人間狩り
前回までのあらすじ
GATE出身者である九条晴は英名学園に入学した。
鬼灯沙也加、流川楓子と出会い、筒がなく、入学式を終えたが、GATE出身者が英名学園に入学した噂が流れていた。
目立たないようにしようと決心した直後、校長から呼び出される。
どうやら校長が呼んでいるらしい。そういえば、入学式には校長がいなかったな。英明学園の校長は滅多に表に姿を表さない。
それは噂になるほどで、学園に在籍してる内に姿を見た事がないものが大半だという。
そんな校長が俺と鬼灯、氷見に用があるという。嫌な予感がする。
「九条さんと、鬼灯さんでしたね。私は氷見音羽といいます。これからよろしくお願いします」
「私は鬼灯沙也加、沙也って呼んで欲しいな。氷見さん、よろしく」
「俺は九条晴と言う。ハレと呼んで欲しい。素晴らしい代表者挨拶だった。よろしく頼む」
「ありがとうございます。私と同じ考えの方がいてくれて良かったです」
…同じ考えでは無いけどな。
「自己紹介は終わったな。この先が校長室だ。私も立ち会うが失礼のないように」
「「「はい」」」
自己紹介をしている間に校長室に着いたようだ。
一体どんな人物なのだろうか。
「失礼します。氷見、鬼灯、九条をお連れしました」
「「「失礼します」」」
扉を開けると、木目調の部屋に座り心地の良さそうな椅子にソファー、珈琲の匂いが香ってきた。
歴代の校長と思われる写真が飾っており、想像通りの校長室だった。
その部屋の奥には30代ぐらいであろう若い男性が座っていた。これは予想外だ。てっきり、歳のとった好々爺かと思っていたのだが、どうやってその年で校長にまで上り詰めたのか。少し興味が湧いた。
「まずは、入学おめでとう。君たちのように優秀な生徒が入学してくれて嬉しく思う...。優秀な君たちだからこそ、単刀直入に言おう。この学園に入学した人間を見つけ出して欲しい」
「なっ、校長、その話は内密にするはずでは無いのですか」
「水上君、これは上からの指示なんだ。その理由は定かでは無いが、入学した人間を見つけ出せるのならこの子達に任せても良いと判断した」
教師間でも齟齬があるのか。水上先生も質問をしている。
鬼灯は驚いているが、氷見は冷静に言葉の真意などが無いかを分析している。俺も内心では驚いているが、顔には出したくない。
いくつか疑問点があるが、まず人間が英名に入学してるなんて有り得るのか?
そもそも魔法が使えないはずだし、入学試験の時点でバレなかったのか?
「いくつか疑問が浮かぶのも当然だ。これから詳細を一通り説明する。質問があれば、都度聞いてくれて構わない。まず人間は魔法が使える魔法具を使用しているため、擬似的に魔法が使用できるようだ」
魔法具とは人間が魔法使いに対抗するために開発した道具である。その形や機能は様々であり、一説によると開発に魔法使いが協力していたらしい。
「また、人間が入学するのに協力した者が学園内に潜んでいる可能性がある。それは教職員含めての事だ。調査をする際は他者に人間が入学している事がバレないようにしてくれ」
あくまで、予測になるが教職員側に協力者が居る可能性が高そうだ。生徒が入学試験等に関与できる余地は少ない。いや...英名だからこそ、生徒会であれば、入学試験にも関与できるか。
「また、人間が入学したことは、入試TOP10位以内に入っている生徒全員に通達している。学校側はせっかくなので、特別試験としてこの事柄を扱うことにした。試験名は『人間狩り』ルールはXRDに送るので各自確認して欲しい」
「人間を見つけることが、特別試験ですか...」
「不満があることは承知の上だが、これは既に決定事項だ。私の権力でもどうにもすることが出来ない事柄だということを念頭に置いて欲しい」
おいおい、魔法学校の校長と言えば、魔法機関の上層だぞ。その人物がここまで言うとは。厄介なことに巻き込まれたな。
特別試験『人間狩り』
ルール1:この試験は入試順位10位以内の者のみ実施する。
ルール2:他人に口外はしないこと。口外した場合は退学処分とする
ルール3:年度末に人間だと思う人物をクラスで1人指名すること。
ルール4:各クラスは代表者を決め、クラス対抗の試験とする。
ルール5:如何なる場合でも指名まで人間を殺すことは禁ずる。
