6.一部で呼ばれ始める新称号――“平和の悪役令嬢”
王城近くの喫茶店。
昼下がりの柔らかな陽光が窓辺に差し込み、
香り高いコーヒーの湯気がゆらゆらと揺れていた。
店内の一角では、常連らしき市民たちが小声で、しかし楽しげに噂話をしている。
市民A
「なぁ、聞いたか? あのアリア様、昔は“悪役令嬢”って呼ばれていたらしいが……
最近はなんだか、平和な改革ばっかりしてるってよ」
市民B
「そりゃあ、戦争を止めるより難しいって言うわよ?
人の生活を変えるのは、一番時間がかかって、一番面倒だもの」
市民Bはカップを揺らしながら、しみじみとため息をつく。
市民C
「悪役っていうか……もう“平和の悪役令嬢”よね」
その言葉に、周囲の客たちが「それいい!」と盛り上がる。
別の客
「確かに、悪役のはずなのに平和にしていくの、なんかクセになるわよね」
「でも、あの人の改革で魔力事故ほとんどなくなったって聞いたぞ?」
「うちの子、アリア式呼吸で魔力量のばらつきが減ったのよ。
あれはもう……国の恩人じゃない?」
ざわ……と、喫茶店の空気が明るい期待で満ちていく。
市民A
「そのうち正式な称号になったりしてな、“平和の悪役令嬢”。」
市民B
「アリア様ならありえるわよ。
なんてったって、悪役を名乗って世界を平和にしてるんだから」
その噂はコーヒーの香りに乗って、じわりじわりと街へ流れ出していく。
――後にアリア本人の耳にも届き、
彼女が顔を真っ赤にして否定しようとするも、時すでに遅し。
“平和の悪役令嬢”という呼び名は、この日、静かに生まれたのであった。




