マーティン2/4
陛下が訊ねてきたのは娘の6歳の祝いをした次の日だった。
「マーティン、お前は気付なかったのか?サミュエルとソフィーが全然会ってないことに」
そう陛下は切り出した。
なんとサミュエルとソフィーは、ここ一年は会ってなかったそうだ。
そして痺れを切らしたコールデン伯爵が期限を突き付け、それがマリアの誕生日の日だった。
毎年のマリアの誕生日は王宮の中で内々にしている、大々的にできないのは何れ私が臣籍降下するからだ。
だから何時もこの私の部屋で行っていた。
サミュエルはマリアの誕生日だからといって執務がなくなるわけではない、だから何時もと変わらずに熟していたのだが、私がマリアの誕生日だからと休むのが叶わないなら少し休憩を長めに取るようにと言っていた。
勿論マリアの誕生日に顔を出して欲しかったからなのだが、サミュエルはソフィーに会いに行くと言った。
それを私とミシェルは何も考えず、ソフィーには《《何時でも会える》》のだから、休憩の延長もマリアの為だと言って誕生会に参加させていた。
陛下が言う
「マーティンお前は、マリアとソフィーの誕生日が同じ日だとは知らなかったのだな」
私は衝撃を受けた。本当に私は知らなかったのだ、確かに以前学生の時は一緒にソフィーの誕生日を祝った事もある。
だがこの体になってしまってマリアの生まれた日が彼女の誕生日などと思ったりもしなかった。
ではミシェルは?
彼女はソフィーの親友だ、間違いなく知っていた筈なのに、何故サミュエルがソフィーの所に行くと言って私が止めた時に進言しなかったのだ?
「気づいたか?ミシェルはサミュエルの両親にも自分の親を使って何か言っていたようだ」
「何をですか?」
「未婚の男女が家の中で二人は如何なものかと」
「でもあの二人は婚約者同士です、万が一間違いが合ったとしても何ら問題はない筈です」
「そうだ、普通はそう考える。なのに何故かそれが通ったらしい、外で会うようにとソフィーに言ったらしいサミュエルの両親が」
「それで⋯⋯」
「サミュエルの激務はお前が一番わかるのだろう?そんなに昼間に出られるわけがない、休みなどもなかったそうだし。それでも偶に時間を見つけて会いに行こうとして、部屋に戻っていたのにいつの間にかマリアと遊んでいたそうだ。お前の側近の一人が言っていたぞ、出かける用意をしに部屋に戻るたびに何処から嗅ぎつけたのかミシェルやミシェルの乳母がマリアを連れてサミュエルの部屋に遊ぶようにと呼びに行っていたらしい」
「そんな、それではミシェルが意図的に?」
「そう思われても仕方がないのだ!コールデン伯爵は相当調べて私の元へ来た」
「サミュエルの家ではなく陛下へ直接ですか?」
「お前は何故だかわかるだろう」
「独立ですか?」
「もっと悪い、シャーワットに行くそうだ」
「そんな!今すぐ止めなければ、まさか婚約解消を陛下は認めてませんよね?」
「認めなかったらシャーワットと戦争になる、それとお前にはまだ言ってなかったが盟約の追加の事もあるんだ」
「追加?」
「あぁ」
『いついかなる時でも、ハースティ王国がコールデン家を蔑ろにした場合、即刻独立できる事。これは未来永劫有効である』
追加の盟約を見て愕然とした。
まさにハースティ王家がソフィーを蔑ろにしてしまっているではないか。
例え知らぬこととはいえ、ミシェルのした事は普通の婚約者同士を意図的に別れさせたのだ。
「あの二人には何も言うな」
「何故ですか?問い詰めて罪を認めさせないと国の問題ですよね」
「国の問題だからだ、シャーワット王国とソフィーの婚約が成立して彼女の気持ちが落ち着くまで会わせるのは駄目だ」
「ですがサミュエルは幼い頃からソフィーの事を思っていたのです、初恋が叶ったと言っていたのに」
「それを引き裂いたのはお前だ、あぁミシェルもだな」
「⋯⋯」
「お前の外向きの公務は私が引き受けた、だから私達もお前達がそんなにサミュエルに負担させているなど思いもよらなかったし、しっかりと調べるべきだった、それは後悔しているが、だが何故ミシェルの仕事までサミュエルにさせていたんだ?ミシェルにさせればいいではないか」
「ミシェルは病弱なので執務も辛いと言っていて女官は手配しましたが、その補佐をサミュエルがしていたと思っていました」
「サミュエルに丸投げで女官達もミシェルとマリアと遊んでいたそうだぞ、それにミシェルの病弱とは何のことだ?私は侍医からそんな話しは聞いた事もない」
陛下との会話で私は取り返しのつかない間違いを犯した事に気がついた。
「ミシェルが仮病を?」
「ミシェルは王子妃教育もまだ途中であった」
「えっ?終わったのではないのですか?」
「王家の秘匿を残していたそうだぞ、王妃が数年様子を見てから教育する予定だった。それほど王妃からは信用されてなかったという事だな」
「ならば何故その時に言ってくださらなかったのか」
「その時に話してお前は信用したのか?」
「えっ?」
「王妃の言葉を信用したのか?おそらくしなかったであろう。セルビアンは愚かではあったが素直すぎる性格だった、私が何を言いたいのかわかるか?」
「あの時に仰ったことですよね、本当にセルビアンに勘違いさせる様にミシェルが接していたと?」
「今思えばな。解らぬ⋯ミシェルは何がしたいのだ?王家を滅茶苦茶にして」
それについては一つだけ私の懸念したものがある、だがそんなことで?
そう思ったが陛下に進言した。
「ミシェルは子供の頃から自分が一番でした」
「フムどういう事だ?」
「カーサル公爵のミランダを覚えてらっしゃいますか?」
「覚えてるともお前の婚約者候補だった」
「彼女が学園に入った時言った言葉です。何があったかは解りません、ただミランダが婚約者候補を辞退した裏にミシェルがいるのかもしれません。常にミシェルが私達の側にいるので進言が遅くなったと申し訳ないと言われましたが⋯⋯」
「どうしたんだ」
「戯れ言と一蹴しました」
「ミランダを呼ぼう」
陛下がそう言って私に口止めをして部屋を出て行った。
私は事の大きさに震えていた。
大陸の分布図が変わる程の大事だ、それを私の妻がしたんだと思うと震えが止まらない。
いや私も加担したんだったな。
後悔とは何度すれば納まることがあるのだろうか?