ルール6:指名に成功した場合、クラス代表者にAPを付与する。指名に失敗した場合、クラス代表者からAPを徴収する。付与、徴収するAPは時価や、評価によって変動する。
このルールから分かることや予測できることは無いだろうか。少し考えてみる。
まず、この学校には特別試験というものが存在し、それを受けられる者も選別される。そして、その試験には報酬と罰があり、付与、徴収されるAPは試験の難しさや、評価さらに時価により変動する。
また、人間狩りという試験名なのに、人間を殺すことは禁じていることから、人間をただ差別したい訳では無いことが伺える。
「さて、ルールを確認して何か質問や不明点はあるかね」
この場で聞いても答えが返ってこない事は予想できるので黙っておく。
「...なぜ魔法機関上層部は私達生徒を指名したのでしょうか?教員に任せた方がいいことは誰にでも分かります。何故私達生徒が、それも新入生が指名されたのでしょうか?」
「それはここが英名だからさ。新入生に成長を促すのが理由の一つだろう。二つ目は今年の新入生にGate出身者が入学したからだ。魔法機関上層部はGateとの繋がりは持っていない。Gate出身者を見つけ出し、その実力を把握すると共に、人間を見つけ出してもらう。正に一石二鳥だ」
3つ目は人間との確執をわかり魔法使いにも把握してもらうためだろう。上層部は人間嫌いで有名だからな。
「なるほど、仮に人間を見つけ出せなかった場合、私たちにペナルティはありますか?」
「...ペナルティはある。仮に君たちが学園にいる3年間で人間を見つけ出せなかった場合は、代表者1名にペナルティを受けてもらう。ペナルティの詳細を伝えることができないが、APの徴収か退学処分になることが多い」
「退学ですか!?」
今まで黙って考えていた鬼灯が驚きの声を上げる。それはそうだ。
「3年間の最後に退学になる可能性があるんですか。勿体ないですね」
「そこ!?いやいやハレ君、退学だよ!た・い・が・く!」
「ふふ、確かに勿体ないですね」
「笑い事じゃないよ!氷見ちゃん!」
「...君たちには期待しているよ」
校長は微笑んで短く期待している旨を伝えてきた。いや、期待されても困るんだが、生徒会に入るためにはまじめにこの試験を実施するべきだろう。俺はそう考えながら、ため息を飲み込んだ。
×××××
職員室前で先生と別れ教室に戻ると、クラス内は自己紹介がすでに終わっていたのか、談笑していた。
「3人とも初めまして。僕は新宮隼人。僕たちはすでに自己紹介を終えたから、君たちも自己紹介してもらえないかな」
黒髪眼鏡の男の人が話しかけてくれたため、周りは静かになりこちらに注目している。
「はい、もちろんです!では私から。私の名前は鬼灯沙也加です。趣味はお菓子作りで、特技は料理です。今度お菓子作ってくるので、お茶会とかしたいです!よろしくお願いします!」
鬼灯が自己紹介をすると、クラスからは拍手が明けってきた。ふむ、自己紹介はこうやればいいのか。
目線で氷見に先に自己紹介してほしい光線を放っていると、先に口を開いてくれた。
「私の名前は氷見音羽です。趣味と特技はピアノです。至らない点もあるかと思いますが、皆さん3年間よろしくお願いします」
氷見の自己紹介は簡潔だが、要点は伝えているのか。当たり前だが、拍手が返ってきた。心なしか男子の拍手の音が大きい。
拍手が鳴りやむとみんなの視線が一気にこっちに向いてきた。...もしかして最後のほうがハードル高いのか。
「...俺の名前は九条晴という。多趣味で色々なことに興味があるが、今はXR研究に興味がある。特技は特にない。...生徒会に入りたいと思っているので、同じく生徒会に興味がある人は声をかけてくれると嬉しい。よろしく」
まばらに拍手が返ってくる。終ろうとしたら、沙也に目でそれだけ?と言われた気がしたので、生徒会のことを付け足したが、どうやら及第点だったようだ。
「3人ともありがとう。これからよろしくね」
このまま解散の流れかと思いきや、楓子が飛んできた。
「沙也ちゃん、校長からの呼び出しは何だったのですか」
「あ、えーと」
「校長からの話は、入試成績順位10位以内の者に試験を行うというものだった。内容は試験に関係するため、悪いが話すことはできない」
「そうですか。お二人はやはり頭がいいのですね。さすが楓子の友達です」
楓子からふんすという擬音が聞こえてきた。なぜおまえが自慢げにしているんだ?
