水指導”が静かに広がっていった。




