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第2話 遭遇

「音が聞こえたから、誰かいるのかなって思ってきてみたんだ」


 フランチェスカの目の前で立ち止まった少女は、満面の笑みでそう言った。


 人懐っこい彼女の笑顔に胸をなでおろしたのも束の間、フランチェスカは彼女の肩越しに見える()()()()に目がいった。それは、普通の人間にはあるはずのないもの――半透明の羽だった。淡い桜色をしたそれは、カゲロウやトンボに生えているそれと同じように見えた。


(え? 何で、羽生えてるの? 人……だよね?)


 目の前の人物が、一見、自分と同じだと思えただけに、その動揺は計り知れない。


 彼女が何か話しているけれど、フランチェスカの耳にはちっとも入ってこなかった。


(ちょっと待って! 人間じゃなかったら、いったい何だっていうの? えっと、これは……そう! コスプレか何か!)


 動揺している頭で、無理やり自分を納得させてみる。何か理由があって、自作した羽を装着しているのだと。


「ねえ、大丈夫?」


 と、彼女がフランチェスカの顔をのぞき込んできた。アーモンド形の目には、心配そうな色が浮かんでいる。


「え!? あ……うん、大丈夫……」


 フランチェスカは、どうにかそれだけ答える。実際には、まだ混乱していたけれど。


「よかった。反応ないから、どうしたのかと思ったよ。あ、私、ナターシャっていうの。あなたは?」


「……フランチェスカ」


 ナターシャの勢いに気圧されて、フランチェスカは少しぶっきらぼうに言ってしまった。


 けれど、彼女は気にしていないようで、


「ねえねえ。フランチェスカは、どこからきたの? 見たことないけど、この辺に住んでるの? ていうか、ポニーテールめっちゃかわいい! それに、髪色もはちみつ色できれい! あんまり見たことない色だけど、染めてるの? そういえば、羽がないみたいだけどどうしたの? 罪人でも、なくなるのは片羽だけってうわさだし……もしかして大罪人たいざいにん!?」


 と、ワインレッド色の瞳をきらきらと輝かせながら矢継ぎ早に質問する。


「え……あ……えっと……」


 彼女に圧倒されて、フランチェスカはうまく言葉を紡ぐことができないでいた。


「あ……ごめん。そんなにいっぺんには答えられないよね。ごめんなさい」


 ナターシャはそう言って、しょんぼりとうつむいてしまった。どうやら、フランチェスカはものすごく困った表情をしていたらしい。


「こっちこそ、ごめんなさい。あなたの勢いに、ちょっとびっくりしちゃって……」


 そう謝ってみたものの、少し言い訳じみた言い方になってしまったかもしれない。けれど、圧倒されてしまったのは本当のことだし、答える気がないわけではない。それに、フランチェスカ自身、ほんのわずかでも情報はほしい。そういう思いもあって、一つずつきちんと答えるからと告げると、ナターシャは勢いよく顔をあげた。驚いたような表情をしている。


「本当に!? ……迷惑じゃ、ない?」


「もちろん、迷惑じゃないよ。私も教えてほしいことがあるし」


 と、微笑みながら言うと、ナターシャは満面の笑みを咲かせた。


(ころころと表情が変わる子だな……)


 彼女の笑顔を見て、フランチェスカは素直にそう思った。なんだか微笑ましくなってくる。


 彼女の笑顔で緊張が解けたフランチェスカは、こことは別の場所に住んでいること、気がついたらここにいたこと、家族も同じ髪色なので珍しいと思ったことがないこと、人間だから羽は生えていないことを話した。


「え!? 人間なの? 本当に?」


 驚いた様子で詰め寄るナターシャ。彼女の驚きように戸惑いながらも、フランチェスカは素直にうなずいた。


「ここに、人間はいないの?」


 ふと湧いた疑問を口にする。


「ここは、妖精の国だからね。住んでるのは、妖精だけだよ」


 たまに人間が迷い込んでくる時もあるみたいだけれどと、ナターシャはにこやかに教えてくれた。


 妖精の国と聞いて、フランチェスカは納得した。妖精なら、背中に羽があっても不思議ではない。


(妖精の国なんて、何だかおとぎ話みたい)


 そう思ったところで、先ほどのナターシャの言葉に少し引っかかりを覚えた。『たまに人間が迷い込んでくる時もある』と言っていたような気がする。


「……ねえ、ナターシャ。私みたいに、人間が迷い込んでくる時もあるの?」


「うん、昔からそう言い伝えられてるんだ。あたしが実際に会ったのは、フランチェスカが初めてだけどね」


 と、にこやかに話すナターシャ。


 どうやら昔、人間が迷い込んだことで悪いことが起きたらしい。そのため今は、『人間を見かけたらすぐに役所に届け出ること』という掟が決められているそうだ。


「じゃあ、ナターシャもすぐに役所に届けるの?」


 ごく普通にたずねたはずなのに、フランチェスカの声は少し震えていた。彼女の話を聞いて感じた不安が、声に出てしまったらしい。


 そんなフランチェスカの不安を感じ取ったのか、ナターシャは首を横に振る。


「そんなことしないよ。役所に届けたって、ちゃんともとの世界に帰れたかどうか教えてくれないんだもん。それに、あたし、フランチェスカと友達になりたいんだ」


 そう言いながら、ナターシャは照れくさそうにはにかむ。


 フランチェスカは、間髪入れずに二つ返事でうなずいた。初対面ですぐに友達になりたいと言ってもらえたことが、とてもうれしかったのだ。


「やったー!」


 ナターシャは子どものように喜ぶと、フランチェスカの手をつかんで歩き出した。


「ちょ……ちょっと、ナターシャ。どこ行くの?」


「あたしの親友のとこだよ。ラビーニャならきっと、フランチェスカがもとの世界に帰れる方法を探し出してくれるはずだから」


 と、フランチェスカの戸惑いをよそに、ナターシャは迷いなく進んでいった。

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