第14話 魔力安定率、史上最高を更新 ―“平和の悪役令嬢”誕生回― 1.王城の朝、驚異のデータが公表される
夜明け前の薄明かりが差し込む魔術研究局の会議室では、すでに慌ただしい気配が満ちていた。
水晶板の前に集まった研究員たちが、信じられないという顔でざわめいている。
「見間違いじゃないのか?」
「いや……何度確認しても同じ結果です……!」
巨大な水晶板には、魔力の推移を示す鮮やかな青い軌跡が、まるで一本の糸のように滑らかに伸びていた。
波打つことなく、乱れもなく――これまで見たことがないほどの安定さで。
そこへ、セドリック局長が重い足音を響かせながら入室する。
「朝からやけに騒がしいな。何があった」
研究員たちが道を開け、局長を水晶板へと誘導した。
セドリック局長
「……魔力事故件数、ついに“ゼロ”だと?」
普段は無表情に近い局長も、今日は目を見開いていた。
研究員A
「はい。ここ一週間、重大事故はおろか、軽微な魔力暴発すらほとんど発生していません」
研究員B
「安定率指数は観測史上最高値です。むしろ……異常値と言っていいレベルです」
その宣言に、会議室がさらにざわめく。
「どういう仕組みなんだ……?」
「魔力線の構造が一時的に書き換わったのか……?」
しかし、研究員Cが手を挙げて、はっきりと、しかし困惑した表情で言った。
研究員C
「……おそらく、原因は“アリア嬢の魔力姿勢改善策”かと」
研究員たちが「やっぱりか……」と小声で頷く。
研究員D
「例のストレッチと呼吸法、今では王城の八割以上が毎朝やってますよ。私も試しにやってみたんですが……肩こりが消えまして」
研究員E
「魔力操作前の呼吸法なんて、古代魔術書にも載っていないのに……。あれは本当に効果がある」
“肩こりが治った”などの健康談まで飛び交い始める始末だ。
セドリック局長はこめかみを押さえ、深いため息をついた。
セドリック局長
「……あの令嬢は、一体何者なのだ」
驚愕ではなく、半ば呆れ、半ば敬意のこもった言葉だった。
魔術研究の専門家である彼らが、自分たちの常識を軽々と超える成果を、
“ただの令嬢”が成し遂げてしまったという現実。
――アリアの影響力は、もはや単なるお嬢様の趣味ではない。
王国の魔力学に影響を及ぼす、“専門家レベル”として認識され始めていた。




