『待つ』
私はこの国の伯爵家の娘。
コールデン伯爵領は広い領地を持っている。
領地は自給自足が叶うほどの大地が広がる。
工芸品も職人の街があるほど陶器、ガラス、鉄器など、一つの国と言っても過言ないくらいの潤った領地経営を遥か昔から継承している。
何度か叙爵の話しもあったけれど代々の領主はお断りしている。
元々は此処は小さな国だった。
あまりに小さすぎて軍隊が育たなかった。
軍事力に欠けていた為、周辺諸国に狙われた。
そして私達の先祖は、南側に国境があるハースティ王国に吸収してもらう道を選んだ。
ただ協定の中に一言入れてもらった言葉のお陰で、独自の法で国に縛られない領地にしてもらっている、特殊な所なのだ。
それでも代々の領主の子はハースティ王国の事も学ぶ為に王都の学園に15歳になったら入る事になっている。
そこで私は婚約者に出会った。
彼は2つ年上で私が入学した年には最終学年だった。
生徒会に所属しておりその時の会長であったマーティン第一王子の側近として副会長をされていた。
マーティン王子は子供の頃よく領地に見学と称して遊びに来られていたので面識が有り、入学時に声をかけてもらった。
その時に彼とはチラッと顔を見ただけで紹介はされなかった。
それから数日後に殿下に呼ばれ、婚約者のミシェル様を紹介された。
ミシェル様は桃色にカールがかかりフワフワと言う表現がピッタリの髪をされていて、大きく吸い込まれそうな瞳も可愛らしいツヤツヤの唇もとても魅力的な女性だった。
私達は同い年でとても仲良くなった。
楽しく過ごすうちに二人の共通の友人と言われてサミュエル・ドリティシヤ侯爵子息を紹介された。
4人でよく休みの日には湖にピクニックに行ったり試験前には勉強を教えてもらったり、一緒に劇を見に行ったり楽しい日々を過ごす内に、婚約を申し込まれ了承した。
その頃を思い出すと楽しかった記憶が溢れて涙が止まらない。
私が学園を卒業したら婚姻を結ぶ事になっていた。それはミシェル達も同じだった。
「一緒に結婚式ができたらいいね」なんて無理な夢を語るミシェルに王室と一緒に結婚式とか寿命が縮むわと軽口など叩いて笑って過ごした。
あの日々が懐かしい。
それが変わったのはマーティン王子とミシェルの新婚旅行に行った帰りの出来事。
マーティン王子は、もうすぐ城に着く直前に第二王子派達の襲撃に合い昏睡状態に陥ってしまった。
目の前が王宮だったのですぐさま侍医に手当を受け命は助かったものの半身不随になってしまった。
ミシェルは始めのうちは呆然としていたけどマーティン王子を励まして献身的に支えていた。
そのうちに懐妊が判りハネムーンベイビーを授かっていたのだ。
周りのみんなが歓喜した。
ただそういう事が色々重なって側近のサミュエルは日々多忙だった。
会う度に目の下の隈は色濃くなっていき、私の心配も他所に激務を熟していたのだ。
おそらくはマーティン王子の分の仕事も代わりに助けていたのだろうと思う。
決済を押すだけなら手は動くので寝たきりでもできるからだ。
一年目はそれで結婚式をキャンセルした。
そのうちにミシェルが王女を産んだのだが、産後の肥立ちが悪く寝込んでしまった。
私も何度か御見舞したが、顔色も悪く食事も満足に出来ていなかったミシェルは痩せ細り見ていられないほどだった。
自分たちのせいで結婚が伸びて申し訳ないと必死に謝るミシェルに大丈夫だと何度も言って落ち着かせていた。
そのうちミシェルは病弱ではあるけれど起き上がれるようになって育児にも参加できるようになった。
その頃にサミュエルが私に言った。
「まだ二人を支えなければならないから結婚はもう少し待っていて欲しい」
そして私はその時『待つ』を選択したのだ。
学園を卒業しているので王都にいる理由はなかった、だけど少しでもサミュエルの力になりたくて、王宮近くにタウンハウスを買って移り住んだ。
始めの頃は忙しくても週一で寄ってくれてた。
婚約者同士でも私達はまだ未婚の男女なので、泊まることはなかったけれど、顔を見れば安心するし必要な資料を頼まれる事もあったので、私は彼の力になれてると思い、それだけでも近くにいて良かったと思っていた。
だけど結婚式前に家で会うのは止めてほしいと彼のご両親に言われてしまった。
それからは外で会うようにと言われたけれど、王太子の仕事の肩代りもしているサミュエルにデートの時間などなかった。
約束は尽くキャンセルされ、週一会えていたのに、月一になり、半年に一回、年一。
そして今年は一度も会っていない。
私は知らなかったのだが動けないマーティン様の代わりに王女の遊び相手も偶にしているそうだ。
私がミシェルに会いに行った時にそう彼女が言っていた。
「忙しいのに申し訳ないわ、懐いてしまったから離すのが大変なの」
そう彼女は言っていた。
私には何一つ言葉はなかった。
私は何なのだろう、その時にそう思ってミシェルに会うのが辛くなり、それからは王宮へも行っていない。
私が此処に居ることは知っているのに登城しなくなった私へ手紙一つ来ない。
また思う
私は何なのだろう。
父に諦めろと言われたのは半年前。
父が登城した時に見かけたそうだ。
幼い王女をサミュエル様が高い高いと言いながら遊んでいて、その横にはミシェルがいる。
それをサンルームにベッド毎移動してニコニコ眺めているマーティン様。
その様子を聞いて私は涙が溢れた。
そして『待つ』のは私の誕生日迄だと言われた。