徐々に広まる水筒文化
■魔術師の魔力暴走が減る
徹夜で目の下にクマをつくり、ふらふら歩いていた魔術師たち。
その一人が、水筒を手にふらりと魔法実験室に入ってきた。
魔術師
「……では、試しに……火球魔法を……」
彼はアリアに言われた通り、魔法詠唱の前にごくりと水を飲む。
その瞬間、アリアはすでに勝利を確信していた。
——ぼうっ。
火球が生まれる。
その光は、いつものように“ゆらゆら揺れたり”消えかけたりせず、
驚くほど安定していた。
魔術師
「お、お嬢様……!?
本当に……魔力が……安定しました……!」
アリア
「だから言ったじゃない!!
あなたたち全員、ただの脱水だったのよ!!」
魔術師は感動のあまり水筒を抱きしめた。
背後では、他の魔術師たちもこっそり水を飲んで魔法を試し、
「あっ」「光が……落ち着いた……!」とざわつき始めている。
徹夜文化の方はまだ根深いが——
“脱水で魔法が暴走する”という事実は、完全に浸透しはじめていた。
■騎士たちの訓練事故が激減
騎士団の訓練場。
いつもなら誰かがふらついて転ぶか、剣を落とすか、
魔物の形をした木製ダミーに派手に弾かれるかしていたが——
今日は、妙に静かだった。
騎士A
「……水って……すごかったのか……」
稽古後、汗を拭きながら水を飲む彼の手は、いつもより安定している。
騎士B
「なんかポーションより身体が軽い。
あれ飲むと、“回復した気がするだけ”だったんだな……」
アリアは腕を組み、したり顔で頷く。
アリア
「だから腎臓が悲鳴をあげてたのよ!!
あれは非常時の薬なの! 毎日飲むなって言ってるでしょ!!」
騎士たちはそろって反省し、水筒の中身を揺らしては
「今日も飲むぞ……!」と変な勢いで宣言していた。
結果、訓練中の怪我はこれまでの 10分の1 に激減。
治療担当の神官まで驚くほどだった。
神官
「……今日は治療がほとんどありませんでした。
一体何が……?」
ルチア(小声)
「……お嬢様の“奇習”効果、ですね……」
その声には、ほんの少し誇らしげな響きがあった。
アリア(内心)
(ふふ……これで“水を飲む文化”は完全に根づいたわね)
王城の片隅で、銀色の水筒がきらりと光る。
その小さな改革は、確実に城の未来を変え始めていた——。




