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04地下の大空洞




 『地獄の裂け目』の落ちた俺は一旦、状況を確認する。


 腰にあるポーチは無事。

 ポーチの中の水筒と携帯食料も二つとも、何と無事だった。


 この二つさえあれば、数日は持つ。


 さっき俺は父親から追放と言って、この「魔境の森」の最奥にある『地獄の裂け目』に突き落とされた。


 この『地獄の裂け目』は誰も這い上がってこれない生還不可能の地底の入口で、下がどうなっているのかは、誰も知らない…父親は言った。


 なら普通に考えて、不遇職の俺がここから抜け出すのは絶対に無理である。


 頭が冷静になって、自身の置かれている状況に、再び絶望する。

 けれど、すぐに頭を振る。


 今、まさに弱気になってどうする。


 俺は後方を見る。


 そこには、青く光る水の溜まり場があった。

 そうか、落ちる時に見た青い光の場所は、俺が落ちた先で突っ込んだ際の水場の色だったのか。


 落ちた瞬間は気づかなかったが、さっき俺が泳いでいた水場は優しい光量で青く光っている。


 この謎に青く光る水の溜まり場のお陰で、俺は落ちても死ぬことは無かった。


 それにしても……………何で、水が青く光っているのだろうか?

 俺は青く光る水に、恐る恐る近づく。


 そして、手で水を掬い、匂いを嗅いでみると、無臭だった。


 次に、興味本位で青い水を飲んでみる。


 ゴク………。


 「っ?!」


 俺は驚きで、目を大きく見開く。


 青く光る水は驚くほど美味かった。

 まるで清涼と言う言葉を凝縮したような心地よい感じが体中に染み渡る。


 しかも、自然と体にも力が漲り、空腹感が抑えられる。


 一杯目を飲んだ俺は、さらに二杯目、三杯目と飲み続ける。

 手で止まらない。


 しかし、八杯目ほどを飲んだ後で、何とか手を止める。

 飲んでみたら美味かったが、もしかしたら、この水には何か副作用的な物があるかもしれない


 これ以上の身のは危険だ。


 一先ず、青い水を放っておいて、俺は今しがた落ちてきた大穴の入り口を、下から上へ見上げる。


 大穴の入り口は、少しだけ光が見える。

 だけど、当然ながら大穴の入り口は、垂直に真上なので、落ちた場所を昇って戻ることが出来なさそうだ。


 ならばと、今度は周囲を見渡す。


 『地獄の裂け目』を落ちた先は、青く光る水場で、その水場の周辺は、暗い洞窟の中だ。

 大穴の下にある洞窟であるので、太陽光が差していなく、とても暗い。


 だが、水の青い光によって、辛うじて周囲を確認できる。


 「……………横穴がある」


 俺はそう呟く通り、岩の壁だけしかない洞窟には、一点だけ横穴があった。


 周囲をもっと見渡したが、横穴はそこだけ。


 少し希望が湧いてきた。

 もし、この横穴が別の入り口に繋がっているのなら、ここから出られる。


 俺は意を決して、その横穴に行き、穴の先を進むことにした。

 

 横穴は、人が一人入れる程度の狭い横幅しかなかったが、何とか進める。

 だけど、進んでいる内に、疑問に思う。


 この横穴、明らかに人為的に空けられたように思える。


 もしや、俺の他に『地獄の裂け目』に落ちた、もしくは落とされた者が空けたのだろうか。

 いずれにせよ、この横穴を進む以外に道は無い。




 俺が横穴を少し進んでいると、視界の先に、薄っすらと光を発している横穴の出口らしきものが見える。


 もしかして、外にでも繋がっているのか?!