「氷見さん、こちら流川楓子ちゃん。不思議な子だけど仲良くしてあげて」
「どうも、楓子です。趣味はカフェ巡り、特技は絵描き、仲良くしてね」
「氷見音羽です。ぜひ仲良くしましょう。これからよろしくお願いします」
若干楓子の勢いに押されてる気がするのが面白い。
「これから楓子と沙耶ちゃんは学校周辺を散策し、カフェ巡りをしますが、お二人はどうしますか?」
「私は行くこと確定!?いや、行くけどさー」
「俺も今日はやることがないし行かせてくれ。氷見さんもせっかくだし行かないか」
氷見さんは少し考えるそぶりをして口を開く。
「そうですね、ぜひご一緒させてください」
そんな話をしていると、新宮が声をかけてきた。
「その話、僕も一緒に行ってもいいかな」
男一人は肩身が狭いからな丁度いい。
「俺は特に問題ない、皆も構わないか」
全員首肯してくれたので、新宮も一緒に行くことになった。
×××××
英名学園は全寮制であり、入学から3年間家に帰れない。その分学校周辺の施設が充実しており、ショッピングモールや有名なカフェなど、活気にあふれていた。
有名なカフェは少し混んでいたので、散策がてら見つけた個人経営のカフェ『cube』に入ることにした。
「皆さんは明日の部活紹介には行きますか?」
「僕は入る部活を決めていないから、誰か一緒に行ってくる人を探していたんだ。よかったらみんなで行かないかい?」
鬼灯が話をうまく回し、それを新宮が拾い、自然にみんなを誘っていた。
「楓子は入る部活を決めていますが、いいでしょう。行きましょう!」
「楓子ちゃんは風紀委員になるんだよね」
「何を言ってるのですか?楓子は絵を描きたいので、美術部に入りますが」
「さっき聞いた話と全然違うんだけど!?」
沙耶と楓子がコントをしてるが、こいつら仲良すぎだろ。本当に今日が初対面か?
「氷見さんは入る部活は決めているのか」
「今のところ入るつもりはないですね。入るとしたら、音楽関係か、魔法を勉強できるところに入ります」
「さすが入試1位、真面目だね」
「実はピアノに興味があるんだ。今度機会があったら教えてくれないかい」
「ええ、もちろん」
穏やかに時間を過ごし、カフェを出て何事もなく帰路に着いた。
女子組は日用品や、美容品を見て回るらしいので、新宮と共に帰っている。
「新宮悪い、忘れ物をしたから先に帰っててくれ」
「僕も一緒に行こうか」
「いや、大丈夫だ。寮もすぐそこだしな」
「そっか、気をつけてね」
「...ああ、じゃあな」
俺は早歩きで学校へ向かう事にした。
特別試験『人間狩り』
ルール1:この試験は入試順位10位以内の者のみ実施する。
ルール2:他人に口外はしないこと。口外した場合は退学処分とする
ルール3:年度末に人間だと思う人物をクラスで1人指名すること。
ルール4:各クラスは代表者を決め、クラス対抗の試験とする。
ルール5:如何なる場合でも指名まで人間を殺すことは禁ずる。
ルール6:指名に成功した場合、クラス代表者にAPを付与する。指名に失敗した場合、クラス代表者からAPを徴収する。付与、徴収するAPは時価や、評価によって変動する。