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第5話 食卓
夕食の時間だ。
家族がテーブルに集まる。母が作った料理が並ぶ。
いつも通りだ。普通の、夕食。
箸を手に取る。
ふと気づく。今日は赤が強い。昨日よりも赤いものが多い。
ああ、そうか。トマトが入っているのか。美味しそうだ。いや、味はまだ分からない。色が先に目に入った。
父が話す。
「今日は学校どうだった?」
ああ、そうだ。学校か。普通に過ごした。友達と話した。
「うん、普通だった」と答える。
父は笑う。母も笑う。みんな、普通だ。
でも、赤が気になる。
「この赤、昨日より濃いな」と心の中で思う。
箸で少しつつく。口に入れる前に匂いを嗅ぐ。
……変な匂いはない。
美味しいかどうかは、まだ分からない。
少し食べる。口に運ぶ。
味は普通だ。いや、普通以上かもしれない。
でも、赤が強い。やはり赤が目立つ。
これは今日だけのことか。昨日はどうだったか、少し思い出そうとする。
思い出せない。まあ、いい。今日の赤が強いのだから。
食事を終えると、母が片付けを始める。父はテレビをつける。
自分は席に座ったまま、今日の赤のことを考える。
今日も普通に食事をした。
でも赤は、やはり強かった。