 俺は期待を孕んで、進む足を速める。

 そして、開けた場所に出る。


 けれど、


 「広い………」


 俺は一言呟く。


 横穴は外には繋がっていなかった。


 目の前には、巨大な空洞が広がっていた。

 一本道の横穴を抜けた先にあったのは、街一つ分が難なく入りそうな程の大きな空間だった。


 天井までは数十メートルもあり、端と端が数キロメートルもありそうな大空洞である。


 まさに「地下の大空洞」である。


 まさか、「魔境の森」の地下に、こんな巨大な空間があったなんて。

 俺は驚きつつも、横穴を出て、巨大な空間に足を踏み入れる。




 暫く進んだところで、俺は別の事に気づく。


 「………ん?明かりがある」


 そう、明かりがあるのだ。


 ここは地下であり、日の光も無い空間なのに、見渡せるのだ。

 その原因は、上にあった。


 俺は頭上を見上げる。


 俺の目に弱いながらも光が入る。

 先程の水場の青い光ではなく、今度は緑色の光。


 それも、上に緑の光がある。


 洞窟の天井に、緑色の光が張り付いているのだ。

 あれによって、巨大な空間を見渡せるのだ。


 「あれは…………ヒカリゴケ?」


 本で読んだことがあった。

 地面の奥深くにある場所には、辺りを緑色の光で照らす苔であるヒカリゴケが生えていると。


 ならば、あれがヒカリゴケという物なのだろう。


 ヒカリゴケの光により、大空洞全体が薄く照らされ、視界が思ったほど悪くない。


 助かる。

 これで、この空間内を何とか探索できる。


 何か、外に出られる場所があればいいが。


 そう思い、俺は巨大な空間に入って、数分間歩いていると。


 …………カラン。

 足元に軽い音が響く。

 同時に、足に割れ物を踏んだような感触が伝わる。


 「ん?」


 俺は足下をよく見る。


 何か白っぽくて、少し黒ずんだ物が地面に落ちてあった。

 それも複数。


 俺は落ちている一部を拾って、よく見てみる。

 これは………、


 「っ?!」


 俺は息を飲む。


 地面に落ちている物の正体が分かったからだ。


 骨だ。

 それも人の。

 人骨が地面に多く転がっていたのだ。


 俺は一気に全身に、冷や汗が湧き出す。

 口からは、絶えず荒い息が噴き出す。


 ここに人骨があると言うことは、俺と同じように、この『地獄の裂け目』に落とされた人が、かつて居たということだ。


 しかも、人骨の数からして、複数人がここで死んでいる。


 俺はゾッとした。

 ここに死んでいる人は、俺のように、ここから出たかったはずだ。


 だけど、死んでいる。

 ここから出られなかったという意味だ。


 さらには、この人骨…明らかに何かに襲われたかのような、損傷がある。


 ここには、人を襲う何かもいるのだ。


 これは不味い!

 俺は一旦、元来た横穴に退避しようと、周囲を見渡す。


 その時、


 「ギギャアアアア!!!」


 周囲の木々を薙ぎ倒しそうなほどの咆哮が、俺の鼓膜を震わす。


 俺は瞬時に、咆哮先を見る。

 そこには、赤く光る点が二つあった。


 いや………よく見ると、赤く光る点は、”目”だ。


 赤く光る目をした奴が、俺から少し離れた場所で、ジッと俺を見ていた。


 俺は目を凝らす。

 そこには、大きな家ほどもある四足歩行のリクガメのような魔物がいた。


 「地竜!!」


 俺は魔物の名前を叫ぶ。


 そう、俺が叫んだ名前の通り、目の前の魔物はドラゴン、つまり竜種だ。


 地竜、別名アースドラゴンとも言われている。

 翼は無く、空を飛べないが、見上げる程の体躯に、頑丈な鱗に覆われており、さながら生きる要塞だ。


 大地を踏みしめる四肢は、まるで丸太が動き出しているかのよう。

 前足の爪は俺を簡単に両断し、太い尻尾は俺を簡単に圧殺しそうだ。


 放たれる威圧感から、俺は顔を青白くさせ、体を大きく振るわせる。

 腰が引けて、身動きが取り辛い。


 地竜は、魔物が多く生息する森や山、平地でよく確認される個体であり、個体数が少ない竜種でも比較的多い種類のドラゴンだ。


 けれど、強さは折り紙付きで、一体でも現れたら、即座に街が総出で討伐に乗り出すほどの魔物。


 これで竜種の中では、弱い部類なのだから、ドラゴンが如何に強い魔物であるのかが分かる。


 「グルルル」


 地竜は品定めをするように、口から涎を垂らして、ゆっくりと俺に近づく。

 俺は恐怖で動けなかった。


 完全に、捕食者と非捕食者の関係だ。


 従魔がいない俺なんて、足の先で一捻りだろう。

 勝てるなんて、微塵も思わない。


 だけど、俺は滲み出る恐怖を押し殺して、片手を前に突き出す。

 無駄だと分かっていても、せめてもの抵抗だ。


 俺は全力で唱える。


 「〈テイム〉!!!」


 俺はテイマーが使える、魔物をテイムするための呪文〈テイム〉を行使する。


 『ドラゴンテイマー』である俺は理論上、地竜をテイム出来るからだ。

 果たして、結果は……。




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