サミュエル2/3
その日はソフィーに会うつもりだったが、城を出る寸前でマーティンに呼ばれた。
「マリアの相手をしてあげてくれないか?」
そう言って頭を下げようとするマーティンを止めて理由を聞いた。
ミシェルや乳母に赤子には男の力が必要なのだと情操教育の一環だと言われたが、世には母親だけの家もあると言いかけて、それは平民の話だから今するのは不敬だと言うのをやめた。
でもそんな事を頼む相手はマーティンには私しかいないのだろうと言うのも納得できた。
体がままならないマーティンが気の毒すぎて了承した。
それから私の仕事は増えた。
マーティンの執務、ミシェルの執務、マリア王女の相手。
王宮に設えてもらった私の部屋には寝るか着替えだけでしか使用されていない。
偶には執務室の机でいつの間にか寝てる時もある。
起きると何時も考えるのはソフィーの事だ。
今日もまたソフィーに会えなかった、目を覚ますたびに思うことだった。
ある日やっと時間を作ってソフィーの家に行くと、ソフィーから私の両親から外で会う様に言われたと教えられた。
「なぜだ!ただでさえ時間が無くて何時会えるかも解らないのに、外でなんて!そんな事を言ってたら会えなくなる」
私はそう叫んで侯爵邸に行って文句を言ったら、何時もの母の世間体が、と言われた。
お茶会の席で未婚の男女が二人で家の中でとか進言されたらしい。
誰だ!余計なことを言ったのは!そう母に言ったら守らなければソフィーとの結婚は白紙に戻すと言われた。
折角ソフィーが待ってくれてるのに、それもこれも全て私の都合なのに私はソフィーに詫びる事しか出来なかった。
それでも何とか二人の時間を作れるようにもう一人の側近のダートに頼んで出掛ける時間を捻出した。
マーティンが繋の王太子になった時、私達側近は4人いたのだが、今は私一人なのだ。
何故なら将来性がマーティンにはない。
だから皆他に職を求めて辞めていった、ダートも本来は宰相補佐の所の文官に決まっているのだが、私を気の毒がって手伝いに来てくれるのだ。
だが此処でも何故かミシェルがマリアを連れて部屋までお仕掛けて来るようになった。
何度か止めてくれと頼んだがマリアが泣くからと、ダートが気づいてミシェルが留守の時を狙って外出するようにしていた時も今度は乳母がマリアを連れてくる。
そしてマリアの誕生日だ。
その日はソフィーの誕生日でもある、だが私は何時もプレゼントなど買いに行く暇はなかった。
それでも会いたくて仕事を次の日にでも残してでも行こうと思っていたらマーティンから仕事を他に回して早く終われと言われた。
てっきりソフィーの誕生日を思い出してくれたのだと嬉しかったのに帰ろうとしたらマーティンに呼ばれた。
なんとマリアの誕生日の祝の為に早く切り上げろと言われたのだと知った。
だが私もそこは引けなかったからソフィーに会いに行くと言ったらミシェルに袖を引っ張られ廊下に出された。
すると陛下達がマリアの祝に来ないと言ってマーティンが機嫌が悪いから言う事を聞くように言われた。
だがミシェルはソフィーの誕生日を知っているはずそれを指摘すると、ソフィーにはミシェルから使いを出すと言われた。
此処に呼んでくれると言うなら一緒にお祝いが出来るじゃないかと言われたので、二人になりたかったが渋々了承した。
だがソフィーは臍を曲げて来なかった。
その後はミシェルから只管謝って言い訳はしたら駄目だと言われた。
それ以降もマリアの誕生日にソフィーは招待を断り続けた。
それからも激務が続き、ソフィーに会えるのは週一が月一になり3ヶ月になり、半年になり、そんな風になってどれ位の時間が過ぎたのかも解らなくなった時に婚約が解消されたとマーティンから聞かされる。
頭が真っ白になった。
だってソフィーは『待つ』と言ってくれたんだ。
なのに何故?
私はマーティンにソフィーに会いに行かせてくれと頼んだ。
マーティンは了承して、そしてマリアの誕生日とソフィーの誕生日が一緒だとは気付かなかった、申し訳ないと謝罪を口にした。
そして期限の事を言われたが、そんな手紙など私は受け取っていない。
取り敢えずソフィーを説得しなければと急いで王宮を出た。
途中、馬の休憩で馬車を降りた時に後ろからミシェルが違う馬車で追いかけて来ていた。
「ミシェル何故付いてきてるんだ」
「私はソフィーの親友なのよ、彼女の悩みを解ってあげられなかったから私も謝罪がしたいの」
「別の日にしてくれないか?」
「嫌よ、王太子妃がそんなにしょっちゅう城を出られるわけ無いじゃない」
ソフィーと二人で話したかったのに何故みんな私とソフィーの邪魔をするんだ。
いくら言っても帰ってくれないミシェルに構っていたら夜になるので諦めてコールデン領へ向かった。
そして久しぶりに会ったソフィーは綺麗で涙が出そうになるのを堪えて謝罪をしようとしたけれど、口を出たのは恨みがましい言葉だった。
「待っていてくれるのではなかったのか?」
そんな事を言いたかったわけじゃ無い、なのにあの日囁かれたミシェルの言葉が頭を木霊するんだ。
『女は言い訳したり直ぐに謝罪する男は信用できないのよ、強気な態度を示しているとちゃんとついてきてくれるわ』
謝りたいのにその言葉が謝ろうとすると頭に浮かぶ。




