セルビアン
私の兄はとても優秀だった。
そして優しい人だった、そう思っていたのに裏ではとんでもない男だったんだ。
王子教育は5歳から始められる。
王宮の家庭教師から教わるのだが、その教師から常に兄と比べられていた。
彼は兄担当になりたかったけれど、兄の教師になった人に負けたそうだ。
だから仕方なく私で我慢してると毎回言われた。
その日も大陸の国の名前を一つ間違えてしまって凄く叱責された。
誰にも見られないように庭の隅で泣いてたらその子に会ったんだ。
慰めてくれて自分にも兄がいるけど優秀だと言っていた、でも頑張るって言ってる顔が天使の様に可愛くて僕は一目惚れしたんだ。
でもそのミシェルも兄に先に紹介されてた。
私は母上にお願いして強引にその遊びの輪に入ったんだ。
兄の友人のサミュエルも一緒だった。
ミシェルは何時もニコニコしてて本当に可愛くていつか婚約出来たらいいなと思ってた。
ミシェルは一つ年上だから姉を気取ってるけどそのうちプロポーズして結婚できたらとその頃は思っていた。
だがそんな夢も兄に奪われた。
でも結果的に後押しも私がしてしまったんだ。
だってミシェルが泣くから。
兄の婚約者候補はミシェルを入れて3人だった。
他の二人は公爵家だったからミシェルが選ばれる事は殆どないだろうと思って安心していたらミシェルから手紙が来た。
天にも登る気持ちだったのに読んだら地獄に突き落とされる気分だった。
ミシェルは兄の婚約者に選ばれなかったら家を追い出されると書いてた。
ミシェルは自分の出生の秘密を私だけに教えてくれたんだ。
そして、家を追い出されて本当の母親と同じように何処かに売られたら私にも会えなくなるのが辛いって書いてた。
手紙は自分の秘密が書いてるから焼いてくれって最後に書いてあって読んだあと暖炉に焼べた。
それから母上にミシェルを助けて欲しくて理由は言えないけど頼みに行ってみた。
もしミシェルが婚約者に選ばれなかったら僕の婚約者にして欲しいって。
そうしたら叱責された。
一度兄の候補者に選ばれたら私の婚約者候補からは元から除外になるらしい。
だったら王家の養女にしてって頼んだが此方の方がもっと叱責された。
途方に暮れた私は結局兄の婚約者になるようにミシェルを助けてあげなければならないと思って他の候補者のお茶会を邪魔したんだ。
サミュエルからは苦言を言われたけれど他の候補者から私が言い寄られたと言ったら協力してくれた。
兄には堅苦しいお茶会は変更した方がいいし私の今後の勉強にもなるからって言ったら此方は疑いもせずに一緒のお茶会に同意してくれた。
でもそれだけで上手く行くとは思わなかったけれど、その頃の私にはミシェルを救う手立てはそれしかなかった。
そしてそれは上手く行ってミシェルが兄の婚約者になった。
でもその頃に私は思ったんだ、私もミシェルと《《同じ》》なんじゃないかって。
母上は兄には優しいけれど僕にはとても厳しかった、家庭教師を代えてくれと頼んでも駄目だったし、ミシェルの事もあんなにお願いしたのに駄目だった。
私の母上も別にいるんじゃないのかって。
それをミシェルに相談してみた、そしたらそうかもって言われた。
でも他の人に言うと私達が離れ離れになるからそれも二人の秘密になった。
それからは只管手紙だけのやり取りだ。
兄の婚約者と二人っきりにはなれないし、その手紙だってバレたら只では済まない。
私達は秘密の逢瀬を手紙で行っていた。
本当の逢瀬は兄がいなくなってからするつもりだ。
それまでは我慢しなければいけない関係だった。
兄はあんなに優しそうなのにミシェルにはとても酷い仕打ちをするんだと手紙で訴えてきた。
可哀想なミシェルはそれでも兄の横で笑って本音は私にしか言えないと何回も何回も手紙に書いてあって、不甲斐ない自分が辛かった。
好きな人を助けてあげられないのだから、こんなに情けないことはない。
でもある日チャンスが訪れた。
学園で兄と同窓だったその者は、生徒会の役員の時に兄のせいで学園を辞めさせられて平民になったそうだ。
兄の冷徹な行いに憤慨して苦言を呈したらそうなったと言っていた。
仲間が何人かいるから兄に一糸報いたいと。
私は散々迷ったがミシェルを助けるにはそれしかない。
あんなに酷いことをされてるのに家を追い出されないために必死に耐えてるミシェル。
一度兄に手を棒で叩かれていて真っ赤に晴れていた。
私はミシェルと逃げる算段をしていたけれど、この者たちが味方になるなら兄を葬れるかもしれない。
こんなに酷いやつが国王になどなってはいけない。
チャンスは一度
彼らが上手く立ち回れるように準備をしっかり整えてやった。
私は居ないほうが良いと言われたので見守ることにしたけれど彼等が心配だった。
返り討ちになど合わなければよいが⋯。
手薄な警護は城の直前だけだから、兄とミシェルの旅行帰りに決行。
ミシェルを絶対に傷つけるなと言っておいたが大丈夫だろうか?
果たして結果は皆頑張ってくれたが兄は一命を取り留めたらしい。
ミシェルはこれで離縁できるだろうか?
そう思っていたら捕まった者から私の名が出たらしい。
その時は潔く捕縛されようと思っていたので大人しく捕まった。
私は毒杯を賜る。
最後にミシェルに会いたかったが、今私が頼むとミシェルが窮地に陥る。
だから母上に会いたいと言った。
母上にミシェルを救わないといけないと切に願った。
ミシェルの秘密は二人の秘密だから言えないが、私の最後の願いだから、きっと調べて下さる。
私が本当の子ではないとしても、母上なら調べてくれると何の根拠もないがそう思えた。
兄上、貴方が昔のように優しいままの兄であれば私も安心してミシェルを任せられたけれど、貴方は変わってしまった。
私が居なくなってもいつか貴方を倒す者は現れるだろう。
目の前に毒杯が届く。
ミシェル一度も言えなかったけれど最後に言葉にしてもいいかな?
「愛してる、どうか幸せになってほしい」
一気に飲み干して私はこの世から消えた。
明日はミシェルです