序の前 宴
なぁ、不思議だと思わないか?
この河の一掬いごとに集まる水は、全く別のものなんだ。
昔からいつもずっと見えている。同じように。河の名前も同じ。だけど、同じ水が二度と現れることはないんだ。
ほんとに、不思議だよな。
いつもそこにあって、いつも同じに見えるはずなのに……
本当は、全く違うんだ。
まぁ、人生ってやつかな?
自分はずっと自分でありながら、同じ時間を二度と過ごすことはできない。
もっとも、普段はあんまり気にしていないけどな。
――なんだか、そんな言い方だと、今ここにいるってことだって、溶けちゃいそうだね……。
でも、この河が今ここに流れていることだけは、確かなはずだ。
お前と私だって、間違いなくここに存在している。
――だけど、僕はこんなに大きくはなれないよ。
向こう岸が見えないほど広がったこの河も、水源ではささやかな流れにすぎない。聞いたことがあるか? 私は見た。だけど、でも、信じられないよな。あらゆる所から、途方もない数の水滴が集まっている。
一滴が小川になることだって……とんでもないことだって思わないか?
そのとんでもない数のせせらぎとなり、律儀に――ここに集まっている。
みんなで集まって、宴……つまり、集いを楽しむってわけだ。
なんだか洒落てるだろ?
そして、やがて海に交わっていく。
――どこからが海? どこまでが河?
始まりはどこ? いつから海……?
始まりと終り……難しいな。いつだって、何かが集おうとする。でも、始まるということは、終りが生まれるということだ。
だから、終りを恐れる必要はない。
何かが始まる――それ自体が、徴しなのだから。
――じゃあ、始まるってことを、怖がらなくてもいいね。
もちろんさ。
格好つければ、それは摂理って奴だ。
ここにいるからこそ、いつも何かが変わっていくけれど、素直に流されて、できるだけその瞬間を愉しめればいい。そう、僕は思うんだ。もっとも、始まることを止めることは、できないけどな。
――生きるって……楽しいのかな?
出会えるからね。
お前と私のように、誰かといつだって出会えるから。
だから、天地の狭間で毎日が流水の宴――
残念ながら、ご馳走がいつもあるわけじゃないけれど、
悪くはないだろ?
「うん。なんだか、粋だよな。」