第13話 悪役令嬢の未来と恋の気配(ゆる) アリアの“健康改革”が王城に浸透し始める
王城の朝は、以前よりもずっと騒がしく、そして――妙に伸びやかだった。
「ふんっ……! ふ……!」
「背筋を伸ばして歩くだけで、魔力の流れが変わるらしいぞ!」
「アリア様直伝の“肩回し運動”だ!」
廊下を歩けば、あちこちで職員たちが腕を回し、背伸びし、壁に手をついてストレッチをしている。
ひどい者は、腰をぐるぐると回しながら書類を運んでいた。
アリアはその光景の中に一歩足を踏み入れた瞬間、思わず固まった。
「お嬢様! 見てください、昨日教えていただいた姿勢改善、もう毎朝やっているんです!」
「こちらもです! 腰の調子がよくて……!」
「アリア様、次は“足のむくみ対策”もご教授いただけると……!」
次々と寄せられる報告に、アリアの顔はひきつった笑顔のまま固まっていく。
(いや、そんな……
私、ただ『座りっぱなしは体に悪いですよ』って言っただけで……
なんでこんな大規模な健康運動みたいになってるの!?)
そして極めつけは、廊下の隅で集団ストレッチをしている一団だ。
見たところ、王城の魔術部門の面々らしく、みんな真剣そのもの。
「魔力の循環がよくなります!」
「ほら、首をゆっくり……」
「アリア嬢は賢者の再来だ……!」
(ちがうちがうちがう!!)
アリアは胸の中で叫んだ。
王城全体が、いつの間にか“アリア式健康メソッド”を中心としたフィットネス施設のような空気になっている。
通り過ぎざま、どこからともなく軽快な掛け声まで聞こえる始末。
――これは、どう考えてもやりすぎだ。
アリア(心の声)
(なんで私がいないところで勝手に健康教室みたいな空気になってるの……?
私、この国の健康の先生じゃないのよ!?)
しかし、職員たちの表情は驚くほど生き生きとしていた。
それがまたアリアを困惑させるのだった。




