今更
もう王都に用がなくなってしまったタウンハウスは売りに出し、そのまま領地に帰った。
婚約解消の手続きは父に任せて部屋でのんびりして過ごす。
そんな日を半年ほど送っていたある日サミュエルとミシェルが訪ねてきた。
婚約解消を一週間前に知り慌てて来たそうだ。
「待っていてくれるのではなかったのか?」
サミュエルは応接室に私が入った途端立ち上がりそう言った。
謝罪も何もない、所詮はそんな扱いだったのだ。
「お二人ともお久しぶりです。ミシェルは3年ぶりかしら?サミュエル様とは1年半ぶりですね」
私の言葉にミシェルがギョッとしてサミュエルを見る。気不味そうに彼が下を向く。
まさか婚約者同士が近くにいるのに1年半も会えてないなんて思わなかったのでしょうね。
その様子を見ていたらミシェルが口を開いた。
「ソフィー考え直して」
「何を?」
「貴方達はとても仲良かったじゃない、婚約解消なんてバカげてるわ」
「ミシェル貴方いくつになったかしら?」
「えっ?24歳よ」
「そう私もなの」
「それがどうしたの?」
彼女はこの国の女性の結婚適齢期を忘れてしまったようだ。
「私サミュエル様にお手紙を送ったわ、待つのは24歳の誕生日迄だって、でも彼は来なかった、貴方の娘の誕生日だからよ。覚えていたかしら?貴方が言ったもの覚えているわよね、私と一緒の誕生日だからお祝いが一緒にできるって言ってたものね」
「そんな!その話は知らないわ。誕生日が待つまでの期限だなんて、そんな事知らなかったのよ」
「貴方が知る必要があるかしら?」
「そんな言い方ないだろう」
私の言い方が気に入らなかったのかサミュエルが咎める。
もうこんな不毛な会話は止めたい。
私が何故責められなければならないの?
「もう二人ともお帰りください」
「ソフィー待ってくれ、話を聞いてくれないか!」
「話をする時間は6年あったのに今更何を話すと言うの?」
「その手紙を私は受け取っていないんだ」
「だから何?婚約者の誕生日を6年も忘れてしまった人に手紙を書いたのは私の温情だったのよ、受け取る受け取らない、読む読まないは、私の預かり知らぬこと。貴方が少しでも私を気にかけていればこんな事は起きなかった。そして謝罪すらしない貴方を待ってしまった私が愚かだったのよ」
「ヒッ!6年」
「ミシェル何を今更驚いているの?貴方の娘の年と同じだけ私は忘れられていたの。幼い子供に負けてしまったのよ私は。いえ貴方に負けたのかしら?だって貴方を支える為に私は待てと言われたのだものね」
「それは違う!私はマーティンの為に!」
「それは結婚してからでも支えることは出来たでしょう?それをしなかったのは貴方がミシェルを《《独り身のまま》》支えたかったからよね。でも今となってはそれで良かったわ、離婚なんてもっと大変だもの」
それから二人を追い出した。
何か言っていたけれどもうどうでもいい。
そうして私の無駄な8年間は終わった。